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第九十八話(*閲覧注意)

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今回の話には、不快な描写が出てきます。
(孤児、売春、等)嫌な予感を感じられた方はブラウザバックをお願いします。
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ミリアベル達三人が第三王子にこちらに来て貰おう、と話していた前。





──国王陛下と大司教が謁見の間を出た頃。

ガツと靴音を荒立てそうになりながら、大司教の男──イルムド・アルガムフィアは苛立ちをひた隠すようにして王城の廊下を歩いていた。

(くそ──っ、小娘め、余計な事を……!)

このままではミリアベル・フィオネスタを直ぐに傀儡にして甦りの禁術を発動させる計画が狂う。

イルムドはぎり、と奥歯を噛み締めて荒れ狂う自分の心の中を必死に落ち着かせる。
教会に身を置く自分は感情に左右されてはならない。いつでも神の代弁者として相応しく朗らかに、怒りの感情等とは無縁だ、と言う仮面を被り続けねばならない。

廊下を歩いている今でさえ、自分の姿を視界に捉えると頭を下げる無能共がいる。
その無能共に少しでも猜疑心を抱かせてはならないのだ。
イルムドはその無能共、に向けて微笑みを浮かべて目の前を通り過ぎて行く。

(あと、少し──あと少しで全てが俺の手の中に落ちてくるのに──!)

イルムドは、美しく波打つ白銀の長い髪の毛をふわりと風に靡かせて王城から自分の聖域である教会へと戻る為にひたすら足を動かしていた。







この白銀の髪の毛を「美しい髪の毛ね」と微笑んで触れてくれた優しい手をした人はもうこの世には居ない。
自分に屈託なく笑顔を向けてくれる最愛の人とはもう二度と会えない。

神だろうが悪魔だろうが、自分から唯一の存在を奪ったこの世界を男は只管に怨み、憎悪し、壊してしまいたかった。
その人が居なくなってからは怒りと怨みだけを感じて生きてきたのだ。





イルムド・アルガムフィアと言う男は、孤児であった。
今はこの国でその事を知る人物は居ない。

物心ついた頃には既に毎日泥水を啜り、腐った食料を食べ、薄汚れた貧民街で地べたを這いつくばりながら生きて来た。

イルムドは「それ」が普通だったし、その生活に不満も何も抱いていなかった。
食べれなければ死んで行くし、悪い物を食べて死んで行く者もいた。
そんな光景を見るのは日常茶飯事で何も不思議に思っていなかった。

そして、イルムドがそうして暮らして数年。
十四、五歳になると自分の容姿が優れている事に気付いた。
髪色は薄汚れていて汚いが、手入れをすれば輝かんばかりの美しい白銀で瞳の色も澄んだ青。
晴れた日の空のような色をしていて、その頃からイルムドを「そう言った目」で見る者が増えてきた。

泥水を啜らなくても、腐った食べ物を食べなくても、地に這いつくばらなくても自分の体を使えば楽に飢えを凌げる。
イルムドは、それから身なりを整えるようになりそう言った仕事をしていくようになった。
人と関わる事が増えれば会話をする事も増える。
相手は男女問わず、誰とでも仕事をしたが殊更女性を相手にする方が多くの知識を得る事が出来た。
女性はお喋りだ。
聞いてもいないのにぺらぺらと様々な事を語ってイルムドに知識を与えてくれた。
イルムドは頭の出来や回転も悪くなかったようで、吸収した知識でイルムドは自分がこの国でも最下層の生活をしている事に気付いた。

その頃から「何故自分がこんな目に合わねばならないのか」と怒りを覚えるようになった。
誰を恨めばいいのか、誰に怒りをぶつければいいのか分からず、生まれた場所でその人間の一生が変わると言うのはとても理不尽だと感じた。

自分だって貴族の子供に生まれていれば。
貴族とまでは言わなくても、普通の平民の子として生まれていれば。
奴隷ですらまだ自分よりマシな生活をしているのではないか、と思った。そう考えるだけの知識を得てしまった自分を怨みもしたし、自分に知識を与えた者達も怨んだ。
イルムドを数多く買った貴族を殊更強く強く怨んだ。

どうしたらこの生活から抜け出せるのだろうか、とイルムドは考え出す。
そしてすぐに思い至った。教会へ、神殿にこの身を捧げよう。と。
知識を得たお陰で、この国には神へその身を捧げる奉仕活動があることを知った。
まずはそこに志願し、教会に属そう。
そうすれば最低限の衣食住は保証されるし、神に仕える者達は"良い人間"だろう。
この世を怨むのも、誰かを怨むこの気持ちはもしかしたら神に仕えれば少しはマシになるかもしれない、と思い立ちイルムドは今までの生活を捨てて教会の門を叩いた。

救われた、と思ったイルムドはだがそこで人間の欲深さに再度打ちのめされる。
神に仕えるだなんだのと言っても所詮は欲深い人間だ。
そこでもイルムドは餌食になった。
救いを求めて教会へと来たのに人々に神の救いを与える教会がイルムドの僅かに残った希望も何もかもを奪ったのだ。

神などこの世にはいない。
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