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第五章:足止め
5-19わさびの魔力
しおりを挟む「こ、これは!?」
「ほう、こうも変わるモノか?」
「くっ、こ、こんな事がでいやがります……」
私たちはジマの国のお城に戻り早速料理長のリュックスさんが作った獅子牛のローストビーフに魚醤とわさびをすりおろしたものをつけて食べている。
あ、勿論オリジナルのソースもあるので濃厚な味わいも楽しめるよ?
わさびと魚醤で味わうローストビーフにせっかくだからクロさんとクロエさんも一緒に食べようと言う事で現在お食事中。
上座からコクさん、王族の方々、私にルラ、そしてカリナさんたちが座っている。
「うーん、鼻に辛いの来たぁ~!!」
「ほらルラ、鼻抓んで! 口で息するの、しばらくすると収まるから」
涙目になっているルラに水を差し出しながら私はそう言う。
あの後私たちはジーグの民の隠れ里を後にしてそのままジマの国に帰って来た。
驚いた事にコクさんたちも人の姿のまま私たちと一緒に歩いてジマの国に戻ったのだけど、道中あの水晶をどこで手に入れたとかどう言う状況だったとかいろいろ聞かれた。
ああ、それとべルトバッツさんなんだけどずっと姿を見ないと思ったら呪いのツボに捕らえられていて、私が呪いを「消し去る」とトーイさんが何故かくしゃみをして変な顔の書かれたツボからボンっと煙が出てベルトバッツさんが解放された。
出てくる時に「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃぁ~んでござる」とか言ったのは聞かなかった事にしたけど。
で、どうやらあの遺跡は場所的に今のジマの城が出来るよりずっと昔、ディメアさんと人族が暮らしていた場所に近いらしい。
その昔は砦とか集落もあったらしいけど、コクさんがローグの民、いや、分かれてジーグの民になった連中を殲滅した場所でもあるそうな。
「くはーっ! 辛い!!」
「駄目だ、俺癖になりそう……」
「本当にこれは美味しいですね」
「リル、これ川魚よりおいしいわね……」
カリナさんたちも流石にわさび醤油でローストビーフと言う大人の食べ方にひかれて何時もは遠慮した食べ方だったのに今はしっかりとそれをいただいている。
そんな様子を見ながら私もわさびを少し載せて薄切りのお肉に包んでフォークに刺し、魚醤に少しそれをつけて口に運ぶ。
ぱくっ!
「んっ!」
お肉本来の旨味に魚醤の独特なしょっぱさ、そしてわさびの風味と辛さが一気に口の中に広がる。
桜色のローストビーフは柔らかく、噛めば噛むほど味が染み出て来る。
どうしても肉なので脂っこさがエルフには感じられるけど、魚醤とわさびのコラボのお陰でさっぱりといただける。
「リル、これは何とも見事な味わいです。これがわさびなのですね?」
「はい、私たちエルフにはお肉はちょっと脂っこいですけどこう言う食べ方をすればいけますね。あ、そうそうもっとさっぱりとお肉の味を楽しみたいなら塩わさびでいただくと良いですよ?」
私はそう言ってにっこりと笑うとコクさんは頷き塩を持ってくるように言う。
そして持ってきた塩を私はわさびと混ぜて軽く揉んで小さなお皿にのせてコクさんに差し出す。
「これをお好みの量お肉に乗せて食べてみてください」
「どれ……」
コクさんはそれを受け取り自分のお皿の上のローストビーフに少量載せて包んで口に運ぶ。
「んッ!? これは、肉の味がさらに明確になりシンプルな塩加減にわさびの風味が肉本来の旨味を醸し出している? これはこれで素朴かつ『味』を楽しむ方法としては素晴らしい」
どうやらコクさんは気に入ってくれたようだ。
「本当にリルさんに教えてもらったわさびは奥が深い。私も料理の形式にこだわらずもっといろいろを学びましょう」
追加のローストビーフを切り分けている料理長のリュックスさんはそう言いながらコクさんのおかわりのお皿を取り換える。
「ぐっ、エ、エルフの癖にこのような食べ方を知っているとはでいやがります……」
「ふむ、クロエ、我々もまだまだ学ぶことは有りそうだな。迷宮に戻りまた黒龍様のお食事にも幅を持たせよう」
塩わさびも味見しているクロさんとクロエさんはコクさんの後ろで手にしたお皿とフォークを握りしめそう言っている。
執事とメイドさんだからってずっと後ろに立っているけど、一緒にご飯食べればいいのに。
「ふう、ごちそうさまでした。リル、わさびの力とくと堪能させていただきました。確かにこれは素晴らしい」
「お粗末様でした。気に入っていただければ嬉しいですよ。あ、そうそう今回は自分たちで取りに行きましたが時期になればシーナ商会でも販売するらしいですよ?」
「シーナ商会でいやがりますか!? あのバカエルフの店でいやがりますか!!!?」
コクさんにそう言うと後ろのクロエさんが騒ぎ始める。
バカエルフって、シェルさんの事?
なんか目くじら立てるような事シェルさんにされたのかな??
「ふっふっふっふっふっふっ、そうですか、シェルの店ですか…… そう言えばシェルと一緒のお母様はいつもこのようなモノを一緒にいただいているのでしょうか?」
「え、えーとそれはちょっと分かりませんけど、レッドゲイルの時はシーナ商会の店の人もオーナーのシェルさんがパスタを好んでたとか言っていたので多分エルハイミさんも一緒に食べていたのではないでしょうか?」
シェルさんが食べていたと思われるパスタを思い出して、シェルさんが食べているならきっとエルハイミさんも食べているだろうなと思いそう言うとコクさんは目元を暗くして静かに笑い始める。
「ふふふふふ…… まあシェルの取り分のお母様がシェルと何を食べていようとも良いのですが、私の分のお母様には楽しんで頂けるようするのも私の役目。このわさびしかと手中に収めお母様にも食べていただくぞ! クロ、クロエそしてカーソルテよ我に協力せよ! シェルなどに負けておられぬわ! リル、他にも何か良いものはありませんか!?」
何故か急に立ち上がりこぶしを握り燃え上がるコクさん。
なんかわさびでスイッチ入っちゃった?
「あ、え、え~とぉ……」
言い淀みながらカリナさんを見ると既にあきらめ顔でため息をついている。
私はそれを確認して私も小さくため息を吐くのだった。
* * * * *
「どうしてこうなった……」
私はお城の厨房にいる。
あの後結局コクさんの要望に逆らえずみんなして当分このジマの国に滞在する事となった。
コクさんは少なからずとも三つはエルハイミさんを満足させられるような料理が欲しいと言っている。
しかしエルハイミさんの好みなんか知らないし、こっちの世界だって十分に美味しいものはある。
それに劣らず勝るような料理って言われたって……
「リル、ここに滞在する間は費用は気にしなくていいけど早い所三つ何か美味しいもの考えてよね? いい加減ユエバの町に帰りたわ」
「分かってますよ、カリナさん……」
一緒に厨房に来ていたカリナさんはそう言う。
しかしそうは言ってもどうしたものか。
私はため息をつきながら厨房で材料の山を前に悩むのだった。
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