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【黒の創造召喚師 ―Closs over the world―】
第050話 水火の相克①
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古より人に紛れて生きては、時に暴力を振るい、時に疫病を流行らせるなど、人間に対して危害を与える「人外の化生」――魔物・悪魔・妖魔といった類の化け物たちを相手に戦いを繰り広げ、人知れず世の安寧に寄与してきた五つの家系の一つである「御水無瀬家」。
その当主である御水無瀬健介は、間もなく日付が変わろうとする時刻にありながら、目の前にあるディスプレイに映し出された女性を前に難しい表情を浮かべていた。
「――そうですか。我々五家の中でも比較的情報戦に長けた鏑木家でもってしても分からなかったと……」
「えぇ。家の者を使って方々を探らせたのですが……お役に立てず、申し訳ありません」
「いえ、もともとこちらから申し出たことですから。私の方こそ、鏑木家の御当主のお手を煩わせてしまいすみません」
口を真一文字に結びつつ、健介はディスプレイの向こうにいる女性――鏑木弥生に向けてペコリと頭を下げた。
鏑木家は「木」の属性の扱いに長けた家系で、主に回復や状態異常の耐性を付与する支援型術法の専門家である。鏑木家はその得意属性上、他家と連れ立って行動することが多いためか、鏑木家に連なる者はいずれも他者とのコミュニケーションをとることに秀でている。事実、現当主である弥生は、健介が気兼ねなく話せる相手の一人でもある。
「お気になさらず。魔物の討伐は我ら五家門に与えられし使命ですから。今回は運よく何者かの手によって討伐されたようですけれど、またいつ魔物が現れるか分かりませんからね。それに、討伐した者が我々に協力をしてくれる者なのか、あるいは敵対する者なのか……そうした点も把握する必要がありますから」
「えぇ。全くもって仰る通りで……娘も幸いなことに怪我がありませんでしたし。御礼も兼ねて、是非ここで協力関係を構築できないかと……」
八方塞がりな事態に、健介はカリカリと頭を掻きつつそうぼやいた。彼の呟いた「御礼」に裏が無いかと問われれば嘘になる。今回娘の千陽の身に降りかかった出来事は、親である健介から見れば冷や汗ものの事態ではあっただろう。しかしながら、結果的に見れば千陽に怪我は無く、さらに現れた魔物の一体を討伐までしている。成果を鑑みれば、むしろ上々の結果というべきものだ。
彼が呟いた言葉は、この出来事を契機に、魔物の討伐を果たした者とのコネクションを得られれば、とやや打算的な思考が働いた結果である。
「ふふっ、御水無瀬家の御当主は、思いのほか抜け目ないようですね。それにしても、あれほどの大きさの魔煌石であるならば、魔物の大きさもそれなりであったハズ。それを我らが駆け付ける前に倒すとは……一体何者なのでしょうか」
弥生の発言に対し、健介は「それが分からないから苦労している」とは言わず、ただ黙したまま聞き流した。
二人の話の俎上に上っているのは、紛れもなくナイトオーガを倒したツグナのことである。健介はナイトオーガが討伐された直後からツグナの捜索を開始してはいたものの、手掛かりが乏しいことから未だにその姿を見つけることができていなかった。自分だけでは難しいとはんだんした彼は、当主としてのコネクションを用いて弥生に接触し、ツグナの捜索に協力を仰いだものの、結果は出ていない。
(仕方がない。一旦捜索は中止しするとしよう……今後は逃げたもう一体の魔物を追うのに注力するか)
軽く息を吐きながらそう結論づけた矢先、健介のディスプレイに弥生とは別の人物からコールの通知が表示される。
「っ――!? すまない、鏑木殿。コールが来ているので、またこちらからかけ直しても?」
「えぇ、こちらは構いません。それでは、また終わりましたら……」
「ありがとうございます」
健介がペコリと軽く頭を下げて弥生との通話を終えると、入電されたコールに応答する。
「スマン。いきなりで悪いな、健介」
「……ったく、少しは対応する方も考えてくれ。それで? どうしたんだ、豪斎」
健介が応答した通話に表示された相手の名前は、「火之輪豪斎」と記されていた。続いてディスプレイに映し出されたのは濃紺の着物姿の精悍な男性である。日焼けした肌に短く刈り上げた黒髪は、さながら大地を駆ける駿馬を連想させる。
「それで? 火之輪の御当主様がこんな時間に何の用だ?」
「あぁ、今日お前んとこの娘さんが魔物と戦り合ったって聞いてな。そのことがウチのバカ息子の耳に入ったらしく、一人粋がって『俺が逃げた魔物を討伐してやる』って飛び出したもんだからよ……お前の娘とカチ会う前に一言連絡しておいてやろうって思ってな」
「あぁ……なるほどな。尊琉君か……」
健介と豪斎は同年代で、若い頃からお互いをライバル視していた仲であった。ライバルとはいっても、当主間の仲は悪くはなく、むしろこうして時折連絡を取り合っているほど仲は良好な方ではあった。
しかし、その良好な関係は彼らの子の世代には受け継がれておらず、千陽と豪斎の息子である尊琉は何かと衝突していた。
(おそらく、魔物と戦った千陽に、変な対抗心を燃やしたのかもしれないな……)
健介は「面倒な事態にならなければいいが……」と懸念を覚えつつも、連絡を寄越してきた豪斎に「感謝する」と告げて通話を切った。
――足取りの掴めない恩人
――逃げ失せた魔物の捜索
――突如参戦を告げる尊琉
