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番外編
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私はロズリーヌ。ルヴェリア王国の聖女だった。私は今、お腹に子供を宿しての移動で体調をすっかり崩していた。”子流れの薬草”を使った料理を、ほんの少しだけれど口にしたことも影響しているのかもしれない。
幸い女性の御者を雇うことができ、私の世話も良くしてくれたのでそれはとてもありがたかったのだが、わずかな自分の宝石を売って調達した馬車は簡素な造りで振動が凄すぎた。
「聖女様、血が・・・・・・これ以上の移動は危険です。安静にしていなければお子が流れてしまいます」
「そうね。この子には本当に申し訳ないことをしたわ。このような時期に馬車で連日移動するなんて。でも、あの宮殿にいたら無理矢理堕ろさせられたと思うのです。どちらにしてもこの子の命は危険でした」
(気が遠くなる、私の赤ちゃんはどうなるの? 聖女なのに自分の身体は癒やせないなんて、とんだポンコツだわ。不甲斐ないお母様でごめんね)
子供に謝りながら私は意識を手放した。ここは隣国へ向かう森の中で、あともう一息でシンクレア王国だというのに・・・・・・。
目が覚めるとふかふかのベッドに横たわっていた。
「お目覚めですか、聖女様。ここはシンクレア王国の宮殿です。アンドリュース王太子殿下がたまたま森で狩りをなさっておりましたので、助けていただくことができました」
「私のお腹の子どもは?」
自分の身体に異変を感じる。子供の気配を感じることができないのだ。
「残念です、聖女様・・・・・・」
「!!」
聖女なのに人を呪うなんて本当はいけないことだ。けれど許せない。私が口にしたあの料理・・・・・・絶対に”子流れの薬草”を使ったものではない気がしたのだ。
「神よ、バレリーがいつでも可能な限り最大限に子宝に恵まれますように」
これは祝福の言葉だけれど、結界をバレリーの妊娠と紐付けることで呪いともなったのだ。
「この手紙をルヴェリア王国の神殿に隠してほしいのです。見つけやすい場所にお願いします」
私はバレリー達に手紙が渡るようにアンドリュース王太子殿下にお願いする。私の復讐の始まりだった。子供を失った悲しみと怒りで、この時の私は理性がなくなっていたのかもしれない。
私はシンクレア王国で新たに聖女になり、以前と違いとても大切にされた。子供が流れたこともアンドリュース王太子殿下は一緒に悲しんでくださった。賢く人望があり、なにをするにも思いやりがあるアンドリュース王太子殿下。
同じ王族なのに国が違うとこれほどまでに人間の器が違うのか。やがてアンドリュース様と愛が芽生え、1年後には結婚、さらにその半年後に懐妊したことがわかった。
「とても嬉しいよ。これからは親子でもっと幸せになろう」
アンドリュース様はシンクレア国王になり、私達は満ち足りた思いで穏やかに暮らしている。
「ロズリーヌ王妃殿下、本当に夢のようですね。きっとこうなる為に辛いことがあったのですわ」
かつて祖国から逃亡する時に御者に雇ったクララは、今は私の専属侍女だ。
「アンドリュース様。私は今とても幸せなので、妹にかけた呪いのような祝福を後悔しています。一度神に祈ってしまえば取り返しのつかないことでしたのに・・・・・・浅はかでした」
「どのような呪いをかけたのかな?」
私はアンドリュース様の問いに全てをお話しした。
「バレリーは少しも気の毒とは思わないが、産まれてくる子供達が心配だね。それにあの国の民達も結界が弱まると魔獣に襲われてしまう。ルヴェリア王国の民を少しづつこちらに移住させよう。それから、バレリーが産んだ王子達とも接触を試みるよ。シンクレア国で頑張れる人材なら、こちらに来てもらおう。優秀な子供があの国で滅びてしまうのは忍びない」
