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561.それぞれの思惑3

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 誠一とシエンナが魔術院でたわいもない話に
興じているとき、エンゲルス家ではロジェと
キャロリーヌが真剣に話を交わしていた。

「キャロリーヌ、やるなとは言わないが、少し自制しろ。
ここにはヴェルは良いとしてもアミラもいるんだからな」

「朝から何を言うかと思えば、全くロジェはお堅いわね」

ドンとロジェがテーブルを叩いて、怒気を発した。

「あまりクランの風紀を乱すなと言っているんだ。
今はまあいい。だがクランが大きくなればそうも言っていられない。
今のうちに慣れておけ、いいな」

ロジェの怒気を真正面から受けたが、
キャロリーヌはニヤリと口元を釣り上げて笑った。

「へえーロジェ、あなたがそれを言うかしら。
知らないとでも思っているの?
昔の冒険者仲間と色街に繰り出していることを」

「いや、そっそれはだな。
大人には大人の付き合いってもんがあってな。
そう情報公交換の場なんだよ」
ロジェは動揺を隠せずにいた。

「ふーん、情報交換ね。
抱いた娼婦について酒場で話すのが情報交換ね。
大した情報交換ね」

「おっおまえ、サリナに調べさせたな」

ぷぷぷと笑って何も答えないキャロリーヌを見て、
ロジェは全面的な敗北とも取れる事を言った。

「まあ何だな。お互いに節度をもって行動するべきだな。
キャロ、お前の場合、色恋沙汰でクラン崩壊ってことも
あるんだからな」

「はいはい、それよりロジェ。そろそろ本題に入りなさいよ」

ロジェはため息を一つつくと、話を続けた。
「『はい』は一回と何度も行っているだろう。
それよりもヴェルトール王国軍の採用の件だ。
今代の女王は戦時とは言え随分と派手に兵制改革へ
手を付けるようだな」

先日の大会戦での数多くの指揮官の損失を受けて、
バリーシャは王都に帰陣すると早速、兵制改革に
動き出したと市井で噂になっていた。
それはまるで準備していたかのように
スムーズに進んでいる様であった。
それに伴い貴族階級に囚われず数多の人材に
声がかかっているようであった。

「ロジェ、あなたはどうするの?」

「俺は、アルフレート君の主宰するクランの一員だ。
彼の意向次第だな。俺を必要なしと彼が判断すれば、
王都の軍に所属するのも良しと考えている。
今はまだいいが、正直なところ、彼の向かう先は、
レア度の低い俺ではいずれ力不足になるだろう。
彼は甘い。そこで容赦なく俺を切れればいいが、
そうもいかないだろうな」
ロジェが嘆息した。
本音は名も決まっていないこのクランに残りたいのだろう。
ロジェの表情が物語っていた。

キャロリーヌはロジェの言葉を聞き終えたが、
すぐには話さなかった。
ロジェにとって悪い話ではないと思っていた。
ヴェルトール王国の正規軍の指揮官、
それは下級貴族のレア度Rでは目指すことすら
できなかった場所であった。
今までの戦は結局の所、レア度の高い強者が最前線で殺し合い、
戦局の帰趨を定めることが大半であった。
しかし先日、戦は、その様相が若干、変わり始めていた。
無論、強者が前線を張っていたが、今までより
兵士の運用が戦の帰趨に影響を及ぼしていた戦局がいくつかあった。
近い将来、兵を指揮できる才はいままで以上に重要となるはずであった。
そして、それは階級やレア度では計れない類の才であった。

「私はアルについて行くわ。それだけ。
王国に仕える気はないわ。
一言だけ言うと、アルにあなたはまだまだ必要よ」

「そうかそんなふうにまだ見えるか」
ロジェはそう呟くと、席を立ち、エンゲルス家を出た。
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