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第7章
第147話
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「フッ……、馬鹿で助かった」
時間は遡り、父であるベルトランを城から出ないように仕向けたサンダリオは、王族用の脱出路から何の妨害もなく城の外へと抜け出した。
そして、自分の嘘をまんまと信じたベルトランのことを、蔑むように呟いた。
サンダリオが出た場所は、城のすぐ近くにある墓地。
その中でも、端の方にある古びた墓の下が通路に繋がっていたのだ。
「これで完璧だな」
外に出たばかりのサンダリオは、すぐにその墓を破壊し、その瓦礫で通路の出口を塞ぐ。
地下へと向かった父はともかく、城内に入った敵もこの通路のことをすぐに発見するだろう。
追いかけて来られたら迷惑なので、とりあえず破壊しておいた。
もしかしたら父のベルトランも逃げてくるかもしれない。
それが分かっているのに、平気で通路を塞いだのは、完全に父を外へ出させないつもりだ。
「さて、行くか……」
追っ手の可能性を潰したサンダリオは、安心して次の行動に移ったのだった。
「サンダリオ様!?」
「皆、集結ご苦労!」
城の門付近には、王都内に散らばっていた兵たちが1ヵ所に集結していた。
そこに、城内にいたはずのサンダリオが姿を現した。
集まっていた隊長格の者たちは、膝をついて頭を下げる。
それに対し、サンダリオは手を上げて応える。
「よくぞご無事で……」
サンダリオの服は返り血を浴び、埃と土で汚れている。
折角の豪華な服装がもったいない気もするが、それを見ただけで城内では激しい争いが起きているのだと兵たちは理解した。
そんな中から出てきたサンダリオに対し、懐疑的な思いをしている者がほとんどだ。
「父が自ら囮になって隠し通路から逃がしてくれた。私だけでも逃げろと……」
兵たちのその思いは理解できる。
女遊びにばかりかまけ、これまで兵たちとの交流はほとんどない。
そんなサンダリオを、王太子としてどうなのかと思っている者は多い。
そして、そう思われているということもサンダリオ自身理解している。
なので、平気で嘘をつく。
自分で囮にしておいて、勝手にベルトランが囮を買って出たということにした。
その方が、脱出できた理由としてすんなり理解されると思ったからだ。
それをさも本当のように、そして悔しそうに話した。
「これより私は父の代理として指示を行う! しかし、私は荒事に関しては無知だ。意見を頼む」
「了解しました!」
どうやら、サンダリオはペテン師としての才があるようだ。
このように言えば、脳筋が多い兵たちは上手く乗ってくれるだろうと、自分を卑下して協力を求める。
救ってくれた父のために、今までの行いを反省した王太子と言う姿を見せた方が、彼らは都合よく動いてくれると思っての発言だ。
その考えは上手くいき、兵たちはベルトランの救出の指示権をサンダリオに任せることにした。
『これであの狸を終わらせる……』
内心、サンダリオは父のベルトランを救う気はない。
自分の好き勝手に国を動かしたいと思っているサンダリオは、ずっと父を亡き者にするチャンスを窺っていた。
父が自分を見る目で期待していないことは理解していた。
そのため、他に子をもうけようとしていることを察知し、実は密かに暗躍していた。
王妃だった母はなくなっており、子ができるとしたら側室たちになる。
警備が厳しく王に毒を仕込むことはできないが、側室たちに弱い毒を仕込む事ぐらいは可能だ。
子ができないように、定期的に毒を飲ませていたことが功を奏し、子ができることはなかった。
実は、サンダリオは叔父の死にも関係している。
子ができないことに焦りを覚えたのか、父は叔父に結婚を進めていた。
その頃はまだクズの判定はされていなかったが、仲は完全に冷えきっていた。
サンダリオが王になるには、叔父はきっと邪魔になる
そう思ったサンダリオは、暗殺者を使って、叔父を密かに暗殺するように仕向けた。
金を摘んだだけあり、彼らは上手いこと叔父を体調悪化による死と思わせることに成功した。
これで邪魔なのは父だけ。
この機会は逃せない。