私はアンドリュース様との間に2人の王子アデルバートとラヴィーンを産んだ。翌年には王女アリエルをもうけ、次々に迎えた養子は9人になった。この9人はバレリーの産んだ王子達だ。
賢い王子達は自分達が戦って死んだように小細工し、シンクレア王国にやって来た。あの国の未来に光はない、と感じたからだ。
私とアンドリュース様は、9人のバレリーの子供達と自分達の子供を平等に愛し育てる。ルヴェリア王国が完全に魔獣の手に落ちる前に民は皆、シンクレア王国側に避難させた。
ルヴェリア王国宮殿に魔獣が攻め入りバレリーが殺されたであろう瞬間、私は神に祈った。
「バレリーが心を入れ替えられるように、神様、あちらでもご指導をお願いいたします。邪悪な者どもが清い心を持つようになるまで、温かく見守ってくださいませ」
そうして私は優しい夫とたくさんの子供達に囲まれ、最高に幸せな毎日を過ごすのだった。
おまけ(バレリー視点)
「バレリーが心から悔い改めれば呪いは解けたのですよ。ロズリーヌは聖女ですからね。本人は気づいていませんが、ロズリーヌは救いのある呪いしかかけられません。ところでお前がエメラルド宮のコックに渡したのは”子流れの薬草”じゃなくて猛毒だったのをわたしは知っていますよ。聖女だから死ななかっただけで、お腹の子供はそれに耐えられず死にました。姉を殺そうとするなんてクズですね」
まばゆい光に包まれた天使?が私を責めた。
「だってお姉様がいけないのよ。私は王太子妃になってもそれほど楽しくなかった。聖女様であるお姉様の方が楽そうだし、多くの民衆達からは国王陛下よりも尊敬されていたわ。ずるいじゃない! なんで私を聖女にしなかったのよ? 神様が一番悪いかも」
死ぬ間際にお姉様に許しを請うたのも忘れ、私はまた悪態をつく。あの魔獣に襲われた時は本当に怖かったけれど、もう死んだのなら怖い物なんてないわ。
「うっわ。すごい、性悪女が来たね。待っていたよ、君を!」
ポワンと目の前に、ぞっとするほどの美貌の男性が現れてにっこりと微笑んだ。
「わたしのところにおいでよ。きっと君を退屈させない自信がある」
「すっごいイケメンだし、行くわ」
「あぁ、残酷の冥界王について行っちゃいましたね。あの神の最近のブームは映画の世界に罪人を放り込むことだと言っていましたが。なんでも生きた人間をそのまま蝋人形にする映画だとか・・・・・・怖い、怖い」
天使がつぶやいた声はもちろんバレリーには聞こえなかった。
おしまい
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※残酷の冥界王:作者の小説に頻繁に登場する美貌の神様。多分性別は男で、小説や漫画、ゲームや映画の残酷シーンに罪人の死者を放り込み楽しむ。この神に捕まると、何千回も死の苦痛を体験しなければならない。悪魔、閻魔様、いろいろな名前で呼ばれている存在で、青空世界では神様の一種として扱われている。
幸い女性の御者を雇うことができ、私の世話も良くしてくれたのでそれはとてもありがたかったのだが、わずかな自分の宝石を売って調達した馬車は簡素な造りで振動が凄すぎた。
「聖女様、血が・・・・・・これ以上の移動は危険です。安静にしていなければお子が流れてしまいます」
「そうね。この子には本当に申し訳ないことをしたわ。このような時期に馬車で連日移動するなんて。でも、あの宮殿にいたら無理矢理堕ろさせられたと思うのです。どちらにしてもこの子の命は危険でした」
(気が遠くなる、私の赤ちゃんはどうなるの? 聖女なのに自分の身体は癒やせないなんて、とんだポンコツだわ。不甲斐ないお母様でごめんね)
子供に謝りながら私は意識を手放した。ここは隣国へ向かう森の中で、あともう一息でシンクレア王国だというのに・・・・・・。
目が覚めるとふかふかのベッドに横たわっていた。
「お目覚めですか、聖女様。ここはシンクレア王国の宮殿です。アンドリュース王太子殿下がたまたま森で狩りをなさっておりましたので、助けていただくことができました」
