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第172話

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【王国歴1000年夏の月60日】 

 俺達は10日間ソウルスキルの訓練を続けていた。
 10日経ち、それでもカムイパーティーは目覚めなかった。
 カムイの腕を見ると痩せて細くなっていて、目覚めたとしても戦う事は難しいだろう。
 今日のカムイ参戦は絶望的な事が分かった。


 夕日で防壁が照らされ、日が沈みそうになる頃。

 西のドリルが歩いて防壁に近づいてくる。
 アオイがドリルの能力をみんなに教えあわただしくファルナが声を上げる。
 たった一人だが、まとうオーラと堂々と、じわじわゆっくりと歩くその姿で防壁の外で隊列を組む兵士の顔が引きつる。

 ドリルには邪神と似た威圧感があった。

「アオイ!久しぶりだな!俺に犯されるために出て来たか!手間が省ける!」


 アオイはドリルを無視するように叫ぶ。

「ドリルは強いわ!でも邪神ほどの力は持っていないのよ!」

 ドリルが走りながら叫ぶ。
 まるで怪獣が叫んだような叫び声で兵士の体が固まる。

「「アオイいいいいいいいいいいい!やっとお前を犯せるううううううううううううううう!」」

 ファルナが叫ぶ。

「カースウォー発動!」

「「カースウォー!」」

 魔導士が一斉にカースウォーを発動させる。

「魔法射撃!開始!」

 一斉にドリルに向けて魔法攻撃が開始された。

「ファルナ!攻撃をやめさせろ!ドリルの気配が、地中に移動した!」
「攻撃中止ですわ!!」

「ドリルは腕をドリルに変えて地中を進むことが出来るわ!兵を散開させなさい!地中から飛び出してくるわ!」
「散開陣を取るのですわ!」

 地面が震え、音がする。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 地中からドリルが両手をドリルに変えて地面に飛び出し、勢い余って空高く飛び上がった。

「魔法攻撃を再開しなさい!」

 的になったドリルを魔法攻撃とエリス、サミスの銃で攻撃する。
 並みの敵ならここで終わる。

 だが、地上に轟音と共に着地したドリルを見ると、健在で、血を流してもいない。

「痛えじゃねえか。だが、陣の中央で魔法を撃てば、味方に当たるぜ?どうするよ?なあ、アオイ!」

「まさか、これほど攻撃が通らないとは、苦しい戦いになりますわね」
「ドリルの能力は【超攻撃】と【超防御】よ!エースだけで戦うしかないわ!」

「兵士は下がるのですわ!」

 俺・アオイ・ヒメ・サミス・ファルナ・シルビア・エリスだけがドリルの近くに残った。

 その時、防壁の上から兵士の女性が叫ぶ。

「報告します!東から北のファングが現れ、魔石を強奪しています!」
「東のアサヒではなく、北のファングですのね!?」
「はい!北のファングが東から現れました!」

「ハイエナが!逆方向から回り込んで攻めてきたか!」
「おいおい!どうするよ?アオイがここに残るなら、10分だけ待ってやる。行ってきても良いぜ!」

 ドリルがアオイの体を見ながら不気味に笑った。

「ハヤト、ヒメ、行きなさい」
「く、分かった」

 俺はヒメをおんぶして防壁にジャンプして壁を蹴って防壁を乗り越えつつ真っすぐ東を目指した。
 ファングは動きが早い。
 アオイの話では対抗できるのは俺だけらしい。




【アオイ視点】

 残ったのは私と、サミス・ファルナ・シルビア・エリスだけね。
 カースウォー&攻撃魔法も通用しない事が分かった。
 恐らく、倒す事は出来ない。

 ドリルは直感で動く、その時の直感で行動を決める分私の目で見ても、行動が読みにくい。
 有効な攻撃はシルビアのファイナルスラッシュなのだけど、1撃しか撃てないあのソウルスキルだけでは決定打にはならない。

 サミスとエリスの銃は遠距離攻撃なぶん攻撃力は弱く、ファルナもタンクタイプで攻撃力は控えめ、3人も決定打にはならない。

 攻撃が通りそうなのは私とシルビアだけになるわね。
 それも決定打にはならない。
 恐らく通用せずやられる。

「アオイ、良い顔だな!お前が犯される顔を見ているようだ!時間稼ぎをしたいんだろ?少しだけ話をしてやるよ!」

「あら、乗ってくれるのかしら。いいわね。話をしましょう。所で、あなたが勝ったとして、その後はどうするのかしら?ファングがあなたを殺すと思うのだけれど?」

「ああ、その話か。まずお前らを倒してファング達の元に向かう。そして勝った方を倒してアオイで楽しむ。簡単な話だ」

「そう簡単に行くのかしら?ファングはあなたと同じ魔石を食らって強くなる能力を持っているわ」
「俺が勝つが、そうだな。予定変更だ。最期はアオイだけじゃなく、ファルナも貰う。お前だけじゃ壊れちまうだろ?交代で楽しんでやるよ!」

 スティンガーとそっくりね。
 でもそれを言ったらドリルはすぐに攻撃を始める。
 それだけは避けたい。

「ずいぶん余裕なのね」
「この中で。いや、ファングの所に行ったハヤトが一番強いんだろ?ファングに目を向けさせたいのは分かるが、ファングとハヤトが戦えば勝った方は無事では済まないはずだ」

 ドリルは厄介ね。
 勘がいい。
 自信家ではあるけれど、ハヤトが強い事を分かっていて、私の思惑も直感で見抜いてくる。

 アサヒやファングより厄介だわ。

「時間稼ぎには乗ってやった。そろそろ始める!」

 ドリルの右腕と左腕がドリルの形に変わり、腕がぎゅるぎゅると回転しピタッと止まった。

 その動きを見て全員が構える。

「俺のドリルはすべてを貫く」

 そう言いながらドリルは前に出た。
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