36 / 60
36
しおりを挟む財布とスマホ、鍵だけを持って理仁は家を出て外から施錠した事を確認するとそのまま廊下を通りエレベーターへと向かう。
エレベーターに乗り込んで下へと向かい、エレベーターが一階に着いた所で、エレベーターを待っていた人物とぱちり、と目が合った。
「──藤川さん?」
外でエレベーターを待っていた琴葉も、エレベーター内に居るのが理仁だと分かったのだろう。
笑顔を浮かべると手を振って居る。
直ぐにエレベーターの扉が開き、理仁が扉から出てくると琴葉が挨拶を口にした。
「大隈さん、おはようございます。お出掛けですか?」
「おはようございます、藤川さん。はい、ちょっと映画を見に行こうと思っていて……。藤川さんはごみ捨てですか?」
お互い、場所を入れ替えるようにして理仁がエレベーターから降りると、琴葉がエレベーターへと乗り込む。
「そうなんです、朝一のごみ捨てです」
「休日なのに、藤川さんは凄いですね。俺、予定が無ければこの時間帯はまだ寝ちゃってますよ」
「ふふ、朝起きるのが癖になっちゃってるんですよ……。あっ、映画の時間遅れちゃいますね、引き止めてしまってごめんなさい」
「ああ、いえ。大丈夫ですよ、ありがとうございます」
「──えっと、行ってらっしゃい大隈さん」
「……っ、行ってきます」
何処か気恥しい雰囲気を互いに感じながら、行ってきます、行ってらっしゃい、と挨拶を終えると琴葉がエレベーターの「閉」ボタンを押す。
閉まる扉の奥で、琴葉が笑顔で手を振ってくれる姿に理仁も軽く手を振り返すと琴葉を見送った。
上昇して行くエレベーターを理仁は無言で数秒見詰めていたが、はっとして振り返ると急いでエントランスから出て行った。
駅に到着し、ホームで待っていると程なくして電車がやって来る。
理仁はそのまま電車へと乗り込むと、映画館がある駅までの短い時間、スマホを操作しながら映画の座席を予約した。
映画館の駅に到着して理仁がその駅で降りると、朝食を食べて来ていないからか、腹から「くぅ」と音が鳴り、理仁は駅の近くにあるファーストフード店へと入る。
映画が始まるまではまだ小一時間程時間がある。
元々映画館の近場で朝食を済ませてしまおう、と考えていた理仁はモーニングのセットを頼んで一人用の席へと腰を下ろした。
目の前がガラス張りの窓になっていて、駅から出て来る人の流れが見える。
この駅を使う人は大体が映画を観に来る人だ。
理仁が生まれるより以前にこの駅に映画館が出来て、昔はテーマパークもあったらしいが、今ではそのテーマパークは閉園してしまっており、この駅を利用する人は殆ど映画館に来る人が多い。
閉園してしまったテーマパークの跡地には、大型のショッピングモールが出来る予定らしい。
(ショッピングモールが出来れば、またこの駅も人の利用が滅茶苦茶多くなるだろうな……あんまり人が居なくて穴場だったんだけどな)
そこまで人の利用が多くないこの映画館がお気に入りだった理仁は、残念そうに溜息を吐き出すと人の流れをぼうっと見詰める。
駅から人が出てきて、殆どの人が映画館へと吸い込まれるように入って行く。
休日、と言う事もあり時間ギリギリになってしまうと発券も時間が掛かりそうだ。
(──一服もしたいし、早めに出るか……)
理仁は残っていたハッシュポテトをぱくり、と一口で食べ終えるとホットコーヒーのカップを手に持ち席から立ち上がった。
映画館に入り、直ぐに映画のパンフレットを購入するとそれを持って喫煙室へと真っ直ぐ向かう。
煙草に火を付けて、購入したパンフレットをパラパラと捲り、目を通す。
有名なハリウッド俳優が何人か出演しているのを確認すると理仁は「面白そうだな」と心の中でごちる。
偏見かもしれないが、名の知れた俳優が出ていない映画には外れが多い。
その点、今から理仁が観ようとしている映画には名の知れた俳優が複数出演している事から制作にも金が掛かっているだろうし、酷い内容にはなっていないだろう、と安心する。
理仁は吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて火を消すと、喫煙室を出て自販機へと向かう。
蓋の付いたコーヒーを買うと、スマホで時間を確認する。
そろそろ良い時間だ。
理仁は事前に購入したチケットを発券しに窓口へと向かい、そしてそのまま上映されるスクリーンへと足を向けたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
107
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる