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第二章 冒険者

第四十三話 信頼

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 今日は、間抜け王女の、誕生日パーティーである。魔術については、とりあえず保留になった。自業自得だからだ。

 そして、現在移動中なのだが、馬車で移動している。ボムも一緒に、乗っているのだ。そこで、いろいろな疑問が湧くだろう。馬車は大丈夫なのか。馬はどうなのか。ボムが乗ったら、セル達は、乗れないのではないか。などなど。我が家の問題児は、馬車一つ取っても、疑問が無数に湧く存在なのだ。

 馬車は、耐久性をあげるために、買ってきた魔樹に、森羅属性の魔力を一杯まで注いだ物を、加工して使った。車輪や負荷が掛かりやすい場所は、創造魔術でアダマンタイトを作り、それで補強を施した。さらに、重力魔術の魔法陣を使い、軽くなるようにした。

 そして、獅子王神様にもらった時空属性の魔導書を使って、空間拡張をした。これは、テントも兼用なので、簡単な水回りもある。風呂はまだないが、作れと言われている。だが、材料がないため保留である。

 そして、これを牽くのはバイクだから、馬は大丈夫だった。運転手は、もちろん、俺である。王女や辺境伯達も乗りたがったが、体裁的な問題で、各々の家紋が入った馬車に乗っている。だが、今日はボムが外にいないため、馬も安心であった。

 歩いて行っても良かったが、体裁が悪く、ボムが、馬車に乗りたそうにしていたのを、思い出したからだ。俺はなんだかんだ、このおデブな熊さんに甘いのだ。ちなみに、手元の画面で馬車の中の様子が見え、子機で通信を取るようにしている。

 今は、カルラのおめかし中である。ボムが櫛を入れ、リボンをしてあげている。リボンの結び目は、いつもネックレスにしている、子機をつけている。とっても可愛いカルラに、大興奮のボムとセルが映っていた。

「止まれ。招待状を見せろ」

「これを」

「入って良し」

 こんなおかしな馬車でも、普通に入れてしまった。他の貴族は、様々な視線を向けてきたが、無視である。そして、誰も近付いてこない。

 理由としては、阿呆による騒動で、パーティーが、滅茶苦茶になるのを避けるため、ゼクス公爵夫妻、ガイスト辺境伯夫妻、アインス侯爵夫妻で、がっちりガードされているためだ。シュバルツとエルザさんは、王女の護衛のためいない。カトレアは両親とともにいる。そして、始まる誕生日パーティーである。

「この度は、妾のために集まってくれて感謝するのじゃ」

 という、間抜け王女のあいさつが始まった。カルラは、王女をキラキラした目で見ていた。

『リア可愛いー!』

「カルラの方が可愛いぞ!」

 と、カルラの言葉に被せる、親馬鹿のボム。すると、どうやら王女のあいさつが終わるようだった。

「最後に、今日は妾の、親友を呼んでいる。あそこの聖獣様方と一緒にいる、子竜のカルラじゃ。虐めるようなことは、しないでほしい。妾からのお願いじゃ」

 そう言って、あいさつが終了した。これから各個人で、王女にあいさつをしていくようだ。その後、係の者について行き、プレゼントに不審なものがないか検分して、許可が出て初めて、あとで渡すことが出来る。自分の番が来るまで、飲み食いしていてもいいそうだが、別にいらない。マズいからではない。俺らの前に置かれた料理だけ、あからさまに他とは違うものが、置かれていたからだ。

 俺達は平民のため、辺境伯たちとは離れて、座っている。隅の隅だ。ほぼ外である。途中まで、賢い系真面貴族達に、ガードされ案内されていたが、賢い系真面貴族達は、有象無象の貴族達に、あいさつ責めされ始めたため、別の案内によって、ここに連れて来られたのだった。

 ちなみに、俺達はあいさつに行かない。平民は行かないからだ。現在、プレゼントの、検分中である。ぱっと見、ボムに似た赤い熊の、ぬいぐるみである。大きさも少し小さい二mだ。口が開くタイプのぬいぐるみであり、お腹もおデブさんだった。ボムはデブだ! と言って笑っていたが、ボムの方が、おデブさんである。

