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5 私も養女になりたい(アメリ視点)
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「クララ? まさか・・・・・・妹のクララに久しぶりに会えるなんて、なんて嬉しいの! この前はごめんなさいね。あれは心にも思っていない冗談だったのよ」
「初めまして! 私はクララ・サマセット侯爵令嬢ですわ。 クララは確かに私の名前ですが、私に姉はおりませんよ」
「なにを言うの? 私は姉のアメリじゃないの? 忘れたと言うの? ほらずっと仲良しだったわよね?」
「さぁ? 仲良しだった記憶はありません」
ツンと澄ましたクララは空色のドレスをまとい、髪はとても優雅に結われていた。見違えるように綺麗にはなっていたが妹のクララに間違いないのに。
けれどよく見れば確かに綺麗すぎたし話し方のアクセントも上位貴族の独特の発音だった。マナーもダンスも完璧で到底貴族学園に行かなかったクララができることではなかった。
こんなに世の中には似た人がいるの? びっくりだわ。とにかく、なんとしても仲良くならなければいけないわ。
気の利いた言葉をかけようと再度クララに近づき首のあたりに視線をむけると、ちょうどホクロが二等辺三角形の頂点のように並んでいるのが見えた。
クララのホクロはとても珍しくて、幼い頃に少しだけからかったこともあるからよく覚えていた。
「やっぱりクララじゃない? なぜ、初対面のふりをするのかしら? アーバスノット家ではとても仲良くしていたでしょう? 最後に会ったときの話はジョークなのよ。あなたはいつまでも私の妹よ」
「ふっ。貴族学園に行っていない者は恥ずかしいのでしょう? ハワード伯爵家の方達に笑われてしまうからいないことにしたい、と仰いましたよね?」
「嫌ねぇ。ちょっとした冗談よ。おほほほ」
私は慌てて笑って誤魔化した。
なぜ、クララがサマセット侯爵令嬢になっているのかなんてこの際どうでもいい。とにかく、これはチャンスよ。前みたいに仲良くすれば私には有利になるんだから。
「ハワード伯爵家ではアメリ・アーバスノット嬢と縁を結ぶことは決定事項かい? 僕は賛成できないし伯母上も賛成しないよ。エジャートン侯爵家とサマセット候爵家は、今後一切、ハワード伯爵家への援助及び優遇等は取りやめる。」
しなやかな体つきの絶世の美男子が恐ろしいくらいドスの利いた声でハワード家の嫡男のチャーリー様に宣言し、さっさとクララを連れて帰ろうとした。
「ヘンリー様、お待ちください! そんな一方的に仰られましてもわけがわかりません」
気が動転したチャーリーは、私の顔とヘンリー様の顔を交互に見つめていた。
「わけ? それはそのアメリに聞けばわかるんじゃないかな? 僕の番を迫害する一族と結婚するならハワード伯爵家も同罪だ」
「迫害・・・・・・? アメリ! 君の家には妹なんていないはずだよな? どういうことか説明してもらおうか?」
「えぇーーと、・・・・・・妹はいないと申しましたが実はいて・・・・・・なんというかその・・・・・・」
「まさか、嘘をついていたのか? アメリの戸籍謄本には妹なんて記載はなかったぞ」
「そ、それは・・・・・・えっとお父様がクララの後見人になっていただけで・・・・・・単純なお話ですのよ」
「甘い汁を吸い放題の後見人よね? ・・・・・・どうやら長くて複雑な話のようですわねぇ」
背後から声をかけてきたのは品のある老婦人で、ゆったりとした自信に満ちた仕草は威圧感に溢れていた。
「できそこないの弟はずいぶんとやりたい放題だったようですね。アメリ様は正統な相続人のお金を不当に奪って上級学園に行ったのでしょう? 浅ましいこと! 人のパイを横取りしてむさぼり食らうってとても楽しいことだったわよねぇ?」
ーーなんなの? このおばさん! なにもかもお見通しみたいに言ってくるわ。
「はぁ? 誰よ、あんた! うっるさいわよぉおおおーー。関係ない部外者はすっこんでなさいよ」
私はそう言いながらその老婦人を突き飛ばした。
突き飛ばしたはずの老婦人はそのまま背筋を伸ばして立っており、なぜか私の方が庭園の噴水の下までふっとばされていたのだった。
噴水の水を頭からかぶった私はびしょ濡れになった。
「なによぉおーー! あんのばばぁ! どうしてあんなに力があるのよ! おっかしいじゃない!」
私は大きすぎる独り言をついつぶやいてしまった。
「アメリ! あの方はサマセット侯爵未亡人だ。豹獣人の純血種だから人間より力があるんだよ! うちの事業はサマセット家とエジャートン家に支えられているんだぞ!」
私は自分でどんどん墓穴を掘っていくようだ。傍らにいた両親はすっかり青ざめてぶるぶると震えていた。
ーーどうしよう。サマセット侯爵未亡人に取り入って私だけは責められないで済む方法はないかしら? あぁ、みんなお母様達のせいにすればいいわよね?
