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6 ジェイコブ・パーシー大司教一家の末路(ジェイコブ視点)
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ジェイコブ視点
スワンは化け物だ! 僕だって身体は普通の男よりは鍛えていたから断じて弱いわけではない。それなのに腕をいとも簡単にねじりあげられ、気づいたら床の上に叩きつけられ皮膚が裂けていた。おまけに鼻血まで吹きだしていたのだ。
医者を呼んでくれと叫んでいるのに誰も相手にしてくれない。父上は大司教だけれど今日の夜会には出席していなかった。もはや出血多量の貧血で倒れそうだ。
スワンはこのような傷などで死んだら奇跡だと言ったが、その奇跡が今起ころうとしているのがなぜ皆にわからないんだよ! おまけにピンクナはジョシュアにしなだれかかっているし意味がわからない。
「ピンクナ! 君はチャーリー王子と想い合っているのだろう? 今すぐ離れて、なんなら僕と一緒になるべきでは?」
思わず言った言葉に大公様の鋭い視線が刺さる。
「お前はなんだっけ? お前がした娘へのプレゼントは?」
「お父様、この者はわたくしの足を引っかけて膝をすりむかせただけですわ。もうすでにお返しはしましから、それ以上は身体には危害を及ばす必要はありません」
「ふーーん。身体には危害を及ばさないとも。しかし、そいつの行動は親の躾けがなっていなかったからだろう? 親にも責任をとってもらわんとな! お前の両親は? あぁ、大司教なのか? ならちょうど良い。すぐにも大司教から退き、我が領土の最北端の牧師をしてもらえるとありがたい。あそこの牧師は最近腰を痛めて引退したからなぁ」
「あら、いいですわね! あそこはほとんど雪と氷で埋もれている世界。住人はけっして多くはないですが教会に牧師様は必要ですわ。まぁ、ほとんど野生の動物のほうが多いですけれど」
「もしかして世界で一番寒いと言われている僻地のことですか? あんなところに行ったらなにもないですし、太陽も数時間しか照らない氷の地ですよ!」
「だからこそお前にぴったりだろう? 私の娘に怪我を負わせたのだから頭をそこで冷やすのだ。躾を怠ったお前の両親も頭を冷やせるぞ。死罪にならなかっただけでもありがたいと思え! ドラモンド帝国の皇帝なら、お前は即刻八つ裂きの刑だと思う」
「ひぃ~~。そ、そんな……スワンはちょっと膝をすりむいただけじゃないですか? 殺したわけでもないのに」
「ふふふ。スワンを殺したら八つ裂きなんて生ぬるいわ。この世の地獄を全て味わうことができる旅に一生かけて行くことになる。簡単に殺しはしない」
「あ、僻地でいいです。八つ裂きよりはだいぶマシですし……」
僕は慌ててその処分を受け入れたのだった。
――こんな危険なオヤジの娘なら、なんで言ってくれなかったんだよぉおおお? これも皆チャーリー王子殿下が悪い! ちゃんとスワンの素性を把握して僕に教えてくれておいたら、いつも大切に守って傅いていたのに!
そう思ったらピンクナまで憎たらしくなり思わず彼女を睨み付けた。
「お前は浮気者だ! チャーリー王子殿下がいながら僕にまで言い寄ってきたくせに! チャーリー王子にはナイショでたまには二人っきりで会いましょうね、なんて会う度に誘ってきただろう? なのに、今度は大帝国の皇帝の息子かよ? この淫乱女っ!」
とりあえず捨てセリフは吐いてやったが、僕の処分は大公様のおっしゃり通りになった。
パーシー大司教家は貴族籍から除名され、僕と両親はわずかな使用人を連れて氷の地に赴いた。
ここは人が住んでいる最北端の地。一年の半分ほどは一日中太陽が昇らない「極夜」。雪熊と呼ばれる凶暴な熊が住み着いているため銃を必ず持ち歩く。人間の数より多い雪熊に僕は怖くて外も出ることができない。
住民は言うよ。
「静寂を楽しむ地」だと。でも僕は温暖なハームズワース国で育ち華やかな暮らしと賑やかな市井の賑わいが大好きだった。だから、ここは地獄だ。
空を見上げると綺麗な七色のカーテンが浮かぶこともある。それがとても神秘的だと住人は言うけれど僕にはなんの魅力も感じられない。ただ華やかな賑わいのあったハームズワース国の王都がたまらなく恋しい。
氷と暗闇、雪と雪熊、それしかない世界で僕はひたすら後悔している。スワン様の足をひっかっけて転ばせたことを……にしても……これって罰が重すぎないかい?
