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思いの綴り
早坂 巧
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「・・・・・」
(暑いな、今何時だろ?)
布団の中で目が覚めて彼、“早坂 巧”は自分が今まで深い眠りの世界にいて幼い日の夢を見ていた事を悟った。
そうだった、ここは冷涼なコンラッド王国ではなくて、四季のある日本皇国だったのである。
ちなみに季節は夏真っ盛りで就寝中に付きエアコンは切っていたため部屋の中に熱が籠もって中々に難儀な事になっていたのだが、そんな中で。
「・・・眠いな」
(だけど久方振りにあの頃の夢を見たな・・・)
モソモソと布団から起き出して来て“シェリル、元気なのかな・・・”等と呟いてから彼が何気なく時計を見ると、時刻は午前3時55分を指している。
(いけない!!!)
彼は思った、“このままでは約束の時間に遅れてしまう”と。
だから。
急いで道着に着替えて顔を洗いつつ歯を磨き、嗽をして身嗜みを整えると巧は玄関へと赴いて昔ながらの製法、材料で作られている草履を履き、施錠を解くと静かにしかし勢い良く扉を開け放った、そうしておいてー。
一気に地面を蹴ると“縮地”と呼ばれている時空跳躍法を用いて連続して瞬間転移を行いつつも近くの八坂神社へと赴いていった。
「・・・遅いぞ?」
「ごめんなさい、素戔嗚様・・・!!!」
その境内には既に一柱の男神の姿があった、天照大神の弟神である素戔嗚尊であるが、巧はこの3年程の間、ほぼ毎日のようにここ、八坂神社に通っては彼に稽古を付けてもらっていた、それというのもー。
巧の家は古流剣術の一派である“大津国流”を今に伝える道場主であって代々の当主達は皆、武道で鳴らして来た家柄だったのであり、中にはその腕を買われて特別な要人警護を任された人物もいた程の、極めて優秀な手練れっ振りだったのだ。
それだけではない、時には神官や僧侶、陰陽師等と共同で魔物や悪鬼等と戦っては連中を封印、または抹殺する事もザラにあり、その為に門人達は誰もが皆、一騎当千の実力と高潔な人格を誇っていたのであるモノの、そんな中にあって。
正直に言って巧はあまり武道の腕が良くなかった、優しくて物静か、ともすればやや内向的な気質であった少年の日の彼は自分でもそれを気にしてはいたのだが、もっとも巧の両親は子供が彼だけでは無かった事と、古流剣術を今に伝える宗家にしては比較的柔軟な思想の持ち主であった事から巧に殊更辛く当たる事もせずに、“向き不向きもあるだろうから”と言って他の兄弟達と分け隔てなく接してくれていたのだ。
ただし鍛錬については一切の妥協をする人達では無くて、しかも短所を責めない代わりに長所を思いっ切り伸ばすやり方を取り入れてはそれを巧を始めとする子供達に課していた、特に武芸がそれほど得意では無かった巧であったが体力と生命力とに優れていた彼はそれに沿ったメニューを熟す事を日課として第一に添えられており、それは必ず守らされたのである。
それだけではない、波動整体や気功等のエネルギーを扱う技術にも秀でていた彼はだから、それを駆使して度々、両親や兄弟達の心身のバランスを整えたり、凝りを解してリラックスさせたりと、其方の方面では重宝されていた為に別段、家人の中で彼だけが浮いたりバカにされたり、等と言う事も無く、その一角に自分の立ち位置を確立させる事に成功していた訳であったのだが、そんなある日の事。
信心深い巧はいつもの日課である“走り込み”の最中に近くの八坂神社に参拝する事を慣わしとしていたのだが、その時に心の中で“神様、僕に修業を付けて下さい”と毎日のようにお願いをしていたのだ、するとー。
ある時、いつものように熱心に願掛けをしていた彼の脇を一陣の優しい風が吹き抜けて行ったと思ったら祈念を終えて後ろを振り向いた少年の目の前に、髪の毛を頭の両脇で結わき、顎には髭を蓄えていた昔ながらの装束に身を包んでいる不思議な中年の男性が立っていた、腰には剣を佩いておりそれを見た瞬間、巧は思わず反射的に、大きく後ろに飛び退いたが彼こそが素戔嗚尊であり巧の持つ底力を思う存分発揮させて彼を一層の高みへと押し上げさせてくれた張本人だったのだ。
「・・・・・っ!!?」
(だ、誰だっ!!?いつの間に後ろに・・・っ。気配なんかまるきり感じなかったのに・・・っ!!!)
