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562.それぞれの思惑4

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「アルフレート・フォン・エスターライヒです。
学院長、いらっしゃいますか?」
こんこんと二度ほど学院長室のドアをノックした誠一であった。

室内から低く重い声が聞えた。
「入り給え」

「失礼します」

誠一が入室するとファウスティノは笑みを零した。
「誠一君、来たか。久々に神の世界の話を聞きたいと思うが、
君は褒賞の件を優先したいのじゃろう」

誠一は真剣な表情で返事をした。
「すみません、必ずその件については時間を作りますので、
褒賞の件をお願いします」

「ふむ、よかろう。バリーシャが言っていた人物だがのう。
君を謀ったようなものだ。困ったものだ、あの娘にも」

長寿族のエルフであるバリーシャ、
その年齢は見た目通りではないことは誠一でも知っていた。
恐らくファウスティノ以上の年齢であった。
それ以てして、バリーシャを娘呼ばわりするファウスティノに
誠一は驚いた。

「バリーシャはまだまだ、経験が足りん。
長きを生きていればいいという訳でないからのう。
今の為人を形作るのは過去の生き様じゃよ、誠一君」

誠一は曖昧に頷いた。ファウスティノの話の多くにあることだが、
若い誠一には理解はできても感じ入る事は難しかった。

「ふむ、君もいずれ歳を取れば実感できるじゃろう。
それまでは爺の戯言と思って、心の片隅にでも残しておきなさい。
それより褒賞の件であったな」

誠一はもはや自分の気持ちを誤魔化しきれなくなっていた。
元の世界に戻る事よりリシェーヌと再び会うことを望んだ。

「ふむふむ、良い目じゃ。
自分の気持ちに素直な若い者の瞳はいつ見ても美しい」

「学院長、それよりもお話しください」

「ふむ、すまぬのう。その人物の名は、前女王ナージャである」

学院長の口から出た人物の名に誠一は素の反応をしてしまった。

「えっそれって行方不明の人では」

ふーと長い溜息をついて部屋の天井を
見上げるファウスティノであった。
「フリッツ、あの男があそこまで純朴一途だとはのう。
古代樹、誠一君には世界樹と言った方が分かりやすいじゃろうな。
世界樹の側でナージャは失われた魔力を回復するために
過ごしているじゃろう」

誠一は話を聞きながらも釈然としなかった。
所在不明の人物に会いに行けと言われても
何か違うような気がしてならなかった。
「はっはあ、それでですが、その世界樹は一体、どこにあるんですか?」

「分からぬ」

決してファウスティノが悪い訳ではないことは誠一も分かっていた。
分かっていたが、柳眉が逆立つのを抑えることができなかった。

「バリーシャも幾つかの世界樹の元へ冒険者を派遣しておるが、
いまだに見つからぬ」

「つまり、僕らもナージャ様を捜索する冒険者として協力しろと。
しかも無償で!」
誠一は馬鹿らしい思いに囚われて乾いた笑いを上げた。

「今までに集まった情報からすると、既に目星はついておる」

「そうですか」
誠一は表情を改める事無く答えた。

「夢幻登楼。
最上級の遺跡の最深部にあると言われる樹木、
そこでナージャは失われた魔力を癒しているじゃろう。
年に一度、ほんの僅かの時間、桃色の花々を咲き乱れさせる木、
誠一君、そこを目指しなさい」

中級程度の遺跡ですら攻略することは容易でないと
誠一は思っていた。
ましてや最上級の遺跡、祈りの神殿と同様の難度を
誇る夢幻登楼の攻略、考えるまでもなく今の実力では
無理だと誠一は即断した。

「無理です。流石に最上級の遺跡の攻略は手に余ります」

気難しい表情の誠一に対して、優し気な表情でファウスティノは応じた。

「そうじゃのう。確かに今の実力では無理じゃのう。
実力を付けてその気になったら、学院長室に再び来なさい。
もし、私が不在であれば、エヴァニアに会いなさい。
あまり長くは待てぬが、夢幻登楼の攻略についての情報を君に伝えよう」

釈然としない気分であったが、誠一はファウスティノの好意を
十分に感じられたため、お礼を伝えて、学院長室を後にした。
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