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第43話
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『これを見ていると言う事は……おそらくマヨイガで異常事態があったと言う事だろう』
モニターに映し出されたのはどこか暗い板張りの和室、和ろうそくの燭台を持って白狩衣に烏帽子姿のゴブガミだ。
『おそらく雲隠君は火乃宮での経験もあるからエラーの類だと思っているかもしれない。
でもこれはれっきとしたマヨイガ探索の試練にして仕様なんだ。今からその詳細を説明する。落ち着いて聞いてくれ』
ゴブガミは袖からずずいと取り出したスケッチブックを開き、カメラに近づけてくる。
『これまでは倒した魔物はアイテムスキャナーで素材やアイテムとして回収して終わりだった。だが君たちが2つの宮を同時に進めると言う事で地乃宮の主と鳴神乃宮の主が協力して面倒くさい討伐システムを導入してしまったんだ』
「面倒くさい? どういう意味や」
画面に表示されたカタッムリ魔物を倒す棒人間アニメを凝視しつつ英里子はテレビにつっこむ。
『例えば探君達が地乃宮で魔物を倒したとしよう。するとその魔物は鳴神乃宮に強化転送されて送り込まれるようになったんだ……こんな感じにね』
スケッチブック棒人間アニメが再度始まり、二分割されたスケッチブックの左サイドでカタツムリ魔物に遭遇した2人の棒人間は砂煙ボコボコで戦闘開始、そして煙が晴れた左サイドから消えたカタツムリ。それからほどなくして右サイドに出現したトゲトゲ巻貝に王冠を被った巨大化カタツムリ魔物に右サイドの3人はびっくリモーションを取る。
『この件でアウェーのボクの力が及ばすに申し訳ない……どうにか頑張ってくれ』
ゴブガミの謝罪と共に砂嵐になった映像が消える。
「……なるほどなぁ、犬が降って来たあの穴とかサルの魔物が消えたのはそれだったんか」
「あのブラックエイプはそういう事だったのか……」
お互いに情報共有し、色々な物が腑に落ちた5人。
ひとまずアレは起こるべくして起こった事象だとわかり安心したものの、次に鎌首をもたげてきたのは今後もこれが続くであろうと言う不安感だ。
「一旦2:3分けを解除して5人で1つずつ潰していくとか?」
「でもそれだと片方が強化魔物のひしめく巣窟と化して…… しまうかもしれないぞ?」
「私達、鳴神乃宮チームはパワー戦特化型の須田丸君が居るから多少強い魔物でもどうにかなるかもしれないけど……英里子ちゃんと先輩はどうでしょうか?」
「美香ちゃん、須田丸君が強いからって彼1人に過信しちゃアカンよ。
でも魔物を倒さずに進めなんて無茶な事を求められてもなぁ……どないすればええねん」
宮守が出してくれたアイスティーの氷をガリガリ噛み砕きながら英里子は考える。
「あの、さっき英里子ちゃんが言っていましたけど……魔物が目の前で同士討ちしていたんですよね? それが事実だとしたら少なくとも私達だけを狙ってくるわけでは無い可能性もあるわけですよね?」
「まだ確定してはおらんけど……確かに見たで。でもなぁ……それ狙えってのも難しそうやで?」
4人が色々と考える中、茜はうつむいて黙り込んでしまう。
(……私が余計な事を言わなければ、こんな面倒な事にならなかったのに。私が足を引っ張ってしまったのか、くそっ……)
「みんな、すま……」
「とにかくだ、これはある意味では強化チャンスだと考えよう。そして最善策として今の2チームシステムは維持したほうがいい」
茜の口から漏れ出しかけた謝罪に探は瞬時に割り込み、鶴の一声で意見をまとめ上げる。
「……雲隠さん」
「まあそうやね、強化魔物っちゅうぐらいだからタタラんとこ持ち込んだらええ武器や防具が出来るんやろねぇ」
「それに魔物討伐スキルポイントも多めに入るだろうからサポートスキルもたくさん習得できるかも」
「流石はリーダー、目の付け所が違うんすね! そうと決まればやるしかないっすよ!」
「……御鐡院さんもマヨイガ戦闘経験を積むと言う意味ではプラスになると思いますけど。何か言いたい事はありますか?」
探は塞翁が馬展開にぽかんとしている茜に問いかける。
「あっ、ああもちろんだ雲隠リーダー! 私も頑張ります、よろしくお願いいたします!」
茜は4人に頭を下げる。
「御鐡院さん、私達の方こそよろしく!」
「ああ、頼りにしてるぜ!」
(うむ、災い転じて福となすとは……雲隠殿やりますな!)