「はぁ……五家の結界は機能しているから魔物はほどなく居場所を掴めるだろうが……どうしてこうも考えることが一気に押し寄せてくるのかねぇ……」
ぐったりとした様子で背もたれに身を預けた健介は、大きなため息を吐くと同時に呟いた。
その当主である御水無瀬健介は、間もなく日付が変わろうとする時刻にありながら、目の前にあるディスプレイに映し出された女性を前に難しい表情を浮かべていた。
「――そうですか。我々五家の中でも比較的情報戦に長けた鏑木家でもってしても分からなかったと……」
「えぇ。家の者を使って方々を探らせたのですが……お役に立てず、申し訳ありません」
「いえ、もともとこちらから申し出たことですから。私の方こそ、鏑木家の御当主のお手を煩わせてしまいすみません」
口を真一文字に結びつつ、健介はディスプレイの向こうにいる女性――鏑木弥生に向けてペコリと頭を下げた。
鏑木家は「木」の属性の扱いに長けた家系で、主に回復や状態異常の耐性を付与する支援型術法の専門家である。鏑木家はその得意属性上、他家と連れ立って行動することが多いためか、鏑木家に連なる者はいずれも他者とのコミュニケーションをとることに秀でている。事実、現当主である弥生は、健介が気兼ねなく話せる相手の一人でもある。
「お気になさらず。魔物の討伐は我ら五家門に与えられし使命ですから。今回は運よく何者かの手によって討伐されたようですけれど、またいつ魔物が現れるか分かりませんからね。それに、討伐した者が我々に協力をしてくれる者なのか、あるいは敵対する者なのか……そうした点も把握する必要がありますから」
「えぇ。全くもって仰る通りで……娘も幸いなことに怪我がありませんでしたし。御礼も兼ねて、是非ここで協力関係を構築できないかと……」
八方塞がりな事態に、健介はカリカリと頭を掻きつつそうぼやいた。彼の呟いた「御礼」に裏が無いかと問われれば嘘になる。今回娘の千陽の身に降りかかった出来事は、親である健介から見れば冷や汗ものの事態ではあっただろう。しかしながら、結果的に見れば千陽に怪我は無く、さらに現れた魔物の一体を討伐までしている。成果を鑑みれば、むしろ上々の結果というべきものだ。
彼が呟いた言葉は、この出来事を契機に、魔物の討伐を果たした者とのコネクションを得られれば、とやや打算的な思考が働いた結果である。
「ふふっ、御水無瀬家の御当主は、思いのほか抜け目ないようですね。それにしても、あれほどの大きさの魔煌石であるならば、魔物の大きさもそれなりであったハズ。それを我らが駆け付ける前に倒すとは……一体何者なのでしょうか」
弥生の発言に対し、健介は「それが分からないから苦労している」とは言わず、ただ黙したまま聞き流した。
二人の話の俎上に上っているのは、紛れもなくナイトオーガを倒したツグナのことである。健介はナイトオーガが討伐された直後からツグナの捜索を開始してはいたものの、手掛かりが乏しいことから未だにその姿を見つけることができていなかった。自分だけでは難しいとはんだんした彼は、当主としてのコネクションを用いて弥生に接触し、ツグナの捜索に協力を仰いだものの、結果は出ていない。
(仕方がない。一旦捜索は中止しするとしよう……今後は逃げたもう一体の魔物を追うのに注力するか)
軽く息を吐きながらそう結論づけた矢先、健介のディスプレイに弥生とは別の人物からコールの通知が表示される。
「っ――!? すまない、鏑木殿。コールが来ているので、またこちらからかけ直しても?」
「えぇ、こちらは構いません。それでは、また終わりましたら……」
「ありがとうございます」
健介がペコリと軽く頭を下げて弥生との通話を終えると、入電されたコールに応答する。
「スマン。いきなりで悪いな、健介」
「……ったく、少しは対応する方も考えてくれ。それで? どうしたんだ、豪斎」
健介が応答した通話に表示された相手の名前は、「火之輪豪斎」と記されていた。続いてディスプレイに映し出されたのは濃紺の着物姿の精悍な男性である。日焼けした肌に短く刈り上げた黒髪は、さながら大地を駆ける駿馬を連想させる。
「それで? 火之輪の御当主様がこんな時間に何の用だ?」
「あぁ、今日お前んとこの娘さんが魔物と戦り合ったって聞いてな。そのことがウチのバカ息子の耳に入ったらしく、一人粋がって『俺が逃げた魔物を討伐してやる』って飛び出したもんだからよ……お前の娘とカチ会う前に一言連絡しておいてやろうって思ってな」
「あぁ……なるほどな。尊琉君か……」
健介と豪斎は同年代で、若い頃からお互いをライバル視していた仲であった。ライバルとはいっても、当主間の仲は悪くはなく、むしろこうして時折連絡を取り合っているほど仲は良好な方ではあった。
しかし、その良好な関係は彼らの子の世代には受け継がれておらず、千陽と豪斎の息子である尊琉は何かと衝突していた。
(おそらく、魔物と戦った千陽に、変な対抗心を燃やしたのかもしれないな……)
健介は「面倒な事態にならなければいいが……」と懸念を覚えつつも、連絡を寄越してきた豪斎に「感謝する」と告げて通話を切った。
――足取りの掴めない恩人
――逃げ失せた魔物の捜索
――突如参戦を告げる尊琉
「はぁ……五家の結界は機能しているから魔物はほどなく居場所を掴めるだろうが……どうしてこうも考えることが一気に押し寄せてくるのかねぇ……」
ぐったりとした様子で背もたれに身を預けた健介は、大きなため息を吐くと同時に呟いた。
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