その思いを表に出さず、サンダリオは兵たちに指示を出し始めた。
「セブリアン! 城内へ攻め込む前に、誰も出させないようにもっと周囲を包囲しろ!」
「はい!」
はっきり言って、もう攻め込むには十分の包囲はできている。
しかし、サンダリオは無駄に時間を使って突入時間を遅らせようとする。
その方がベルトランが殺される確率が上がるという考えからだ。
「んっ? あれは!?」
時間稼ぎは上手くいったようだ。
周囲の包囲が強化されたと同時に、城のバルコニーにベルトランを連れた獣人が姿を現した。
その横には、容姿が整った耳の長い男が立っている。
あれが噂のエルフだろう。
男に興味のないサンダリオは、エルフが高価値があろうとも興味が無い。
繁殖の研究をしたいという思いはなくはないが、時間と金をかけて成功しても、資金稼ぎができるからと言って、自分が楽しむときにはもう男として不能の状態では何も面白くない。
なので、エルフの捕獲なんてする気はない。
「おのれっ!!」『よしっ!』
〔薄汚い獣どもよ! 我が父上を解放しろ! 今なら命までは許してやってもいい!〕
心の中では、父を捕まえた獣人とエルフを褒めつつ、周りの兵の目を気にして悔しそうに呟く。
そして、すぐさま拡声の魔法で父の解放を求めるように叫ぶ。
あの2人も、この状況では逃げることはできないと分かっている。
父を殺害して自分たちも自害が奴らの考えだろう。
〔これより獣人王国カンダルボスが同盟国、エルフの国アンヘル王国への侵略行為をおこなったリシケサ王国のトップであるベルトラン・デ・リシケサの処刑をおこなう!!〕
なので、獣人たちがサンダリオの言葉を無視してきたのは予想通りだ。
しかし、疑問が浮かぶ。
自害覚悟にしては、攻め込んだ人間の地位が高い。
王自ら攻め込むなんて、なんて馬鹿なことをしているのだろうか。
この国と違い、ちゃんとした後継者がいるのだろうか。
という思いが湧いてくるが、
「エルフの国……?」
この言葉が気になる。
父が攻め込ませて失敗した島は、もう国として成り立っているのかと思うのと同時に、わざわざ研究しなくても、そのうちエルフは数が増えるということだろう。
わざわざ捕獲に行く意味なんてなかったのでは2だろうか。
それどころか、良好な関係を築いて密かに攫って来た方が楽なのではないだろうか。
『馬鹿親父が……、完全に失敗したな』
父の策略の失敗によって、未来の儲けがなくなった。
そのことについては、とりあえず置いておいて、
〔そんなことをしてみろ! この包囲された状況で逃げ切れると思うなよ!〕
一応言い返すが、予定通りさっさと父を殺してもらいたい。
この状況で脅すなんて、交渉としては最悪なのは分かっているが、サンダリオとしては当然の誘導だ。
〔我はエルフの国、アンヘル王国国王ケイ・デ・アンヘルだ! この場にてリシケサ国王ベルトランを処刑を執行する!〕
“パンッ!!”
『よしっ!』
エルフが殺せるのかという思いがあったが、見たこともない武器でベルトランの脳天を撃ち抜いた。
それを、父が死んだというのに、サンダリオは内心ガッツポーズする。
「おのれ生き人形に獣どもめ……、父上の弔い合戦だ!! 奴らを一人残らず殺せ!!」
「「「「「オォォーー!!」」」」」
どうせあとは自害した獣人たちの始末くらい。
そう思って、サンダリオは兵たちを煽って城へ突入させた。
「サ、サンダリオ様……」
「んっ? おぁ、セブリアン速いな……」
サンダリオが敵の制圧完了の報告を待っていると、突入していったはずのセブリアンが早々に戻ってくる。
しかし、思っていた以上に早い。
もしかしたら、全員自害していたのかもしれない。
「敵が……、ぜ、全員……」
「あぁ……」
サンダリオは、言い淀むセブリアンから「全員自害していました」という言葉が続くと思っていた。
しかし、続いた言葉は違った。
「全員いなくなってます」
「………………はっ?」
予想外の報告に、一瞬理解が追い付かない。
「馬鹿な……」
そして、自分の目で確認をしに城内へと向かうと、報告通りの光景がしかなかった。
どこを探しても、獣人とエルフの姿は見えない。
あるのはベルトランと城内を警備していた兵の亡骸のみだ。
周辺にはいまだに兵たちが囲んでいるため、逃走経路はどこにもないはず。