「私のお腹の子どもは?」
自分の身体に異変を感じる。子供の気配を感じることができないのだ。
「残念です、聖女様・・・・・・」
「!!」
聖女なのに人を呪うなんて本当はいけないことだ。けれど許せない。私が口にしたあの料理・・・・・・絶対に”子流れの薬草”を使ったものではない気がしたのだ。
「神よ、バレリーがいつでも可能な限り最大限に子宝に恵まれますように」
これは祝福の言葉だけれど、結界をバレリーの妊娠と紐付けることで呪いともなったのだ。
「この手紙をルヴェリア王国の神殿に隠してほしいのです。見つけやすい場所にお願いします」
私はバレリー達に手紙が渡るようにアンドリュース王太子殿下にお願いする。私の復讐の始まりだった。子供を失った悲しみと怒りで、この時の私は理性がなくなっていたのかもしれない。
私はシンクレア王国で新たに聖女になり、以前と違いとても大切にされた。子供が流れたこともアンドリュース王太子殿下は一緒に悲しんでくださった。賢く人望があり、なにをするにも思いやりがあるアンドリュース王太子殿下。
同じ王族なのに国が違うとこれほどまでに人間の器が違うのか。やがてアンドリュース様と愛が芽生え、1年後には結婚、さらにその半年後に懐妊したことがわかった。
「とても嬉しいよ。これからは親子でもっと幸せになろう」
アンドリュース様はシンクレア国王になり、私達は満ち足りた思いで穏やかに暮らしている。
「ロズリーヌ王妃殿下、本当に夢のようですね。きっとこうなる為に辛いことがあったのですわ」
かつて祖国から逃亡する時に御者に雇ったクララは、今は私の専属侍女だ。
「アンドリュース様。私は今とても幸せなので、妹にかけた呪いのような祝福を後悔しています。一度神に祈ってしまえば取り返しのつかないことでしたのに・・・・・・浅はかでした」
「どのような呪いをかけたのかな?」
私はアンドリュース様の問いに全てをお話しした。
「バレリーは少しも気の毒とは思わないが、産まれてくる子供達が心配だね。それにあの国の民達も結界が弱まると魔獣に襲われてしまう。ルヴェリア王国の民を少しづつこちらに移住させよう。それから、バレリーが産んだ王子達とも接触を試みるよ。シンクレア国で頑張れる人材なら、こちらに来てもらおう。優秀な子供があの国で滅びてしまうのは忍びない」
私はアンドリュース様との間に2人の王子アデルバートとラヴィーンを産んだ。翌年には王女アリエルをもうけ、次々に迎えた養子は9人になった。この9人はバレリーの産んだ王子達だ。
賢い王子達は自分達が戦って死んだように小細工し、シンクレア王国にやって来た。あの国の未来に光はない、と感じたからだ。
私とアンドリュース様は、9人のバレリーの子供達と自分達の子供を平等に愛し育てる。ルヴェリア王国が完全に魔獣の手に落ちる前に民は皆、シンクレア王国側に避難させた。
ルヴェリア王国宮殿に魔獣が攻め入りバレリーが殺されたであろう瞬間、私は神に祈った。
「バレリーが心を入れ替えられるように、神様、あちらでもご指導をお願いいたします。邪悪な者どもが清い心を持つようになるまで、温かく見守ってくださいませ」
そうして私は優しい夫とたくさんの子供達に囲まれ、最高に幸せな毎日を過ごすのだった。
おまけ(バレリー視点)
「バレリーが心から悔い改めれば呪いは解けたのですよ。ロズリーヌは聖女ですからね。本人は気づいていませんが、ロズリーヌは救いのある呪いしかかけられません。ところでお前がエメラルド宮のコックに渡したのは”子流れの薬草”じゃなくて猛毒だったのをわたしは知っていますよ。聖女だから死ななかっただけで、お腹の子供はそれに耐えられず死にました。姉を殺そうとするなんてクズですね」
まばゆい光に包まれた天使?が私を責めた。
「だってお姉様がいけないのよ。私は王太子妃になってもそれほど楽しくなかった。聖女様であるお姉様の方が楽そうだし、多くの民衆達からは国王陛下よりも尊敬されていたわ。ずるいじゃない! なんで私を聖女にしなかったのよ? 神様が一番悪いかも」
