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第3話
しおりを挟む「エリーシュ殿、申し訳ありません」
宰相は深々と頭を垂れる。侯爵夫人は倒れる寸前だ。
「構いませんわ宰相様、今は夫人を休ませてあげてくださいませ」
「そんな、エリーシュ様の方が痛々しいですのに、私が休むわけには…」
「いいえ、大丈夫ですわ。私には、カルディオ様もおりますから」
カルディオ様を見上げると、力強く頷いてくれる。
周囲に張り巡らされた氷は、音もなく消えていく。エリーシュが力を送るのを止めたからだ。
ふらつく体をカルディオ様が、支え抱き抱える。
数日後、王宮に呼び出され、カルディオ様と向かう。
そこで話されたのは、バカンド様とマモレイナ様、アルホォ様、マーヌル様の処遇の事でした。
騎士団長様、魔術師局長様も招集されており話に加わる。
「此度のことは、同盟諸国にも知れ渡っておる。生半可な罰では示しがつかぬ」
「ええ、ましてや、氷の姫巫女様に傷を負わせた事は大罪でございます」
「我が息子の事はお気になさらず、適正な判断をお願い致します」
「うむ」
「陛下、マモレイナ様は、聖女の力を守るべき者たちにも向けました。その時点で聖女ではありません。聖女の力を失っていると思われます」
今まで黙っていた、エリーシュが意見を述べる。
「うむ、そうだな」
「私の妻に手を出したのだ、許せぬな」
そして決まった。
牢から出された4人は、反省することも無く、冬の聖女を汚く罵る。
牢番は不快な気持ちを隠し、階上へ案内し扉を開けた。
扉の前には騎士が数名立っており、牢番から鎖を受け取り連れて行った場所は
王宮の門前だった。
門前には馬と騎士がおり、俺達の首に縄が掛けられた。
「あ、……あ、いや、……や、やめ」
マモレイナは、恐怖で失禁しガタガタと震えている。
アルホォも、真っ青な顔をしている。
マーヌルは、気を失ったようだ。
それでも、首に縄が付けられると
執行人らしい人物が、『行け』と命を下した。
騎士が馬に跨り走りだす、その手には4人分の縄が握られており、グンと引っ張られる。
俺達は最初走り出した。
マーヌルだけは、そのまま引き摺られる。
足がもつれ、転び、それでも市中を走る馬が止まることは無かった。
民達の顔が見える。
皆一様に厳しい顔をして、俺たちを睨んでいた。それだけならまだいい、石を投げつける民もいた。
1日中引き摺られ、門前に戻った時には全身ボロボロだった。
これで、終わる
そう思ったのに……
戻って来たら、門前には、国王と父上、騎士団長と魔術師局長、それにカルディオ辺境伯がいた。
すると、隣からレイナが目を輝かせ声を弾ませ言葉をかける。
良く、話せる元気があるものだ……
「まぁ!助けに来て下さったのね!カディ様!」
愛称呼びするなんて……
「私、待ってましたのよ?」
「さ、早くこの鎖を解いて助けて下さいまし、そして、私にこの様な仕草をした奴らを始末して下さいな」
「カディさま?」
「消えろ」
「え?」
「誰が貴様を助けると言った?貴様らは、場所を移動し処刑だ」
「……え?」
やはりな……
父上……
父上を見上げると、一瞬悲しそうな顔をしたが、元の無表情に戻り言葉を発する。
「自分たちのした事を悔いろ」
「よいな?」
「……はい……」
「エリーシュから、お前たちに伝言がある」
叱責する言葉だろうか……
「『貴女方は、許されぬ行いをしました。今回の騒動は同盟諸国にも打撃を与えているのをご存知ですか?その為、処刑以外の選択がありませんでした…故に、祈りましょう。貴女方が無事に天に召されるよう。道に迷わぬよう…罪を許され、また生まれ変われるよう…』だそうだ。彼女は今、聖堂にて秋の聖女、夏の聖女と共に祈ってくれている」
「冬の聖女の名で、2人を呼び祈りを捧げてくれるよう願い出たのです。私達の息子が天に迎え入れてくれるように…」
目に涙をうかべ、魔術師局長が言った。
……エリーシュ……すまなかった。
ありがとう……
処刑は、恙無く執行され、4人は亡くなった。
その日、聖女達の祈りに答えた精霊達が、4人の魂を天に昇らせていった。
色とりどりの光が天を貫き、壮観な眺めとなった。
エリーシュは、カルディオと結婚し子供を授かった。その時、エリーシュは『あら、ちゃんと反省したのね』と言ってお腹を撫でていたらしい。
「エリーシュ?」
「何でもないわ」
ふふ、と笑い。
カルディオに、後ろから抱き着くエリーシュ。それを、正面に回し抱き締め返す。
2人の間には3人の子供が生まれ、エリーシュは訳知り顔で、『間違った道を歩まぬよう育てるわ』と言ったそうだ。
そして、『やっぱり、あの方は反省出来なかったのね…』とも言っていたそうだ。
完
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