まるで霞のように敵が消えたことが信じられず、サンダリオはただ立ち尽くしたのだった。
時間は遡り、父であるベルトランを城から出ないように仕向けたサンダリオは、王族用の脱出路から何の妨害もなく城の外へと抜け出した。
そして、自分の嘘をまんまと信じたベルトランのことを、蔑むように呟いた。
サンダリオが出た場所は、城のすぐ近くにある墓地。
その中でも、端の方にある古びた墓の下が通路に繋がっていたのだ。
「これで完璧だな」
外に出たばかりのサンダリオは、すぐにその墓を破壊し、その瓦礫で通路の出口を塞ぐ。
地下へと向かった父はともかく、城内に入った敵もこの通路のことをすぐに発見するだろう。
追いかけて来られたら迷惑なので、とりあえず破壊しておいた。
もしかしたら父のベルトランも逃げてくるかもしれない。
それが分かっているのに、平気で通路を塞いだのは、完全に父を外へ出させないつもりだ。
「さて、行くか……」
追っ手の可能性を潰したサンダリオは、安心して次の行動に移ったのだった。
「サンダリオ様!?」
「皆、集結ご苦労!」
城の門付近には、王都内に散らばっていた兵たちが1ヵ所に集結していた。
そこに、城内にいたはずのサンダリオが姿を現した。
集まっていた隊長格の者たちは、膝をついて頭を下げる。
それに対し、サンダリオは手を上げて応える。
「よくぞご無事で……」
サンダリオの服は返り血を浴び、埃と土で汚れている。
折角の豪華な服装がもったいない気もするが、それを見ただけで城内では激しい争いが起きているのだと兵たちは理解した。
そんな中から出てきたサンダリオに対し、懐疑的な思いをしている者がほとんどだ。
「父が自ら囮になって隠し通路から逃がしてくれた。私だけでも逃げろと……」
兵たちのその思いは理解できる。
女遊びにばかりかまけ、これまで兵たちとの交流はほとんどない。
そんなサンダリオを、王太子としてどうなのかと思っている者は多い。
そして、そう思われているということもサンダリオ自身理解している。
なので、平気で嘘をつく。
自分で囮にしておいて、勝手にベルトランが囮を買って出たということにした。
その方が、脱出できた理由としてすんなり理解されると思ったからだ。
それをさも本当のように、そして悔しそうに話した。
「これより私は父の代理として指示を行う! しかし、私は荒事に関しては無知だ。意見を頼む」
「了解しました!」
どうやら、サンダリオはペテン師としての才があるようだ。
このように言えば、脳筋が多い兵たちは上手く乗ってくれるだろうと、自分を卑下して協力を求める。
救ってくれた父のために、今までの行いを反省した王太子と言う姿を見せた方が、彼らは都合よく動いてくれると思っての発言だ。
その考えは上手くいき、兵たちはベルトランの救出の指示権をサンダリオに任せることにした。
『これであの狸を終わらせる……』
内心、サンダリオは父のベルトランを救う気はない。
自分の好き勝手に国を動かしたいと思っているサンダリオは、ずっと父を亡き者にするチャンスを窺っていた。
父が自分を見る目で期待していないことは理解していた。
そのため、他に子をもうけようとしていることを察知し、実は密かに暗躍していた。
王妃だった母はなくなっており、子ができるとしたら側室たちになる。
警備が厳しく王に毒を仕込むことはできないが、側室たちに弱い毒を仕込む事ぐらいは可能だ。
子ができないように、定期的に毒を飲ませていたことが功を奏し、子ができることはなかった。
実は、サンダリオは叔父の死にも関係している。
子ができないことに焦りを覚えたのか、父は叔父に結婚を進めていた。
その頃はまだクズの判定はされていなかったが、仲は完全に冷えきっていた。
サンダリオが王になるには、叔父はきっと邪魔になる
そう思ったサンダリオは、暗殺者を使って、叔父を密かに暗殺するように仕向けた。
金を摘んだだけあり、彼らは上手いこと叔父を体調悪化による死と思わせることに成功した。
これで邪魔なのは父だけ。
この機会は逃せない。
その思いを表に出さず、サンダリオは兵たちに指示を出し始めた。
「セブリアン! 城内へ攻め込む前に、誰も出させないようにもっと周囲を包囲しろ!」
「はい!」
はっきり言って、もう攻め込むには十分の包囲はできている。
