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第十六章:破滅の妖精たち

16-26ナディア

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 私たちはアインさんの頼みで協力をする事となった。


「あの、それで私たちに何をしろと言うのですか?」

「うむ、まずはティアナ姫の転生者であるナディアに会いに行こう。そろそろ生まれてひと段落した頃だろうからな。それに彼女自身も今世は女神様には何とか我慢して欲しいというのが本音だ。なにせ既に夫がいる身で二児の母だからな」


 あー、まあそりゃそうだ。

 いくら過去にはその愛を誓ったと言っても、覚醒する前の前世を思い出していない状態で結婚して子供まで出来てたんじゃ、とてもじゃないけど分かれてエルハイミさんのもとになんか行けない。
 いくら愛した人とは言えそれは無理だろう。


「その、ナディアさんに会いに行って何とかなるもんですか?」

「何せ女神様を一番理解しているのはティアナ姫だからな。正直これ以上村で騒ぎを起こされるとここでの生活に障害がみんな出るからな」

 アインさんがそう言うと子供たちにラーシアさんも含めてみんな頷く。
 私はそれを見て大きくため息を吐いてからそのナディアさんに会いに行く事になるのだった。


 * * *


 村に戻って広場の裏側になる場所へ向かう。
 どうやらそこにナディアさんがいるらしい。

 と、アインさんが何かに気付く。

「ん? 人が集まっているな」


「あ、先生! ナディアの子供が生まれたんですよ!」


 アインさんに気付いて獣人の女性がこちらに向かって嬉しそうにそう言う。
 が、隣にいる獣人の人は複雑な顔をしていた。

「先生、昨晩ナディアの子供が生まれたんですがね……どうしましょう、女神様に伝えた方がいいですかね?」
 
 犬の獣人の人はそう言いながら困ったように耳を垂らす。

「ベルン、今はまだ伝えない方がいいだろう。それよりナディアの状態はどうだ?」

「母子ともに安定してますよ。今みんなで生まれた赤ん坊を見に来てたんですよ」

 ベルンさんと呼ばれた犬の獣人はそう言って嬉しそうに尻尾を振る。
 まあ、村にとって子供が生まれる事は悪い事じゃないし、生まれた赤ちゃんってかわいいから私も見てみたい。

「そうか、まずは良かったな。で、ナディアには会えそうかな?」

「はい、大丈夫ですよ。みんな順番で生まれた赤ん坊を見に来ているんですよ」

 ベルンさんとか言うその獣人はそう言ってアインさんを建物に案内する。

 その建物は他の建物と同じく石造りのものだった。
 扉の前には何人もの人々が嬉しそうな、そしてちょっと複雑そうな顔をしている人が多かった。
 でもアインさんに気付くとみんな「先生」と言って建物への道を開ける。


「アインさんってみんなから先生って言われてるんですね?」

「ええ、何せこの村の人は全部が全部先生にお世話になっていましたからね、長老だって先生にはお世話になってましたから」

 ラーシアさんはそう言ってドヤ顔をする。


「そんな先生に前世では娶ってもらったというのに、今世では妹になってしまうだなんて! もし妹で無かったらすぐにでも襲っているのに!!」


 ラーシアさんはそう言って鼻息を荒くする。
 私はエルフの村にいるシャルさんを思い出し、アインさんをジト目で見る。

 エルフの女性は伴侶と決めた人に対して「時の指輪」と言う秘宝を渡す事によって「命の木」と同期をさせる事が出来る。
 つまり、女性のエルフが死なない限り、または「時の指輪」を外さない限りずっと一緒に居られる。
 年をほぼとらずに。

「違うぞ、決してシャルの事をないがしろにしているわけではないぞ。俺の役目が終われば必ず迎えに行くんだからな」

 まるで私の考えを察したかのように絶対に目を合わせないでアインさんは独り言のようにそう言う。

 まったく、いい加減にシャルさんを迎えに行けばいいのに。
 シャルさんだってアインさんの為ならエルフの村を出る事だっていとわないだろうに。

 ……シャルさん家のおじさんが大騒ぎにはなるだろうけど。


「先生、よくぞ来てくださいました!」

 私がそんな事を考えていると、そう言ってアインさんを出迎えたのは獣人の男性だった。
 トラのような髪の毛で、体つきもやたらと筋肉質だった。


「バック、ナディアの様子は?」

「ええ、もう落ちついていて母子ともに元気ですよ。ジークハルトも一緒になって寝てます」


 ん?
 バックさん??

