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第五章:足止め

5-17知らざる真実

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「あなたたち! もうこんな事はやめなさい!! 黒龍様もジーグの民も話を聞いて!!」


 カリナさんはそう叫びながらジーグの民たちがいる集落へ向かう。
 すると途端に黒い剣を構えた黒ずくめたちが立ちはだかる。


「毒と爆薬を『消し去る』!!」


 既にあの集落全部をターゲットに私はチートスキルをロックオンしていた。
 そしてカリナさんが大声を上がると同時にそれらの影響がないようにする。

「貴様ら、黒龍の手の者か!? 我らの村を結界で閉じ込め殲滅する気か!?」

「違うわよ! とにかく話を聞きなさい、この争いは無意味なのよ! あなたたちジーグの民も黒龍様もこれを見てっ!!」

 言いながらカリナさんはあの水晶を取り出し魔力を込めるとあの記憶が再生され始める。

 光り輝きそしてその光の中にあの黒髪の女性が現れる。
 するとジーグの民は驚きそしてその場にひれ伏す。


「何なんですかこれは?」

「わ、分からないわよ。でもとにかくジーグの民が襲ってくることはとりあえずないみたいね……」



『これを見ていると言う事は誰かがここに気付いたのですね? 私はディメア、暗黒の女神ディメルモと黒龍の間に生まれた娘』


 光の中から映像が出てディメアさんのメッセージが再生され始める。


「おおぉ、我らが女神よ……」


 ディメアさんの記憶が再生し始めるとひれ伏していたジーグの民が顔を上げそう言う。

「女神様?」

 私はその言葉に反応する。
 ディメアさんはドラゴンニュートであって女神様ではない。
 確かにディメアさんの母親に暗黒の女神ディメルモ様がいるけど半神半竜であるディメルモさんは自身を女神とは一言も言っていない。


「女神様が降臨なされた、憎っくき黒龍を目の前に女神様が降臨なされたぞ!!」

「おお、我らが女神様、どうか我らに救いの手を!」


 どう言う事?
 ジーグの民はそう言ってこの映像のディメアさんを拝み倒す。
 しかしこのディメアさんは単なる記憶の映像。
 彼らの期待になんか応える事は無い。


『これは私が最後に残す記憶です。黒龍であるお母様には申し訳ありませんが私はもう耐える事が出来なくなりました……』


「女神様??」


 ディメアさんのその告白にジーグの民たちは怪訝な表情をする。
 
『私は我が子たち、そしてその孫たちが年老いそして先に死にゆくのが耐えられないのです……』

「女神様、如何なされたと言うのですか?」

『女神と女神殺しの竜の間に生まれたこの身はこれ以上老いる事無くそして寿命と言うモノすら感じる事は出来ない。しかし私と人の間に生まれた子供たちは世代をまたぐほど短命となって行った…… 彼ら彼女らはいつも私の手の中で息を引き取りそしてそれがなん百、何千と繰り返されてゆく……』


 ざわざわざわ……


「め、女神様が黒龍の娘?」

「女神様は黒龍に殺されたのではないのか? では母親である黒龍に女神様は殺されたのか?」

「い、いや、何か様子がおかしいぞ?」


 ざわめくジーグの民たち。
 それにしてもディメアさんを殺したのがコクさんてどう言う事?

『黒龍であるお母様に相談してもそれは天寿と言い、星となった女神である母に神託を乞うてもそれが自然の摂理と言う…… では残されたこの私は一体何なのか!? 私は半神半竜のドラゴンニュート。人の姿に近い者でも人ではない。人との間に子をもうけられてもその子はドラゴンニュートではない……』


 ざわざわざわ……


『ローグの民に育てられた私は人として生まれたかった。彼らは私に人としての心をくれた。命の短い人はそれでもその生を精一杯生きる。ときには争いもするけどそれは短いその一生を悔いなく駆け抜ける為…… なのに私はずっとそんな彼らを見守るだけ、そして死にゆく彼らを見届けるだけ…… もうそんな辛い思いは沢山です…… お母様、もしこれを見る事が有れば娘の先立つ不孝をお許しください。私は私の命と魂を根絶する為にローグの民に私を殺させます!!』


「なっ!?」

「そんなっ! 女神様は憎っき黒龍に殺され、それを守ろうとした我らジーグの民共々黒龍に滅ぼされかけたと伝承では!!!?」

「我らの先祖であるローグの民が女神様を手にかけたと言うのか!?」

「馬鹿なっ!!」


『竜族はその首と心臓を一度に切り落としそして貫けば再生の秘術を使う前であれば死ねると聞きます。女神である母もその体を焼き尽くされれば肉体を失ったと聞きます。そして私の魂はこの世で霧散すれば全てのモノの魔素となり皆に使われる事となりましょう。私はこの子供たちが築き上げた街が、国が好きです。願わくば竜の言葉である『ジマ』、家族と言う意味の名をこの国に付けて末永く幸せに暮らして欲しい。我が子たちよ、私はずっとあなたたちともにいる。だから私を殺してください。そしてローグの民よ、今まで私に従ってきてくれてありがとう。あなたたちの先祖は私を『人』として育ててくれた。その恩は決して忘れない。だから悲しまずにその刃で私を殺しなさい!』


 どよっ!