この様子を黙って見ていた宮守は、図らずもこの状況を作ってしまった茜が吊し上げられると言う最悪の展開となる前に別の視点からチャンスの可能性を提案し、士気高揚させた決断力とリーダーシップを好意的に高評価する。
(雲隠家と御鐡院家の歴史や婿入りと言う話はさておき是非ともミテツイングループに欲しい優秀な若者だ……それはおいおい考えておこう)
【第44話に続く】
モニターに映し出されたのはどこか暗い板張りの和室、和ろうそくの燭台を持って白狩衣に烏帽子姿のゴブガミだ。
『おそらく雲隠君は火乃宮での経験もあるからエラーの類だと思っているかもしれない。
でもこれはれっきとしたマヨイガ探索の試練にして仕様なんだ。今からその詳細を説明する。落ち着いて聞いてくれ』
ゴブガミは袖からずずいと取り出したスケッチブックを開き、カメラに近づけてくる。
『これまでは倒した魔物はアイテムスキャナーで素材やアイテムとして回収して終わりだった。だが君たちが2つの宮を同時に進めると言う事で地乃宮の主と鳴神乃宮の主が協力して面倒くさい討伐システムを導入してしまったんだ』
「面倒くさい? どういう意味や」
画面に表示されたカタッムリ魔物を倒す棒人間アニメを凝視しつつ英里子はテレビにつっこむ。
『例えば探君達が地乃宮で魔物を倒したとしよう。するとその魔物は鳴神乃宮に強化転送されて送り込まれるようになったんだ……こんな感じにね』
スケッチブック棒人間アニメが再度始まり、二分割されたスケッチブックの左サイドでカタツムリ魔物に遭遇した2人の棒人間は砂煙ボコボコで戦闘開始、そして煙が晴れた左サイドから消えたカタツムリ。それからほどなくして右サイドに出現したトゲトゲ巻貝に王冠を被った巨大化カタツムリ魔物に右サイドの3人はびっくリモーションを取る。
『この件でアウェーのボクの力が及ばすに申し訳ない……どうにか頑張ってくれ』
ゴブガミの謝罪と共に砂嵐になった映像が消える。
「……なるほどなぁ、犬が降って来たあの穴とかサルの魔物が消えたのはそれだったんか」
「あのブラックエイプはそういう事だったのか……」
お互いに情報共有し、色々な物が腑に落ちた5人。
ひとまずアレは起こるべくして起こった事象だとわかり安心したものの、次に鎌首をもたげてきたのは今後もこれが続くであろうと言う不安感だ。
「一旦2:3分けを解除して5人で1つずつ潰していくとか?」
「でもそれだと片方が強化魔物のひしめく巣窟と化して…… しまうかもしれないぞ?」
「私達、鳴神乃宮チームはパワー戦特化型の須田丸君が居るから多少強い魔物でもどうにかなるかもしれないけど……英里子ちゃんと先輩はどうでしょうか?」
「美香ちゃん、須田丸君が強いからって彼1人に過信しちゃアカンよ。
でも魔物を倒さずに進めなんて無茶な事を求められてもなぁ……どないすればええねん」
宮守が出してくれたアイスティーの氷をガリガリ噛み砕きながら英里子は考える。
「あの、さっき英里子ちゃんが言っていましたけど……魔物が目の前で同士討ちしていたんですよね? それが事実だとしたら少なくとも私達だけを狙ってくるわけでは無い可能性もあるわけですよね?」
「まだ確定してはおらんけど……確かに見たで。でもなぁ……それ狙えってのも難しそうやで?」
4人が色々と考える中、茜はうつむいて黙り込んでしまう。
(……私が余計な事を言わなければ、こんな面倒な事にならなかったのに。私が足を引っ張ってしまったのか、くそっ……)
「みんな、すま……」
「とにかくだ、これはある意味では強化チャンスだと考えよう。そして最善策として今の2チームシステムは維持したほうがいい」
茜の口から漏れ出しかけた謝罪に探は瞬時に割り込み、鶴の一声で意見をまとめ上げる。
「……雲隠さん」
「まあそうやね、強化魔物っちゅうぐらいだからタタラんとこ持ち込んだらええ武器や防具が出来るんやろねぇ」
「それに魔物討伐スキルポイントも多めに入るだろうからサポートスキルもたくさん習得できるかも」
「流石はリーダー、目の付け所が違うんすね! そうと決まればやるしかないっすよ!」
「……御鐡院さんもマヨイガ戦闘経験を積むと言う意味ではプラスになると思いますけど。何か言いたい事はありますか?」
探は塞翁が馬展開にぽかんとしている茜に問いかける。
「あっ、ああもちろんだ雲隠リーダー! 私も頑張ります、よろしくお願いいたします!」
茜は4人に頭を下げる。
「御鐡院さん、私達の方こそよろしく!」
「ああ、頼りにしてるぜ!」
(うむ、災い転じて福となすとは……雲隠殿やりますな!)
この様子を黙って見ていた宮守は、図らずもこの状況を作ってしまった茜が吊し上げられると言う最悪の展開となる前に別の視点からチャンスの可能性を提案し、士気高揚させた決断力とリーダーシップを好意的に高評価する。
(雲隠家と御鐡院家の歴史や婿入りと言う話はさておき是非ともミテツイングループに欲しい優秀な若者だ……それはおいおい考えておこう)
【第44話に続く】
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