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令息のおもちゃ

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「ハ、ハメッド様……!?」

 大きな斧を持って、ハメッドが入ってきたのだ。
 アイナは怯えて、リゼッタの背後へと隠れる。
 そんなアイナと違い、リゼッタは落ち着いた様子だった。

 ――今のおもちゃは、自分じゃない。

 刺激しなければ、被害を被ることはないはず。

「ハメッド様。入口の警備はどうなさいました?」
「何もしてないよ? ……君が話を通していたそうじゃないか」
「えっ……」

 アイナがリゼッタから離れ、その顔を見上げる。
 リゼッタは無表情だった。

「……もしかしたら、ありえるかなと思ったのです。今の今、執事に話したばかりですが」

 オーレンと別れ、アイナの部屋に向かう途中、リゼッタは執事を通して、もしハメッドがやってきたら、中に入れても良いと告げていた。
 ……例え、何かしらの武器を所持していても――。

「あなたの要求は――。この子ですよね?」

 リゼッタはアイナの腕を掴み、ハメッドに突き出した。

「いやぁああ! 離して!」

 じたばたと暴れるアイナに、ハメッドが詰め寄る。

「……斧で切られたことはあるかい?」
「ひいぃっ……!」

 斧を突き付けられ、アイナは涙を流した。

「ごめんなさい! 私が悪かったですぅ!」
「何も悪いことはないさ。僕と一緒に街を出よう」
「えっ、そ、そんな」
「公爵家の裏の繋がりを知らずに――。僕に喧嘩を売ったことを、後悔すると良いよ」
「いやぁあ! 助けてぇ!」

 アイナの手を強引に掴み……。
 ハメッドは、部屋を後にした。

 体の力が抜けたのか、リゼッタはその場に座り込んでしまった。

「リゼッタ! 大丈夫かい!?」

 オーレンが部屋にやって来て、慌ててリゼッタに駆け寄る。

「全く……! どうしてこんな無茶をしたんだ! 斧を持っていただなんて聞いてないぞ!」

 リゼッタを抱きしめながら、オーレンは涙を流した。

「申し訳ございません……。しかし、安全に公爵家をこの街から遠ざける方法が、これしか浮かばなかったのです」

 名ばかりの公爵家と言えど、裏方面での力はそれなりにある。
 もし強引に追い出せば――。面倒なことが起こる可能性があったのだ。

 だから、アイナという今のハメッドにとってのおもちゃを差し出すことで、この街から手を引いてもらった。

 会話こそ少なかったが、交渉が行われていたのである。

「……しかし、まだ最後の仕事が残っています」
「待ちなさいリゼッタ。……ちゃんと何をしようとしているか、僕に説明するべきだ」
「そうですね……」

 リゼッタはようやく、体に力を入れることができた。
 起き上がるより前に……。オーレンの手に、自分の手を重ねる。
 そして、潤んだ瞳でオーレンを見上げた。

「……今なのかい?」
「……はい」

 オーレンが……。優しくリゼッタの唇にキスをした。
 ようやく、リゼッタの頬を涙が伝った。
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