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愛は変態を助長させる

19:僕の幸せ

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 真翔さんとコタツに座っていると
僕に唇を重ねて来た。

びっくりしたけど、嫌じゃない。

僕の腰を抱き寄せて、
何度も唇が合わさる。

僕も真翔さんのぬくもりを
もっと感じたくてその背に手を回した。

そして大きな胸に顔をうずめる。

大好きな真翔さん。

真翔さんは、僕が以前、男だったことも
幼いころに母の恋人に
性的暴行を受けそうに
なったことも話している。

そして、それが原因で
施設で育ったことも。

その流れで、僕の今の身体の持ち主、
悠子ちゃんのことも話しをした。

悠子ちゃんは、
僕が会社の先輩男性に
性的に迫られて衝動的に
死を選んでしまったために、

僕の身代わりに
異世界に行ってしまった
僕の大切なたった一人の【家族】だった。

いつだって僕を守ってくれた悠子ちゃんが
いなくなって。

僕の死んだ魂は悠子ちゃんの生活を
ただ守るためだけに、この体に入った。

いつか異世界から戻って生きた悠子ちゃんが
そのまますぐに生活できるように、と。

でも僕は真翔さんと出会い、恋をした。

あれほど男の人が怖くて苦手だったのに、
真翔さんだけは別だった。

そして悠子ちゃんは、この体ごと
この世界で生きていく権利を
僕に譲ってくれた。

真翔さんと幸せになるために。

悠子ちゃんは別の世界で。
男性しかいない世界だと聞くけれど、
幸せに過ごしているだろうか。

女神さんの声は、
最近はまったく聞こえなくなったけれど、
あの公園の白い花が咲いているうちは
悠子ちゃんも、愛に満ち溢れて
幸せに過ごしているのだと思う。

だから僕は、あの花を見ると
安心するのだ。

僕が今、真翔さんと一緒にいて幸せだから。

真翔さんは僕の髪を何度も撫で、
「今度、連休が取れたら」
と言う。

僕は顔を上げた。

「その、旅行に行かないか?
良かったら、だけど。
先輩に良いホテルを教えて貰ったんだ」

旅行!?

僕は目を見開いた。

僕は今まで旅行なんて行ったことがなかった。
それこそ、修学旅行すら行かなかったのだ。

そんな僕が旅行だなんて!

「あ、違う。
良いホテルを教えてもらったのは
本当だけど、ホテルに泊まりたいんじゃなくて、
悠子ちゃんと一緒に、非日常を
味わいたいと言うか、
いや、そうじゃなくて」

何故か真翔さんがあたふたと
話始めるが、意味が分からない。

でも、非日常という言葉には惹かれた。

僕は人見知りが激しいし
人混みにもすぐに酔ってしまう。

こんな僕でも旅行に行けるのだろうか。

「行きたい、です。
でも、僕は人が多いとすぐに
気持ちが悪くなってしまうから……」

真翔さんがそばにいてくれたら
街中を歩くぐらいは平気になったし、
今日も、真翔さんが一緒で、
真翔さんが尊敬している先輩さんだったから
一緒に食事をすることができたのだ。

もちろん、先輩さんも
優しい人だったから
僕も緊張しなくて済んだというのも
あるけれど。

でも、極端に人が多い場所とかは
自信がない。

海とかプールとかは絶対無理、だと思う。
あと遊園地も楽しそうだけれど
人は多そうだし、アトラクションとか
乗り物とかも楽しめる自信がない。

僕が不安そうにしたからか、
真翔さんは大丈夫、という。

「旅行と言っても、
無理に外に出て遊ばなくても
いいと思う。

それこそ、のんびり車で出かけて
ホテルで一日、だらだら過ごして
ゆっくり帰ってくるだけでも
リラックスできるだろうし」

え?
そんなもったいないことしてもいいの?

一日、ホテルで真翔さんと
のんびりダラダラって、
物凄く嬉しい。

この部屋で一緒に一日
のんびりするのと、
きっとまた違った感じだよね?

さっき真翔さんが言っていた
非日常が味わえるかも。

僕の表情が変わったことに
真翔さんは気が付いたようだった。

「じゃあ、日程とかは
俺の仕事の都合で決めていい?」

「はい。
僕の休みはきっと、
言えば休ませてくれると思うので」

真翔さんのお母さんという
強い味方もいるし。

「良かった」と真翔さんは
優しい顔をして
僕の頬に触れた。

「今日も、ここに泊ってもいい?」

「……はい。
でも、明日は仕事なのに大丈夫ですか?」

このアパートと真翔さんの家は
言う程離れてはいない。

電車の最寄り駅は同じだし、
駅を挟んで逆方向だけれど、
近所と言えば、近所だと思う。

でもここから出勤というのは
初めてだ。

大丈夫だろうか。

「何か心配?」

真翔さんに言われて、僕は考える。

真翔さんの着替え……は、ある。
朝ご飯を一緒に食べる時間も、
早起きをすれば大丈夫。

心配するようなことは、ない、かな?
僕が首を横に振ると、

「じゃあ、いい?」

何が?とは聞かない。

だって真翔さんの瞳は
僕がドキドキするほど熱が籠っていて、
僕のワンピースの裾には
大きな指が触れているのだから。

僕は、はい、と小さく返事をする。

恥ずかしいが、真翔さんに
触れられるのは好きだ。

優しく触れられると
心が満たされるような感覚になる。

真翔さんが僕だけを見て、
僕だけを求めてくれる姿に
僕はいつも、もっと!って思うんだ。

あ、でも、まって。

僕は今日購入したばかりの
ワンピースを着ていることを思い出した。

僕は真翔さんの腕から抜け出す。

「悠子ちゃん?」

「このワンピース、今日、
買ったばかりで気に入ってるので」

僕は真翔さんのそばで立ち上がり、
えい、っと背中に腕を伸ばして
ファスナーを下げた。

皺にならないように、
ハンガーにつるしておかないと。

「たまに……悠子ちゃんは
こうやって俺の前で
無防備になるんだよな」

真翔さんが息を吐く。

意味が分からず僕が真翔さんを
見る前に、大きな手が
僕の背中のファスナーを下まで下した。

「あ、ありがとうございます」

「……ありがとう、じゃないかも?」

真翔さんがそんなことを言う、

なんで?と思ったら、
向き出した背中をぺろり、と舐められた。

「ひゃっ」

「積極的なのは嬉しいけれど
誘うつもりはなかったんだよね?」

なかったです!
僕がコクコクと頷くと、
真翔さんは笑って僕を抱き上げた。

すとん、とワンピースが床に落ちる。

「このまま抱いたら怒るかな?」

真翔さんはワンピースを見下ろした。

僕は……しわになる、って思ったけれど。

真翔さんの体温を感じて、
そんなことはどうでも良くなってしまった。







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