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第一章⑩

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 いつものように二人並んで夕食後のお茶を飲んでいる時だった。
 強めのノックの後、聞きなれた低く落ち着いた声が聞こえた。
 
「閣下、奥方様。ダンです。任務より戻りました」

「入れ」

「……。おくつろぎのところ申し訳ございません」

 そう言って入ってきたのは、一番最初に旦那様の家臣になってくれて、現在は騎士団の団長を務めるようになったダン。
 ダンは、北部では珍しい褐色の肌をしていた。金色の髪は後ろに撫でつけられていて、あの時のごろつきどものリーダーだった姿が嘘のようだった。
 男らしいワイルドな顔つきではあるが、面倒見のいいところが表情に現れていて、歳をとったからなのかは分からないけれど、出会った時よりも優し気な表情になっていた。
 でも、その頬には大き目の傷があり、その傷を見ると少しだけ胸が痛んだ。
 旦那様を命がけで守ってくれた、そして旦那様の絶対なる味方だという証。
 ぼんやりとダンの頬に傷を見ていると、旦那様に腰を抱き寄せられていた。
 
「駄目だ。ダンは駄目」

「え?」

 旦那様の急なダンへのダメ出しにわたしは首を傾げてしまう。
 任せた任務は滞りなく完遂して帰城するって連絡があったはずなのに?
 
「見つめるなら俺にして。ギネヴィアが望むなら全てを晒してもいい」

「はい?」

「そう。それなら」

 短くそう言った旦那様は何故かシャツのボタンを外し始めていた。
 何故そうなったのか全く理解できないわたしは、ぼんやりと鍛えられた胸板を見つめていたわ。
 ふむ。鍛えてあるけど、ガチガチの筋肉と言う訳ではなく、しなやかな筋肉って感じね。
 そんなことを考えていると、ダンの悲鳴が聞こえてきてわたしは我に返っていたの。
 
「のーーーーーーーーーーーぉ!! 破廉恥なことはいけません!! 閣下、駄目です! ストップです!! 奥方様はまだお小さいんですよ! 犯罪行為は駄目です!」

「は?」

「ですから……。いくらご夫婦だとしても、倫理的に……、ってあれ?」

「問題ない。ギネヴィアは合法だ」

「いえ、脱法です」

「合法」

「脱法」

 えっ? 何の話?
 何が合法なの? それに脱法って……?
 二人のやり取りが全く理解できないでいたわたしは、とりあえずお茶を飲むことにしたわ。
 ふぅ。やっぱり美味しいわ。
 北部でよく見る白い花から作ったフラワーティー。
 ほんのりとした甘さと、少しの酸味が合わさって癖になる美味しさなのよね。
 これに、リンゴジャムを入れて飲むのが最高に美味しいのよ。
 のんびりとお茶を啜っているうちに、よくわからない討論は終わっていたようで、ダンが咳払いの後に、改めて用件を口にしていた。
 
「ゴホン。改めまして、任務を遂行し帰還いたしました。今回の任務の詳しい報告書は後日提出します。それと、奥方様にサラン村から収穫祭への招待状を預かっています」

 そう言ったダンは、懐から一通の手紙を取り出してわたしに手渡したの。
 サラン村は、ここ公爵城から一番近い村よ。
 十年前、北部に来たばかりのわたしと旦那様が初めて訪れた村だった。
 サラン村の復興を足掛かりに、廃村寸前の村々の立て直し、空っぽの町の整備を進めて言ったのよね。
 そんな思い出深いサラン村からの招待にわたしは瞳を輝かせていたと思うの。
 
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