(完)浮気ぐらいで騒ぐな?ーーそれを貴方が言うのですか?

青空一夏

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6 ヴィセンテの恋(アメリア視点)/ 金庫が開かないよぉ(イアン視点)

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🌷ヴィセンテの恋(アメリア視点) 



 あれからお姉様の子供達は正式に私の子供になった。子供が産めない私が、こんな愛らしい子供達の母親になれたことがとても嬉しい。

「アメリア様。カーティス様はとても優秀です。教えられたことをすぐに理解し、応用力もある。なにより、真面目で勤勉なところが素晴らしいです!」
 カーティスにつけた家庭教師が絶賛するところをみれば、将来とても期待できる医師になることができるだろう。

「アネット様も素晴らしく優秀ですよ。勉学にも励んでおりますが、こちらは音楽の才能もありそうですわ。ピアノがすばらしく上手です!」
 アネットにつけた家庭教師も得意そうだ。

「それなら、有名なピアニストの先生もつける必要があるわね! なんて嬉しいことでしょう! これなら、イシド伯爵家は安泰ね?」

「おっしゃる通りですね」
 家庭教師の2人が口を揃えて賛同してくれた。

 経理主任のイザベルは週に一回は別邸に来て大事な報告をしてくれる。

「あいつらは、この通りかなりお金を使い込んでいます。特にここ最近はベビー用品を買い込んでいますよ。必要経費と言って領収書を私に放り投げるんですよ! まったくどこまでアホで厚かましいのでしょうか!」
 帳簿を広げながら眉を潜めて言うイザベルに、私は朗らかな笑みをうかべた。だって、少しも悔しくないのですもの!

「あら、まぁずいぶんと派手に使ってくれていますわねぇ。イアン達は一生、きつい職場でただ働きね。にしても、使い込みすぎね。ここらへんで、ストップさせましょうか」
 私はそうつぶやくと、早速鍵師を呼んで屋敷と病院の鍵を替えるように言った。イシド伯爵家の金庫のシリンダーは取り外せるタイプのものなので、鍵が容易に交換できる。貴族の家の金庫は大抵がこのタイプで、解雇された使用人がいた場合は替えられるようになっていた。

 その昔解雇された使用人が結託してその貴族の金庫を荒らす事件が多発し、今は使用人が辞めるごとに鍵を替えるのが普通だった。

――もうイアンは夫は辞めるのだから、いいわよね。

 それからキャサリンのお腹が膨らむまでの4ヶ月ほどは、子供達とのんびりとこの別邸で過ごした。家庭教師も増やし、本邸から使用人もごっそりこちらに移動させた。

 子供達に懐かれたヴィセンテは頻繁にこの屋敷に訪れるようになった。正直、あまり懐かれても困る。彼は今独身だけれどいずれ結婚して子供もできるだろう。そうしたら、これほど頻繁に遊んでくれることはなくなる。

「あのぉーー。ヴィセンテ。ここに来すぎだと思わない?」
「え? すいません。迷惑でしたか? つい、子供達が可愛くて・・・・・・」

「えぇ、それはわかるわ。でも、ずっと可愛がれるわけではないでしょう? 貴方に家庭ができたら、あの子達を構えなくなるでしょう? その時になってがっかりするあの子達を見たくはないわ」

「あぁ、それなら大丈夫です。私は結婚するつもりはないですし、子供はあの子達で充分です」
「え? 結婚しないの? なんでよ」

「結婚したい女性はいます。でも、身分違いなので無理なんです。側にいられればそれだけで充分なほど好きな人です」
「まぁーー。それは知らなかったわ。身分違い・・・・・・相手は貴族ね・・・・・・そうね、平民と貴族は結婚は難しいわ」



――可哀想に。禁断の恋か・・・・・・相手は私の知っている女性かしら? 私の胸がチクりと痛んだのは、きっと気のせいだわ・・・・・・


 


🌷 金庫が開かないよぉ(イアン視点)



――旅行で、しこたま金を使いすぎたな。


 俺は病院に三日ぶりに出勤して、早速金庫室に入り鍵を差し込んだ。もちろん、財布に軍資金を詰める為だ。
だが、鍵をいくらまわしてみても開くことはなかった。

 事務長室の奥にある経理課にずかずかと乗り込み、責任者のイザベラを呼んだ。

「おい! 金庫が開かない! 鍵屋を呼べ! もたもたするな!」

「それはできかねます。アメリア様のご命令ですから」

「はぁーー? なんだよ! お前! クビにされたいか? あぁ、イザベラの鍵をよこせよ? 金庫の鍵を替えやがったんだろ? お前の持っている鍵なら開くってわけだ」

 俺の大声に、イザベラの両脇の机で事務作業をしていた若い男二人が俺の前に立ちはだかった。

「な、なんだよ? お前ら?」

「あぁ、私達はいつも屋敷を護衛している騎士ですよ。アメリア様にからイザベラさんを守るよう言われています。暇なんで、帳簿もこうして見てますがね。1番得意なのはナイフ投げです」

「私の得意なのは東洋の格闘技です。どうです? 今、ここで試してみますか?」

 その二人の男をよく見れば事務服の下の身体にはかなりの筋肉がつき、騎士というより殺し屋に近い迫力のある風貌だ。それでも、俺はひるむことなく勇気を出して叫んだんだ。

「おい! 俺は医院長だぞ! ここでは1番偉いんだぞ! 開けろぉーー!」

 その言葉を言った途端に二人の男に両脇を抱えられ廊下に放り出された。

――おかしいだろう? 俺は医院長なんだぞ! しかも正当なイシド伯爵家の跡取りの父親だ!
――くっそ! あの騎士達、いずれクビにしてやるぞ!

 屋敷に戻るとキャサリンが気晴らしに買い物に行きたいから金をくれと言ってきた。こないだ、かなりの大金を渡したばかりなのに。

「あのね、妊娠しているとホルモンのバランスが崩れるでしょう? だから、イライラしちゃうんだもん。お買い物してるとそれがすっきりするのよ。お願い」

「あぁ、それなら仕方ないな。かわいいイシド伯爵家の跡取りの為だ。屋敷の金庫を開けてもいいぞ」

「ほんと? じゃぁ、これからは私が勝手に開けてもいいわよね? 鍵をちょうだい」
 キャサリンが金庫の鍵穴に鍵を差し込んでも一向に扉は開かない。

 俺は執事を呼んだが、来やしない。そう言えば、侍女の数が少ない気がするのは気のせいか? 夕食の時間になっても料理が出てこないのはなんでだよ?
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