「高価な、ぬいぐるみだな。王女殿下の趣味も、分かっておられる。王女は、モフモフが好きだからな。よし。合格だ。きっと喜んでくださるだろう」

 この人も真面そうだった。高圧的な態度は、一切なかったからだ。俺達は、ぬいぐるみをしまって、席へと戻った。

「アレが熊か? そこらに売ってるのと違うのか?」

 ボム達は不思議なようだ。だが、あれは理想のぬいぐるみであり、夢のぬいぐるみなのだ。だから自信を持って言える。

「大丈夫だ。最高の熊だよ」

 司会が次の予定を促している。

「続きまして、本日の目玉イベントではないでしょうか。プレゼント贈呈です。各々のプレゼントを王女の下へ、お持ちください」

 ここでも、俺らは最後の方だ。ぶっちゃけ、来なくても良かったんじゃないか? カルラは、ほとんど話せなくて、悲しそうであり、ボムはキレる寸前である。怒気が迸っている。そして、それを察知した馬の鳴き声が、鳴り響いていた。もう帰ろうかと思っていると、カトレアが現れた。

「探したよ。何でここにいるの? 父様達も必死で探してるよ。リアも、さっきと居た場所が違うから、捜しに行くように頼んでいたんだけど……」

「誰も来てないぞ。それよりも、そろそろ帰ろうと、思っていたのだが。せっかくの招待だったのに、親友へ対する対応ではなかったな。むしろ、虐めを受けているようなものだぞ」

 つい、怒気を放ってしまった。近くにいた騎士は、剣に手をかけたが、注意を受けていたのだろう。すぐに気づいて、上司へ報告に行ったようだ。

「そんな……。私たちと同じテーブルに案内するように、頼んでいたんだけど」

「もう過ぎたことは、どうでもいい。ただ、カルラの初めての、誕生日パーティーのデビューは、苦いものになったのは、間違いない。少し見損なった。はっきり言って来ない方が良かった。では、失礼する」

 俺達は、せっかく用意した、プレゼントをあげることもなく、帰った。犯人は、分かっている。こんなこと出来る人は、限られているからだ。

 だからこそ、八つ当たりもあった。だが、おめかしして、楽しみにしていたカルラ。これに出るためだけに、ソモルンとの再会を遅らせていた、ボム。それが結局、嫌がらせで終わるのだ。怒らずにいられるわけがない。本人が目の前にいたら、殺してしまいそうだ。

「……待つのじゃ。待ってくれなのじゃ! どうして帰ってしまうのじゃ?」

「帰るのではない。出て行くのだ。この国をな。依頼報酬は、後日もらいに来る。俺達が嫌いな国王に、よろしく言っておいてくれ」

 この嫌がらせの犯人は、国王であった。阿呆気味とは言っていたが、どうやら違ったようだ。愚か系阿呆王族筆頭であったのだ。こんなことになるなら、あのとき始末しておいたのに。そして、助けなければ、良かった。と、後悔せずにはいられない。

「まさか父上が? どうして分かるのじゃ?」

「……ああ。そう言えば、言ってなかったな。俺のこの目は、魔眼なんだ。千里眼の能力もある。それで見たといえばいいか? 直接言わなかった理由としては、トラブルについては、招待する側の仕事だろう。今後国政を担っていくのに、そんなんでいいのか? 俺が敵対国だったら? それも例えば帝国とかだったらどうする? 下らないことを理由に、戦争になるかもしれないぞ?」

 苛立ちをぶつけていたが、その時誰かが近付いてきた。

「そんなに虐めないでやってもらえんか? この子はまだ、ちょっと抜けたところがある。きっと浮かれすぎてしまったのじゃろう。息子のしたことは、本当にすまなかった。この通りじゃ」