「・・・・・」
“童・・・”と初対面である巧に対して彼は問い質して来たのだが、その声は渋くて低く、しかし凄く落ち着いて安らぎに満ちたモノだった。
「童、名は何と言う?」
「・・・・・」
その質問に対して巧は直感的に巧は“この人は悪い存在ではない”と判断していた、全身から放たれるオーラと言うか雰囲気がとても優しくてホッと出来たし、それに何だか懐かしい感覚を覚えて良い意味で狼狽してしまう。
「どうした?童・・・」
「・・・・・」
しかしこの時の巧少年は最初、それでも警戒を解こうとはしなかった、“まさか物の怪の類いではないか?”、“迂闊に名前を教えたりしたら何をされるか解らない”とそれを危惧したためである。
すると。
それを見越したかのように彼はニッコリと笑ってこう言った、“遊ぼう?”と。
「おいで?童・・・」
「・・・・・っ!!!」
その言葉には不思議な力でもあったのだろうか、巧は彼に言われるがまま男の傍へと近付いていった、“いけない”とは思わなかった、自然とそうする事が当たり前のように思えて体が勝手に動いて行く。
「お主の名は何と言うんじゃ?」
「・・・巧。“早坂 巧”です!!!」
「そうか、巧か。ならば巧よ、そなたを面白い場所へと誘ってやろう!!!」
そう告げると男は近寄って来た巧の手を取り何処かへと連れ出して行った。
(暑いな、今何時だろ?)
布団の中で目が覚めて彼、“早坂 巧”は自分が今まで深い眠りの世界にいて幼い日の夢を見ていた事を悟った。
そうだった、ここは冷涼なコンラッド王国ではなくて、四季のある日本皇国だったのである。
ちなみに季節は夏真っ盛りで就寝中に付きエアコンは切っていたため部屋の中に熱が籠もって中々に難儀な事になっていたのだが、そんな中で。
「・・・眠いな」
(だけど久方振りにあの頃の夢を見たな・・・)
モソモソと布団から起き出して来て“シェリル、元気なのかな・・・”等と呟いてから彼が何気なく時計を見ると、時刻は午前3時55分を指している。
(いけない!!!)
彼は思った、“このままでは約束の時間に遅れてしまう”と。
だから。
急いで道着に着替えて顔を洗いつつ歯を磨き、嗽をして身嗜みを整えると巧は玄関へと赴いて昔ながらの製法、材料で作られている草履を履き、施錠を解くと静かにしかし勢い良く扉を開け放った、そうしておいてー。
一気に地面を蹴ると“縮地”と呼ばれている時空跳躍法を用いて連続して瞬間転移を行いつつも近くの八坂神社へと赴いていった。
「・・・遅いぞ?」
「ごめんなさい、素戔嗚様・・・!!!」
その境内には既に一柱の男神の姿があった、天照大神の弟神である素戔嗚尊であるが、巧はこの3年程の間、ほぼ毎日のようにここ、八坂神社に通っては彼に稽古を付けてもらっていた、それというのもー。
巧の家は古流剣術の一派である“大津国流”を今に伝える道場主であって代々の当主達は皆、武道で鳴らして来た家柄だったのであり、中にはその腕を買われて特別な要人警護を任された人物もいた程の、極めて優秀な手練れっ振りだったのだ。
それだけではない、時には神官や僧侶、陰陽師等と共同で魔物や悪鬼等と戦っては連中を封印、または抹殺する事もザラにあり、その為に門人達は誰もが皆、一騎当千の実力と高潔な人格を誇っていたのであるモノの、そんな中にあって。
