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第二章②

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 サラン村は、公爵城から近い村のため日帰りで行ける距離だった。
 しかし、収穫祭は終日行っているため、村長の好意で部屋を用意してもらうこととなった。
 通されたのは、今年オープン予定のサラン村初の宿屋の一室だった。
 十年前にはこんなに発展するとは誰も思ってもいなかった。
 ギネヴィアのとんでもない量の知識とそれを実行するための技術力。
 こんなにすごい人材を北部にとられたと、国王と王妃は歯ぎしりしているだろうな。
 ギネヴィアは、フェンサー伯爵の隠し子で俺と結婚する数か月前に引き取られたのだという。
 そして、その頃悪質な商人に騙されて傾きつつあった財政を持ち直し、さらには莫大な資産を生み出したのがギネヴィアだったのだ。
 しかし、どういう訳かその事実は巧妙に隠蔽されていたのだそうだ。
 
 まだ幼く、なんの知識もない俺を哀れに思った宰相が伴侶と共に北部行を国王と王妃に提言してくれたらしく、そのお陰で俺はギネヴィアと出会うことができた。
 最初は、フェンサー伯爵の本妻の娘を指名したそうだが、その令嬢を可哀相に思ってなのだろう、ギネヴィアがその令嬢の代わりに自ら俺の元に嫁ぐと言ってくれたのだというのだ。
 最初は俺の伴侶が資金源のあるフェンサー伯爵の令嬢だと知った王妃は強く反対したそうだが、最終的に庶子のギネヴィアだと知ると喜んで俺の伴侶に迎え入れたのだと聞いた。
 王妃は、庶子の子なら疎まれるはずだから、フェンサー伯爵も援助はしないだろうと考えたのだろうな。だが、王妃は条件を出していた。
 それが、供も援助もしてはならないという、フェンサー伯爵への命令を。
 王妃にとっては、どちらに転んでも憎い俺を死地に追いやれるわけだ。
 フェンサー伯爵は、庶子の子だとしても娘が大切ならばそれを断ればいい。そうなれば、元々の取り決め通り俺は一人で北部に行くだけだ。
 もし、庶子の子が疎まれていて、フェンサー伯爵が条件を飲んだとしても、所詮は庶子。何の役にも立たないと、そう考えた王妃は、喜んで俺とギネヴィアを北部に送ったのだろうな。
 
 それなのに、たった十年で北部は信じられないほどの発展を遂げていたのだ。
 最初の三年で地盤を固め、次の二年で利益を生み出すための準備を行い、五年で経済は潤い、他領からの移住者が殺到するほどにまでなっていた。
 
 中でも宝石加工業の収入が凄まじかった。
 割れやすいのに加工ができない屑宝石だと言われていた物を、ギネヴィアは加工してのけたのだ。
 その屑宝石はダイヤモンドと名付けられ、今では貴族連中が競って手に入れるようになっていた。
 
 その他にも、寒さに強い作物の普及と肥料の必要性。
 寒い場所でも暖かい地域の作物を育てるための設備の整備、普及。
 
 そして、寒さに耐えられるように家を快適な温度にするための構造を提案するのと同時に、薪を使わない新しい暖房器具の開発。
 それだけではなく、上下水道の設備と言った、生活をするうえでの清潔面にもギネヴィアはその手腕を発揮したのだ。
 それまでは、排泄物は埋めたり、地域によっては川に流すというところもあった。
 王都では、貴族家では使用人が不浄場と呼ばれる回収場に捨てていたが、庶民の家が集まる区画では、道端に捨てられていることも日常的に見られた光景だった。
 
 ギネヴィア曰く、それが不衛生で病気の元なのだとうだ。
 北部での食糧問題を解決するのと同時に、公爵城、城下街、そして現存する村や町の整備を進めていったのだ。
 整備が進むと誰しもが実感していた。
 それまで、病死する者が毎年のように多くいたのが嘘のように、病死の件数が激減していたのだ。
 
 十五歳の少女が持つには考えられない知識量だったことに誰も疑問を持つことはなかった。
 彼女の振る舞いが、俺たちに全く疑問を抱かせなかったのだ。
 当たり前のように、何でもないことのように、誰にでもその知識の恩恵を与えたのだ。
 だからだろうか、いつしか誰しもがギネヴィアを救いの女神だと崇拝するようになっていた。
 
 
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