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第二十一章 苦悩
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しおりを挟むそれ以上、聞きたくなかった。
俺を陥れる為だけに、複数の男に身体を好きにさせるなんて、嫌悪しか感じない。
「ねぇ、雄大」
「なんだ」
「結婚、してよ」
「玲」
「あの女を愛人にしてもいいから」
「話にならないな」
俺は立ちあがり、濡れたスーツの襟を正した。
「玲、これが最後だ。いい娘でありたいのなら、妊娠がバレる前に俺を諦めろ」
「嫌だと……言ったら?」
「盗撮やメールの一斉送信が出来るのは、黛だけじゃない」
「……」
玲は俺の言いたいことを理解したようだった。絶望を隠そうと、深く息を吸う。
「親には俺を嫌いになったと言えばいい。変態的なプレイを強要されたとでも言えば、親も納得するだろ」
玲がふっと笑う。
「どんなプレイよ」
「それは任せるよ」
「してよ」
背後から伸びてきた細い腕が、俺の腹に巻き付く。
「最後に、抱いて」
縋るようなか細い声。
玲ほどの女に乞われたら、ほとんどの男は二つ返事に振り向くだろう。
けれど、俺の身体は全く反応しなかった。
それどころか、帰って馨に玲の移り香に気付かれたらと考えると、怖くなる。
「無理だ」
「誰にも言わないから。本当に、最後に――」
「違う。不可能なんだよ」
俺は玲の手を解き、振り向いた。
「馨以外に勃たないから」
「は――?」
「悪いな」
涙目で呆けた顔をしている玲を尻目に、俺は部屋を出た。と、同時に、スーツのポケットで聞き耳を立てていたスマホを停止させた。
これを使わずに済むことを、願った。
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