スワンは化け物だ! 僕だって身体は普通の男よりは鍛えていたから断じて弱いわけではない。それなのに腕をいとも簡単にねじりあげられ、気づいたら床の上に叩きつけられ皮膚が裂けていた。おまけに鼻血まで吹きだしていたのだ。
医者を呼んでくれと叫んでいるのに誰も相手にしてくれない。父上は大司教だけれど今日の夜会には出席していなかった。もはや出血多量の貧血で倒れそうだ。
スワンはこのような傷などで死んだら奇跡だと言ったが、その奇跡が今起ころうとしているのがなぜ皆にわからないんだよ! おまけにピンクナはジョシュアにしなだれかかっているし意味がわからない。
「ピンクナ! 君はチャーリー王子と想い合っているのだろう? 今すぐ離れて、なんなら僕と一緒になるべきでは?」
思わず言った言葉に大公様の鋭い視線が刺さる。
「お前はなんだっけ? お前がした娘へのプレゼントは?」
「お父様、この者はわたくしの足を引っかけて膝をすりむかせただけですわ。もうすでにお返しはしましから、それ以上は身体には危害を及ばす必要はありません」
「ふーーん。身体には危害を及ばさないとも。しかし、そいつの行動は親の躾けがなっていなかったからだろう? 親にも責任をとってもらわんとな! お前の両親は? あぁ、大司教なのか? ならちょうど良い。すぐにも大司教から退き、我が領土の最北端の牧師をしてもらえるとありがたい。あそこの牧師は最近腰を痛めて引退したからなぁ」
「あら、いいですわね! あそこはほとんど雪と氷で埋もれている世界。住人はけっして多くはないですが教会に牧師様は必要ですわ。まぁ、ほとんど野生の動物のほうが多いですけれど」
「もしかして世界で一番寒いと言われている僻地のことですか? あんなところに行ったらなにもないですし、太陽も数時間しか照らない氷の地ですよ!」
「だからこそお前にぴったりだろう? 私の娘に怪我を負わせたのだから頭をそこで冷やすのだ。躾を怠ったお前の両親も頭を冷やせるぞ。死罪にならなかっただけでもありがたいと思え! ドラモンド帝国の皇帝なら、お前は即刻八つ裂きの刑だと思う」
「ひぃ~~。そ、そんな……スワンはちょっと膝をすりむいただけじゃないですか? 殺したわけでもないのに」
「ふふふ。スワンを殺したら八つ裂きなんて生ぬるいわ。この世の地獄を全て味わうことができる旅に一生かけて行くことになる。簡単に殺しはしない」
「あ、僻地でいいです。八つ裂きよりはだいぶマシですし……」
僕は慌ててその処分を受け入れたのだった。
――こんな危険なオヤジの娘なら、なんで言ってくれなかったんだよぉおおお? これも皆チャーリー王子殿下が悪い! ちゃんとスワンの素性を把握して僕に教えてくれておいたら、いつも大切に守って傅いていたのに!
そう思ったらピンクナまで憎たらしくなり思わず彼女を睨み付けた。
「お前は浮気者だ! チャーリー王子殿下がいながら僕にまで言い寄ってきたくせに! チャーリー王子にはナイショでたまには二人っきりで会いましょうね、なんて会う度に誘ってきただろう? なのに、今度は大帝国の皇帝の息子かよ? この淫乱女っ!」
とりあえず捨てセリフは吐いてやったが、僕の処分は大公様のおっしゃり通りになった。
パーシー大司教家は貴族籍から除名され、僕と両親はわずかな使用人を連れて氷の地に赴いた。
ここは人が住んでいる最北端の地。一年の半分ほどは一日中太陽が昇らない「極夜」。雪熊と呼ばれる凶暴な熊が住み着いているため銃を必ず持ち歩く。人間の数より多い雪熊に僕は怖くて外も出ることができない。
住民は言うよ。
「静寂を楽しむ地」だと。でも僕は温暖なハームズワース国で育ち華やかな暮らしと賑やかな市井の賑わいが大好きだった。だから、ここは地獄だ。
空を見上げると綺麗な七色のカーテンが浮かぶこともある。それがとても神秘的だと住人は言うけれど僕にはなんの魅力も感じられない。ただ華やかな賑わいのあったハームズワース国の王都がたまらなく恋しい。
氷と暗闇、雪と雪熊、それしかない世界で僕はひたすら後悔している。スワン様の足をひっかっけて転ばせたことを……にしても……これって罰が重すぎないかい?
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