死ぬ間際にお姉様に許しを請うたのも忘れ、私はまた悪態をつく。あの魔獣に襲われた時は本当に怖かったけれど、もう死んだのなら怖い物なんてないわ。
「うっわ。すごい、性悪女が来たね。待っていたよ、君を!」
ポワンと目の前に、ぞっとするほどの美貌の男性が現れてにっこりと微笑んだ。
「わたしのところにおいでよ。きっと君を退屈させない自信がある」
「すっごいイケメンだし、行くわ」
「あぁ、残酷の冥界王について行っちゃいましたね。あの神の最近のブームは映画の世界に罪人を放り込むことだと言っていましたが。なんでも生きた人間をそのまま蝋人形にする映画だとか・・・・・・怖い、怖い」
天使がつぶやいた声はもちろんバレリーには聞こえなかった。
おしまい
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※残酷の冥界王:作者の小説に頻繁に登場する美貌の神様。多分性別は男で、小説や漫画、ゲームや映画の残酷シーンに罪人の死者を放り込み楽しむ。この神に捕まると、何千回も死の苦痛を体験しなければならない。悪魔、閻魔様、いろいろな名前で呼ばれている存在で、青空世界では神様の一種として扱われている。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(29件)
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完結おめでとうございます。
子供のことは少し残念ですが、
新しい幸せをつかめてよかった。
それにしてもバレリーはチャンスをふいにしましたね。
自業自得。
おさまるところにおさまって、
めでたしめでたし(^^)
お返事が遅くなってごめんなさい🙇🏻♀️
>完結おめでとうございます
ありがとうございます🎶
はい、新しい幸せをつかみました💕
>ヴァレリーは自業自得
ですね、作者もそう思います🤔
>見れたしめでたし
はい、ありがとうございます😆
最後までお読みいただきありがとうございます🙇🏻♀️
完結おめでとうございます。
めっちゃ面白かったです。
バレリーのざまぁと王子2人のざまぁと両親のざまぁが読みたいです。
______
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Γ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
| ♚ ♚| |
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| ♚ ♚| |
ガラッ |_______| |
.彡/(´・ω・) /| |
Γ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |/
L______|/
こんにちわ🌷🌈
感想ありがとうございます😄🎶
>完結おめでとうございます
ありがとうございます🙇🏻♀️
>めちゃ面白かったです
ありがとうございます🎶🌷
>バレリーのざまぁ
これはもう魔獣に食い殺されるところでざまぁ になってると思うのですが💦
>王子2人と両親のざまぁ
同じく魔獣に食い殺される末路ですの想像の翼を広げていただけるとありがたいです(*-∀-*)ゞエヘヘ
【妄想劇場~続き】
「や、やっと「8」が終わったわ……「9」が出てないことは確認済みよ!やっと自由に……」
「次は「RE:2」その次は「RE:3」ね。もうじき「RE:4」が出るよ」
「いやぁぁぁぁ!!」
イケメンハザードは終わらない……
( ー̀ωー́)⁾⁾ウンウン
永遠に続くのねwww
ところでさぁ
全然終わらない漫画とかもあるよね😓
残酷なやつじゃないけど
王家の紋章とかさぁ 一体いつ終わるんだ😫
感想ありがとうございます🙇🏻♀️🌷