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第十章 溺愛
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しおりを挟む『帰るわ。
馨ちゃんによろしく』
夕方、姉さんからメッセージが届いた。
姉さんの恋人も苦労するな。
今日、馨は打ち合わせに出て直帰予定。誘おうかとメッセージ画面を眺めて、やめた。
久し振りに独り酒でもと思ったが、それもやめた。
帰って馨の部屋の準備でもするか……。
平内の話を聞いた時はさほど感じなかったが、時間が経つにつれてゆっくりと苛立ちが募っていった。
馨に結婚したい男がいた――。
処女じゃないことは気にならなかった。けれど、男慣れしているようではないし、あまり経験がないのだろうと勝手に思っていた。
人数の問題じゃねーよな。
俺は何人かの女と付き合ってきたが、一度として結婚を考えたことはない。それどころか、『愛してる』と口にしたこともない。
けれど、馨は結婚を約束し、『愛している』と囁き合った相手がいた。
俺はまだ言われたことのない、言葉。
契約だなんて言い出したくせに……。
暗くて静かな家に帰った時、今朝の馨の姿を思い出した。
陽の光が満ちた温かいリビング。香ばしい香り。エプロン姿の馨。
どうしてこんなに、求めてやまないのだろう――。
年甲斐もなく『運命』なんて言葉を信じてしまいそうなほど、馨が愛おしくてたまらない。
まさか、本気で結婚に惹かれる日がくるとは思わなかったな……。
『高津さんにプロポーズされて、本当に嬉しそうだった』
平内の言葉がよみがえる。
義父の転落死がなければ、馨は他の男の妻になっていた――。
馨が俺じゃない男の為に台所に立ち、俺じゃない男に抱かれるなんて、想像だけでも腹立たしい。
馨は俺のモノだ――――。
俺は今朝まで姉さんが眠っていたベッドからシーツを剥ぎ取り、洗濯機に放り込んだ。
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