 と言う事は、アディアさんの旦那さん!?


「そうか、実は女神様の事で少し相談があって来たんだが、話をしても大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですよ。どうぞこちらへ」

 そう言ってバックさんは更に奥の部屋に私たちを招き入れるのだった。


 * * *


 そこは寝室になっていて、部屋も暖かくされていた。
 大きめのベッドには赤い髪の女性が半身を枕やクッションで起き上がらせ、赤ん坊を抱いていた。


「ナディア、先生が来られた」

「先生? アイン先生がわざわざ来て下さったんですか?」

 そう言って部屋に入ると、ラーシアさんがいきなりアインさんの眼を後ろから目隠しする。


「先生! 見ちゃダメ!! ナディアさん今授乳中です!!」


「あら、ラーシアも来てくれたの? 別におっぱいやってるとこくらい見られても平気よ?」

「ダメです! ほら先生は後ろ向いて!!」

 ラーシアさんに言われて後ろを向くアインさん。

「すまんな、授乳中とは思わなかった。まずは出産おめでとう。元気な子が生まれたらしいな?」

「別に見られても平気ですってば。でも、みんなのお陰で無事出産出来ました。ありがとうございます」

 そう言ってナディアさんはにっこりと笑う。
 真っ赤な髪の毛を一つに縛り、優しそうな顔で微笑んでいる。
 正直、大人の女性って感じで物静かな印象を受ける美人さん。
 人族のようだけど、抱いている子供にはなんかネコか何かの耳があるような……


「ところで、そちらは?」

「あ、すみません。私はリル、こっちは双子の妹のルラです。初めまして」

「ルラだよ、初めまして!」


 ナディアさんは私たちに気付いて聞いてくる。


「初めまして、こんな格好でごめんなさい。ナディアです」


 ナディアさんはそう言って軽く会釈する。
 おっぱいあげながらなんで無理はしないで欲しいな。

「いえいえ、あの、赤ちゃんにおっぱいあげるの待ちますから、先にそっちを」

「ふふふふ、ありがとう。でももう終わりよ。おっぱい飲みながら寝ちゃったみたいだから」

 そう言ってナディアさんは赤ちゃんを優しく抱きかかえ、背中を軽くたたき始める。


 ポンポン

 けぷっ!


「これで一安心ね。ごめんなさい、待たせちゃって」

 そう言って赤ちゃんを籠の中に寝かせる。
 その向こうにはもう一人ちっちゃな子供が寝ている。


「もう良いのか?」

「はい。ラーシア、もう大丈夫よ?」

「分かりました、ナディアさん」

 アインさんがそう聞くとナディアさんは胸元を隠しこちらに向き直る。
 ラーシアさんがそれを確認してからアインさんから手を放す。

 やっと自由になったアインさんは咳ばらいを一つしてからナディアさんに向き直る。


「生まれたばかりですまないが、女神様について相談があってやって来た」

「エルハイミですね……すみません、みんなに迷惑かけてしまって……」

 ナディアさんはすまなさそうに下を向く。
 しかしそんなナディアさんにアインさんはそのまま話を続ける。

「ナディアのせいではない。しかしここに居るみんなは女神様には大きな恩がある。だからなるべく穏便に女神様に今世のティアナ姫をあきらめてもらう方法について相談に来たんだ」

 アインさんがそう言うとナディアさんはハッとしてこちらに顔を向ける。

 その瞳には涙がにじみ出ていた。


「エルハイミに私をあきらめさせるため?」

「ああ、そうだ。だからリルとルラもつれて来た。だからティアナ姫にも協力をしてもらいたい」



 アインさんのその言葉にナディアさん、いや、ティアナ姫は目を丸くするのだった。


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