 その真実にジーグの民は動揺の色を隠せない。
 どうも今までジーグの民に伝わって来た伝承は何処をどう云う風に変えたのかコクさんが自分の娘であるディメアさんを殺し、それに付き従っていたジーグの民を一緒に殲滅したと言う事になっている様だ。
 

『お母様、どうか私の我が儘をお許しください。そして私に付き従って来たローグの民をお許しください。彼らは私の願いをかなえただけです。お母様、愛してます。この事がお母様に伝わる頃には私はもうこの世にいないでしょう。どうぞお健やかに。さようなら、お母様……』


 そしてディメアさんの記憶は最後にそこまで言ってその姿を消す。
 今まで信じていたことが根底から覆されたジーグの民たちは何か言おうとするも言葉が出ない。



「ええぇいっ! 世迷言を!! それはまやかしだ、貴様らジーグの民はあの憎っくき黒龍に滅ぼされかけたのだぞ!? 幾千幾万年の恨みが今その目の前にいるのだぞ? 今きゃつを押さえこの呪いをかけられれば例え黒龍とて奴は死滅するのだぞ!!」


 うなだれ、そして覇気を無くすジーグの民の後ろから神父服を着た一人の男が出て来て聖典をかかげながらそう言う。

「この聖典に書かれている事こそ真実! 今の女神も黒龍もこの世を自分の為だけに使おうとする悪魔よ!! 騙されてはいけない、奴等こそが邪悪の根源。我らの真なる神このジュメルの神こそが貴様らジーグの民をお救い下さるのだ!! あと少し、少しであの黒龍を屈服させ呪いをかけられれば貴様らの積年の恨み、晴らせるのだぞ!?」

 その神官服の男は饒舌にそう言い、丸い眼鏡をこちらに向ける。

「貴様ら邪神の使途が何と言おうとも、まやかしを見せようとも我らジュメルの神はお許しにならない。ジーグの民よ、目を覚ますのだ!!」


「ジュメル!」


 カリナさんはそう叫んで剣を抜く。

「あんたらまだ生き残ってたのか!? 過去にホリゾン帝国をけしかけ聖騎士団でユエバの町を襲っておいて!」

「ふん、エルフか…… 我らジュメルを知っている者がいようとはな…… だが、まあ良い。もうじきあの憎き黒龍は我らが呪いで滅ぶのだ、何が対話だ! こんな結界で我々を閉じ込めておいて!!」

 その神父は両の手を広げ声高々に言う。


「さあ、やれ『巨人』どもよ、『鋼鉄の鎧騎士』どもよ!! 女神の手先である黒龍をその呪いと共に滅せよ!!」



「呪いを『消し去る』!!」


 しゅんっ!
 
 
 私は広範囲にあの呪いを消し去る。
 どうやらコクさんたちは少なからずともあの呪いの影響で攻撃を受けていたようだ。
 それに対話する為にここへ来たと言っている。

 それなのにこのジュメルの神父とか言うのは一方的にジーグの民を先導してコクさんたちを!


「ルラ、かまわないわやっちゃえ!!」

「うん、お姉ちゃん! 秘密結社ジュメル、貴様らの野望はここまでだ、行くぞとぉっ!! あたしは「最強」!!」


 もの凄く腹立たしく感じて思わずルラをけしかけてしまったけど、ルラはなんかポーズを取りながら変な台詞を言ってから「最強」のスキルを使って高く飛び上がる。
 そしてあの竜の頭をした巨人に飛び蹴りを喰らわせる。


 ばんっ!


 バキっ!!

 どぉーんっ!!


 その巨人はルラの飛び蹴りを喰らって思い切り顔から地面に倒れる。


『これは…… ルラなのですか!?』

『な、お前たちでいやがります!?』

『むう、こんな所にまで!?』


 どうやらコクさんたちも私たちに気付いたようだ。


「コクさん、呪いは全部消し去りました! ジーグの民も真実を知りました! 後は!!」

「あたしは『最強』! 悪いやつは皆あたしがやっつける!!」



 あたしとルラはコクさんを取り囲む「巨人」と「鋼鉄の鎧騎士」、そしてジュメルの神父と対峙するのだった。
 
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