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第42話

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 マヨイガダンジョン鳴神乃宮、壱の回廊。
「華咲さん、魔物反応はどうだ?」
「今は大丈夫みたいね……」
 灰色の大回廊でヴォルトハイエナの群れによる挟撃を撃退したオカルト研究会マヨイガ探索隊、鳴神乃宮探索チームの須田丸・美香・茜は警戒態勢のまま前進を続ける。
「おそらくこのまま進めばいずれ取り逃した奴らに遭遇する……気を付けて進まねば」
 マヨイガエレメント・アクアで生成した反撃用スパイク付きの防御氷壁『アイススパイクウォール』で皆を守りつつ反撃したものの、致命傷を与えるには至らず逃してしまった美香は黙ってうなずく。

「ここは……広間なのかしら?」
「あれは罠か……それとも新手の現代アートか?」
 狭い廊下を抜けた3人がたどり着いた四角い部屋。
 正面の壁に設けられたマンホールの蓋よりも一回り程大きい赤い突起物には『壱』の文字が書かれており、周囲には世界の様々な言語とフォントで「これを押せ!」と表記された吹き出しが重なり合って描かれている。
「渋谷のグラフィテイアートみたいだな。俺はこのセンス嫌いじゃないぜ」
 須田丸はスマホを取り出し、後で(自称)未来の大芸術家・英里子先生にお見せするためにカメラで写真を撮る。
「私はあの手の芸術はよくわからないが……とにかくアレを調べよう」
 3人が壱のボタンに向かおうとしたその時、日の前に黒い渦が現れる。
「ゥギッ……ギィィィィ」
 そこから出て来た全身を黒く尖った剛毛で覆われ二足歩行する類人猿型の魔物。
 巨大な黒石斧で武装したそれは血走った目と剥き出しにした牙で3人を威嚇する。
『アイスショット!』
「ウギィ!」
 魔物が斧を地面に叩きつけると、英里子のアーススパイクの要領で岩壁が出現。
 美香が高速射出した氷塊を受け止める盾となる。
「なっ……!」
 黒野猿は斧を振り上げ、防壁として利用した岩壁を粉砕し、3匹の敵めがけて大石小石を叩き飛ばす。
『エレメントプラス・ウインド!』
 茜はマヨイガエレメント・ウィンドで強化済みの矢を大弓から射出してそれを迎撃。
 風の力を纏った剛弓は風圧で敵の投石攻撃を一気に吹き飛ばす。


「ギィヤァァァァ!」
 肩を矢で貫ぬかれ、悲鳴をあげつつもすぐさま左肩に刺さった矢を引き抜こうと手をかけた魔物だったが、その腕を何者かに掴まれる。
「スダスダスダスダスダスダスダダダダダダダラア!」
 マヨイガエレメント技『ヴォルトアクセラート』による総合能力強化状態で超高速移動し、その背後を取った須田丸は敵に反撃する隙も与えず超加速状態でのヘヴィパンチラッシュを敵の全身に叩きこむ。

『エレメントプラス・サンダー!』
 文字通りの無呼吸連打で骨も筋肉も内臓も丹念に丁寧に叩き潰した須田丸はそのフィニッシュと同時に一歩下がって須田丸は肩のアーマーに追加エレメントプラス。
『ヴォルトショルダー!!』
 強化状態で加速し、敵にショルダータックルをぶちかます。
「ウッ……キィ……」
 無機質な金属壁に叩きつけられた魔物はそのまま絶命、地面に落ちる。
「ブラックエイプの剛毛、ブラックエイプの爪……色々手に入ったな」
「それにこいつが持っていた斧、ただの石斧じゃなくて『黒曜石の狩斧』って言うみたいです! なんかすごい物かもしれませんよ!」
 アイテムスキャナーで魔物本体とその武器をスキャンし終えた3人はステータス画面のアイテムストレージを確認しつつ驚きの声を上げる。
「とりあえず、あの鍛冶屋の小鬼に見てもら……んっ、何だ?」
「先輩からマヨイガ通話みたいですね、何でしょうか?」
 ステータス画面から勝手にポップアップしたマヨイガ通話アイコンを美香はタッチする。

「先輩、どうしたんですか?」
『美香さん、無事でよかった! 僕達は地乃宮のセーフティルームに入ったんだけど……奇妙な事に遭遇したんだ。そっちで魔物を出す黒い渦や骸が消える現象が起こってないか?』
「魔物を出す黒い渦……? それってさっきのアレじゃねぇの?」
『須田丸君、それはホンマか! 雲隠さん、これはクロで確定ですぞ!?』
『そうだな、鳴神乃宮チームは今セーフティルームとかそういうので戻れる状況か? ちょっとこれはゴブガミも交えて話さなくてはならない事かもしれない』
 雲隠リーダーの重い口調に3人は事態の深刻さを理解する。
「わかりました、先輩。今すぐ私達もマヨイガを出ますけど、どこで合流しますか?」
「雲隠、私の家に出られるか?」
『わかりました、茜さん。僕達は一足先にそちらに出ますので鳴神乃宮チームもそこに出てください』
 雲隠からの通信が切れた直後、3人は壱のボタンを壁に押し込んで緊急脱出する。

「お嬢様、お帰りなさいませ!」
 茜の自宅、超高級マンションマヨイガタワー最上階。
 オカルト研究会のご学友と共に夏休みの課外活動を終え、テレポート的なモノで帰って来た茜お嬢様に世話係の宮守は頭を下げる。
「宮守、部活動の件で五武神顧間に話さなくてならない事があるからすぐに来るように連絡をお願い。あと5人分の冷たい飲み物も」
「かしこまりました、お嬢様。五武神顧間殿の件ですが、彼は先ほどこちらにひょっこりと現れまして……オカルト研究会の皆さんに見せてくれとこちらを」
 宮守が取り出した紙袋内にはプラスチックケースに入ったCDが1枚ある。
「これはBDディスクみたいね……宮守、飲み物は後でいいわ。これを先にセットして」
「かしこまりましたお嬢様」
 何インチあるのかと聞くのも野暮な超大型モニターに繋がれたBDプレーヤーにゴブガミのディスクをセットした宮守は内部の映像データを再生する。

【第43話に続く】
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