 国王を息子という、覇気のあるおっさんが、頭を下げてきた。そして、言葉を続けた。

「確かに、其方達の言うとおりじゃ。全面的にこちらに責任がある。そこの可愛い娘さんにも、悪いことをした。おめかしをして、楽しみにしてくれていたんじゃろうことが、しっかりと伝わってくる。じゃが、もう一度仕切り直しをさせてほしい。勝手なことを言っておるのは、百も承知じゃ。じゃが、それでも頼む」

 次の瞬間、ボムの最大限の怒気が、迸った。近くにいた、辺境伯や騎士団長達は、全員膝から崩れ落ちた。気絶をした者もいた。だが、至近距離で尚、王女の盾になり、立っていた者がいた。あのおっさんである。

「お前の覚悟を受け取った。最後のチャンスをやる」

「感謝する」

 試したボムの怒気に、しっかり応えた、おっさんだった。

「リア。友達に謝って、しっかり自分で、案内するんじゃ。リアの大事な友達なんじゃろう? 決して人任せにしたらいかん。今回で一つ学んだな?」

「はい。お爺さま」

 こちらに近付いてきた王女。

「カルラ。本当にすまぬのじゃ。妾がもっと気を回さねばならなかった。どうか許してほしい。そしてラース、熊さん、狼さん。本当にすまなかったのじゃ」

 そう言って頭を下げた。

「じぃちゃんに感謝しろ。アイツこそが王に相応しい。あのじぃちゃんを超えられるようになれ。チャンスは、これが最後だ」

 ボムはそう告げた。聖獣の通告とは、本来重要な発言である。故に、王女の道は決まったのだった。

「はい」

『リア……寂しかった……。リアはカルラがいなくて、平気なの?』

 悲しげにそう聞く、カルラ。通訳する、セル。最近は、セルが通訳することが増えたためだ。俺はただ見てる。カルラが許さなかったら、そこまでだし、どうやら不穏な空気が流れているようで、ボムに念話を送って、嫌がらせの仕返しをすることに決めた。

 ――属性纏《雷霆》――

 ただ、いつもより、はっきりと放電する。そして、瞬殺である。暗部コレクションコンプリートである。オークの国送らなかった理由としては、目に見える形で、実力を示して起きたかったからだ。近くに、他の貴族の密偵らしきものがいて、カルラを狙っていたため、真面そうな者以外は、一掃したのだ。帰って、主に伝えてもらうために。

 そして、どうやら突然現れたおっさんは、前国王で、現在は隠居しているらしい。噂では、冒険者をやっているらしいと、辺境伯が教えてくれた。彼らは、ボムの怒気が収まると、立ち上がれるまでになっていた。

『いいよ。もう一回、パーティーする』

 どうやらカルラは、許してあげたようだ。

「感謝する。一緒に会場に戻るのじゃ」

 抱っこしたそうだが、ボムが許さない。俺は何も言わなかった。俺の中では、前国王の株は上がったが、王女とその母親の株は急降下中なので、基本的には、話したくない。

 当人が、許したのだからいいじゃないか。と言うかもしれないが、今までだって、謝ったがオークの国へ行ったり、ギロチンで首を飛ばされたりしたやつはいた。それに比べ、話さないだけでもマシである。カルラの友達だってことを、感謝してほしいものだ。

「ラース。本当にすまなかったのじゃ。許して欲しいのじゃ」

「残念だが、一度失った信頼は、簡単には取り戻せない。新たに築くよりも、取り戻す方が大変だ。言葉ではなく、行動で示せ。二度はない」

 それだけを言った。
 こればかりは、はっきり言って、許せなかった。先ほどまで、カルラを泣かせていた者を、神が許しても俺が許さん。それ程に大切な存在なのだ。

「ラース殿の言うとおりじゃ。リア。二度と同じ事をしてはいかん。また、信頼してくれるまで、努力するしかないんじゃよ」

 そう。二度目はない。つまり、国王は既に詰んでいる。悪いが、許す気はない。


 そして、俺らは会場に戻るのだった。

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