しかし、サンダリオは無駄に時間を使って突入時間を遅らせようとする。
その方がベルトランが殺される確率が上がるという考えからだ。
「んっ? あれは!?」
時間稼ぎは上手くいったようだ。
周囲の包囲が強化されたと同時に、城のバルコニーにベルトランを連れた獣人が姿を現した。
その横には、容姿が整った耳の長い男が立っている。
あれが噂のエルフだろう。
男に興味のないサンダリオは、エルフが高価値があろうとも興味が無い。
繁殖の研究をしたいという思いはなくはないが、時間と金をかけて成功しても、資金稼ぎができるからと言って、自分が楽しむときにはもう男として不能の状態では何も面白くない。
なので、エルフの捕獲なんてする気はない。
「おのれっ!!」『よしっ!』
〔薄汚い獣どもよ! 我が父上を解放しろ! 今なら命までは許してやってもいい!〕
心の中では、父を捕まえた獣人とエルフを褒めつつ、周りの兵の目を気にして悔しそうに呟く。
そして、すぐさま拡声の魔法で父の解放を求めるように叫ぶ。
あの2人も、この状況では逃げることはできないと分かっている。
父を殺害して自分たちも自害が奴らの考えだろう。
〔これより獣人王国カンダルボスが同盟国、エルフの国アンヘル王国への侵略行為をおこなったリシケサ王国のトップであるベルトラン・デ・リシケサの処刑をおこなう!!〕
なので、獣人たちがサンダリオの言葉を無視してきたのは予想通りだ。
しかし、疑問が浮かぶ。
自害覚悟にしては、攻め込んだ人間の地位が高い。
王自ら攻め込むなんて、なんて馬鹿なことをしているのだろうか。
この国と違い、ちゃんとした後継者がいるのだろうか。
という思いが湧いてくるが、
「エルフの国……?」
この言葉が気になる。
父が攻め込ませて失敗した島は、もう国として成り立っているのかと思うのと同時に、わざわざ研究しなくても、そのうちエルフは数が増えるということだろう。
わざわざ捕獲に行く意味なんてなかったのでは2だろうか。
それどころか、良好な関係を築いて密かに攫って来た方が楽なのではないだろうか。
『馬鹿親父が……、完全に失敗したな』
父の策略の失敗によって、未来の儲けがなくなった。
そのことについては、とりあえず置いておいて、
〔そんなことをしてみろ! この包囲された状況で逃げ切れると思うなよ!〕
一応言い返すが、予定通りさっさと父を殺してもらいたい。
この状況で脅すなんて、交渉としては最悪なのは分かっているが、サンダリオとしては当然の誘導だ。
〔我はエルフの国、アンヘル王国国王ケイ・デ・アンヘルだ! この場にてリシケサ国王ベルトランを処刑を執行する!〕
“パンッ!!”
『よしっ!』
エルフが殺せるのかという思いがあったが、見たこともない武器でベルトランの脳天を撃ち抜いた。
それを、父が死んだというのに、サンダリオは内心ガッツポーズする。
「おのれ生き人形に獣どもめ……、父上の弔い合戦だ!! 奴らを一人残らず殺せ!!」
「「「「「オォォーー!!」」」」」
どうせあとは自害した獣人たちの始末くらい。
そう思って、サンダリオは兵たちを煽って城へ突入させた。
「サ、サンダリオ様……」
「んっ? おぁ、セブリアン速いな……」
サンダリオが敵の制圧完了の報告を待っていると、突入していったはずのセブリアンが早々に戻ってくる。
しかし、思っていた以上に早い。
もしかしたら、全員自害していたのかもしれない。
「敵が……、ぜ、全員……」
「あぁ……」
サンダリオは、言い淀むセブリアンから「全員自害していました」という言葉が続くと思っていた。
しかし、続いた言葉は違った。
「全員いなくなってます」
「………………はっ?」
予想外の報告に、一瞬理解が追い付かない。
「馬鹿な……」
そして、自分の目で確認をしに城内へと向かうと、報告通りの光景がしかなかった。
どこを探しても、獣人とエルフの姿は見えない。
あるのはベルトランと城内を警備していた兵の亡骸のみだ。
周辺にはいまだに兵たちが囲んでいるため、逃走経路はどこにもないはず。
まるで霞のように敵が消えたことが信じられず、サンダリオはただ立ち尽くしたのだった。
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