正直に言って巧はあまり武道の腕が良くなかった、優しくて物静か、ともすればやや内向的な気質であった少年の日の彼は自分でもそれを気にしてはいたのだが、もっとも巧の両親は子供が彼だけでは無かった事と、古流剣術を今に伝える宗家にしては比較的柔軟な思想の持ち主であった事から巧に殊更辛く当たる事もせずに、“向き不向きもあるだろうから”と言って他の兄弟達と分け隔てなく接してくれていたのだ。
ただし鍛錬については一切の妥協をする人達では無くて、しかも短所を責めない代わりに長所を思いっ切り伸ばすやり方を取り入れてはそれを巧を始めとする子供達に課していた、特に武芸がそれほど得意では無かった巧であったが体力と生命力とに優れていた彼はそれに沿ったメニューを熟す事を日課として第一に添えられており、それは必ず守らされたのである。
それだけではない、波動整体や気功等のエネルギーを扱う技術にも秀でていた彼はだから、それを駆使して度々、両親や兄弟達の心身のバランスを整えたり、凝りを解してリラックスさせたりと、其方の方面では重宝されていた為に別段、家人の中で彼だけが浮いたりバカにされたり、等と言う事も無く、その一角に自分の立ち位置を確立させる事に成功していた訳であったのだが、そんなある日の事。
信心深い巧はいつもの日課である“走り込み”の最中に近くの八坂神社に参拝する事を慣わしとしていたのだが、その時に心の中で“神様、僕に修業を付けて下さい”と毎日のようにお願いをしていたのだ、するとー。
ある時、いつものように熱心に願掛けをしていた彼の脇を一陣の優しい風が吹き抜けて行ったと思ったら祈念を終えて後ろを振り向いた少年の目の前に、髪の毛を頭の両脇で結わき、顎には髭を蓄えていた昔ながらの装束に身を包んでいる不思議な中年の男性が立っていた、腰には剣を佩いておりそれを見た瞬間、巧は思わず反射的に、大きく後ろに飛び退いたが彼こそが素戔嗚尊であり巧の持つ底力を思う存分発揮させて彼を一層の高みへと押し上げさせてくれた張本人だったのだ。
「・・・・・っ!!?」
(だ、誰だっ!!?いつの間に後ろに・・・っ。気配なんかまるきり感じなかったのに・・・っ!!!)
「・・・・・」
“童・・・”と初対面である巧に対して彼は問い質して来たのだが、その声は渋くて低く、しかし凄く落ち着いて安らぎに満ちたモノだった。
「童、名は何と言う?」
「・・・・・」
その質問に対して巧は直感的に巧は“この人は悪い存在ではない”と判断していた、全身から放たれるオーラと言うか雰囲気がとても優しくてホッと出来たし、それに何だか懐かしい感覚を覚えて良い意味で狼狽してしまう。
「どうした?童・・・」
「・・・・・」
しかしこの時の巧少年は最初、それでも警戒を解こうとはしなかった、“まさか物の怪の類いではないか?”、“迂闊に名前を教えたりしたら何をされるか解らない”とそれを危惧したためである。
すると。
それを見越したかのように彼はニッコリと笑ってこう言った、“遊ぼう?”と。
「おいで?童・・・」
「・・・・・っ!!!」
その言葉には不思議な力でもあったのだろうか、巧は彼に言われるがまま男の傍へと近付いていった、“いけない”とは思わなかった、自然とそうする事が当たり前のように思えて体が勝手に動いて行く。
「お主の名は何と言うんじゃ?」
「・・・巧。“早坂 巧”です!!!」
「そうか、巧か。ならば巧よ、そなたを面白い場所へと誘ってやろう!!!」
そう告げると男は近寄って来た巧の手を取り何処かへと連れ出して行った。
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