（完結）王太子妃の苦悩ーーなぜ私は王太子が嫌いになれないのでしょう？

9 リオナ視点 / クララ視点

　クラーク王太子が追放されてから私の頭はすっきりしていた。今まではなにか靄がかかっているようで、いろいろなことが落ち着いて考えられなかった気がする。今はなんだかすごく不思議な感じだわ。

　あれほどお慕いしていたクラーク王太子のことは全く気にならない。代わりに今までなんとも思っていなかったアルフォンス様を見るとドキドキした。今まで優しい言葉をかけてくださったのも、仕事を手伝ってくださったのもアルフォンス様だけだったもの。

　感謝の気持ちをお伝えしたい。そう思いアルフォンス様に近づくと強く抱きしめられた。

「今までお助けすることができなくて申し訳ありませんでした。ですが、もう大丈夫です。わたしが終生お守りします」
　私は王太子妃のままで、王太子がアルフォンス様に代わり新たに結婚式をやり直すことになった。

「悪い夢を見ていたようだ」

　両親もお兄様もそうおっしゃって、私に誠心誠意謝ってくださる。あるべき状態に全てのものが戻っていく。






　夫がアルフォンス様に変わると、私の生活は一変した。仕事の量は驚くほど少なくなり、夜会や舞踏会には着飾ってアルフォンス様と出席する。視察も一緒に行き、国の重要政策は私だけでなく、大臣達やアルフォンス様も加わった会議で決定した。

「本来はこうあるべきでした。リオナ様に全てを押しつけていた今までが異常だったのです」

　アルフォンス様に言われて私は静かにうなづく。ゆっくりと眠れる幸せ、身だしなみにも時間をかけられて、私の容姿は本来の姿を取り戻す。目の下のくまもなくなり、髪は艶やかに輝き肌はぷるぷるになった。

「とても綺麗ですよ。わたし達は夫婦になりましたが、リオナ様の気持ちを尊重して寝室は別にしましょう。一緒に寝ても良いと思えるようになったら、私が贈るこの宝石を胸につけてください」

　初夜となるべき日に手渡された宝石は、アルフォンス様の瞳の色と同じサファイアのブローチだ。そのように思える日はそう遠くない未来だと、私はブローチをそっと握りしめながら思うのだった。





完

　

おまけ（クララ視点）

　子供を産んだ後、あたしは娼館で犯罪奴隷として働いている。リオナ様の温情で2年間働けば許してもらえることになっていた。

　娼婦になったあたしは今までの人生を振り返った。低位貴族の頃にあれほど羨ましがった高位貴族の令嬢達、それを貶めた為に娼婦まで墜ちたあたし。あたしの生き方が間違っていたことは明白だ。

　男爵令嬢であることを卑下せず、自分に出来る範囲で最大限の努力を正しい方向でしていれば、今よりはずっと幸せになれたろうに･･････もうやり直せないところまで来て、やっと今更気がつくなんて･･････なんて愚かなんだろう？

　2年の刑期を終えて稼いだお金をリオナ様に手渡す日がきた。古びた教会の懺悔室で待っていると、リオナ様が護衛騎士を連れていらっしゃった。

「これからどうするのですか？」

「わかりません。貴族でもなく娼婦に墜ちたあたしが、刑期を終えたからといって普通の生活に戻れる気はしないです」

「刑を終えてから抜け殻のようになり命を絶つ人が多くいます。そのような方達の心のケアをする施設をつくろうと思います。あなたにはそのような人の気持ちがわかりますか？」

「えぇ、とてもよくわかります。あたしだって、死にたいって時々思いますから」

「それなら適任ですね。施設長となり、クララさんもそこで立ち直っていくといいでしょう。孤児院も隣接します。クララさんの子供もそこに入れば、たくさんの仲間と子育てができますよ」

「あたしは一人じゃないってこと？」

「えぇ、罪は許されました。反省したのならば、後は立ち直って正しい道を行くだけです」

　あたしはやっと自分の使命と居場所を見つけることができた気がした。だからね、もう高望みもしないけれど、必要以上に卑下もしない、ありのままの自分で生きようと思う。