「そもそもお母様達が企んだことで、私はなにも知りませんわ。サマセット侯爵未亡人様、私はとてもクララを可愛がっていたんですよ。そう、いつだって私はクララを大事に思っていたんですよ。サマセット侯爵未亡人様だとは知らずにしてしまった無礼をどうかお許し下さい。大切な妹の面倒を見てくださったなんてありがとうございます。私もお母様とお呼びしてもよろしいでしょう?」
「は? なぜ、あなたにお母様と呼ばれなければならないのかしら?」
「まぁ、だって愛する妹のお母様になられたのなら、私のお母様も同然ですわ!」
私はとてもいい考えだと思った。全ての責任は両親にあるし、クララを引き取ってくれたサマセット侯爵未亡人なら私も養女にしてくれるかもしれない。
「初めまして! 私はクララ・サマセット侯爵令嬢ですわ。 クララは確かに私の名前ですが、私に姉はおりませんよ」
「なにを言うの? 私は姉のアメリじゃないの? 忘れたと言うの? ほらずっと仲良しだったわよね?」
「さぁ? 仲良しだった記憶はありません」
ツンと澄ましたクララは空色のドレスをまとい、髪はとても優雅に結われていた。見違えるように綺麗にはなっていたが妹のクララに間違いないのに。
けれどよく見れば確かに綺麗すぎたし話し方のアクセントも上位貴族の独特の発音だった。マナーもダンスも完璧で到底貴族学園に行かなかったクララができることではなかった。
こんなに世の中には似た人がいるの? びっくりだわ。とにかく、なんとしても仲良くならなければいけないわ。
気の利いた言葉をかけようと再度クララに近づき首のあたりに視線をむけると、ちょうどホクロが二等辺三角形の頂点のように並んでいるのが見えた。
クララのホクロはとても珍しくて、幼い頃に少しだけからかったこともあるからよく覚えていた。
「やっぱりクララじゃない? なぜ、初対面のふりをするのかしら? アーバスノット家ではとても仲良くしていたでしょう? 最後に会ったときの話はジョークなのよ。あなたはいつまでも私の妹よ」
「ふっ。貴族学園に行っていない者は恥ずかしいのでしょう? ハワード伯爵家の方達に笑われてしまうからいないことにしたい、と仰いましたよね?」
「嫌ねぇ。ちょっとした冗談よ。おほほほ」
私は慌てて笑って誤魔化した。
なぜ、クララがサマセット侯爵令嬢になっているのかなんてこの際どうでもいい。とにかく、これはチャンスよ。前みたいに仲良くすれば私には有利になるんだから。
「ハワード伯爵家ではアメリ・アーバスノット嬢と縁を結ぶことは決定事項かい? 僕は賛成できないし伯母上も賛成しないよ。エジャートン侯爵家とサマセット候爵家は、今後一切、ハワード伯爵家への援助及び優遇等は取りやめる。」
しなやかな体つきの絶世の美男子が恐ろしいくらいドスの利いた声でハワード家の嫡男のチャーリー様に宣言し、さっさとクララを連れて帰ろうとした。
「ヘンリー様、お待ちください! そんな一方的に仰られましてもわけがわかりません」
気が動転したチャーリーは、私の顔とヘンリー様の顔を交互に見つめていた。
「わけ? それはそのアメリに聞けばわかるんじゃないかな? 僕の番を迫害する一族と結婚するならハワード伯爵家も同罪だ」
「迫害・・・・・・? アメリ! 君の家には妹なんていないはずだよな? どういうことか説明してもらおうか?」
「えぇーーと、・・・・・・妹はいないと申しましたが実はいて・・・・・・なんというかその・・・・・・」
「まさか、嘘をついていたのか? アメリの戸籍謄本には妹なんて記載はなかったぞ」
「そ、それは・・・・・・えっとお父様がクララの後見人になっていただけで・・・・・・単純なお話ですのよ」
「甘い汁を吸い放題の後見人よね? ・・・・・・どうやら長くて複雑な話のようですわねぇ」
背後から声をかけてきたのは品のある老婦人で、ゆったりとした自信に満ちた仕草は威圧感に溢れていた。
「できそこないの弟はずいぶんとやりたい放題だったようですね。アメリ様は正統な相続人のお金を不当に奪って上級学園に行ったのでしょう? 浅ましいこと! 人のパイを横取りしてむさぼり食らうってとても楽しいことだったわよねぇ?」
ーーなんなの? このおばさん! なにもかもお見通しみたいに言ってくるわ。
「はぁ? 誰よ、あんた! うっるさいわよぉおおおーー。関係ない部外者はすっこんでなさいよ」
私はそう言いながらその老婦人を突き飛ばした。
突き飛ばしたはずの老婦人はそのまま背筋を伸ばして立っており、なぜか私の方が庭園の噴水の下までふっとばされていたのだった。
噴水の水を頭からかぶった私はびしょ濡れになった。
「なによぉおーー! あんのばばぁ! どうしてあんなに力があるのよ! おっかしいじゃない!」
私は大きすぎる独り言をついつぶやいてしまった。
「アメリ! あの方はサマセット侯爵未亡人だ。豹獣人の純血種だから人間より力があるんだよ! うちの事業はサマセット家とエジャートン家に支えられているんだぞ!」
私は自分でどんどん墓穴を掘っていくようだ。傍らにいた両親はすっかり青ざめてぶるぶると震えていた。
ーーどうしよう。サマセット侯爵未亡人に取り入って私だけは責められないで済む方法はないかしら? あぁ、みんなお母様達のせいにすればいいわよね?
「そもそもお母様達が企んだことで、私はなにも知りませんわ。サマセット侯爵未亡人様、私はとてもクララを可愛がっていたんですよ。そう、いつだって私はクララを大事に思っていたんですよ。サマセット侯爵未亡人様だとは知らずにしてしまった無礼をどうかお許し下さい。大切な妹の面倒を見てくださったなんてありがとうございます。私もお母様とお呼びしてもよろしいでしょう?」
「は? なぜ、あなたにお母様と呼ばれなければならないのかしら?」
「まぁ、だって愛する妹のお母様になられたのなら、私のお母様も同然ですわ!」
私はとてもいい考えだと思った。全ての責任は両親にあるし、クララを引き取ってくれたサマセット侯爵未亡人なら私も養女にしてくれるかもしれない。
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