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妻の訪れ side夫

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最悪のタイミングだ。
妻がひとりで登城したことに聞きたいことは多々あるが、それどころではない。
部下達は気遣って退室していく。
当の妻は名を呼んでも返事どころか振り向いてもくれず…その拒絶に恐怖が襲い、思わず腰に手を回して部屋の中へと引き込み鍵を閉めた。


「ベルエア」

「……差し入れをお持ちしました。でもお忙しいみたいだからもう帰りますわ」

「差し入れ?ありがとう。だけどまだ帰らなくていい。少し話をしよう」

「……わたくし、第二夫人になるんですの?」


一人称が【わたくし】であることに…対外的な話し方に、背中をイヤな汗が伝う。
慌てて後ろからの抱擁を解いて向き合えば、妻の美しい瞳から一筋の涙が流れ落ちた。


「ならないよ、なるわけがない。おいで」


妻が持っているバスケットを置いて応接ソファーに座り、手を引いて膝の上に座らせようとすると拒絶は示さず…座るとすぐに首に腕を回して抱きついてきた。
妻を抱き締め心の中で深く安堵しつつ、妻を傷付けた妃殿下への怒りが沸々と沸き上がってくる。


「ベルエア…俺は君以外を妻に迎えるつもりはない。君以外を愛することもない」

「……ならどうして……」

「誤解されたくないから話すけど…今朝早くに妃殿下の父君である伯爵がやってきてね。もし妃殿下が廃妃となるようなことがあれば、その時は俺に下賜して欲しいと言ってきた」


巻き付く腕に力が込められ、まるで譲らないと言われているようで申し訳ないが心が温かくなる。


「勿論、断った。【王家は下賜を命じない】と正式に文書を出すことになっているから、慌てて貰い手を探しているんだろう」

「……じゃぁ…」

「ベルエアが第二夫人になることはないし、君以外を迎え入れることは絶対にない」

「…………よかった…」


漸く見せてくれた笑顔にホッとして、涙が残る眦や頬、そして唇に口付けを繰り返していると、何かを思い出した妻が眉間に皺を寄せた。


「ベルエア?」

「……抱いてとはどういうことですの?」


聞かれるまで忘れていた。
あの女、即刻殺してやりたい。






◇◇◇◇◇◇





妃殿下の廃妃は既に議題にあがっていて、近いうちに採決される。
それを回避する為には執務をこなしてもらうのが一番だと伝えているのに、妃殿下は子を成せば問題ないといって聞かない。
側妃達が揃って懐妊したのは、今まで無かった殿下の子種が漸く出来たからと言っている。
意味が分からない。

だが、お渡りどころかどれだけ手紙を書いても返事すらなく梨の礫。
抱かれさえすれば自分にも子が出来るはずだと憤り、離宮を抜け出し俺の所へ突撃してきた。
俺から殿下に『妃殿下を抱け』と言ってこいと。
そんなの俺の仕事じゃない。

事のあらましを妻に話すと怒りが爆発した。


「なんなんですの!?しかも人の夫の部屋であんなに大きな声で言うことではないわ!」

「追い出そうとしたところでベルエアが来て…正直なところ焦った。絶対に誤解させてしまったから話をしないと…って」


もし誤解したまま家出でもされたら、どう落とし前をつけてもらおうかと思った…王家に。



「何かしら理由があるのだろうとは思いましたから…ただ、言葉と声量があなたの執務室でするものではないと頭にはきたの」

「当然だよ、逆の立場なら有無を言わさず相手の男を叩き斬る」

「ふふっ、そんなことはないから安心して」


妻の部屋に男が押し掛け関係を迫る…想像して瞬時に殺意が沸き眉を寄せてしまったが、妻の細い指でグリグリと解されすぐに戻った。
思わずふたりして笑みが溢れる。


「でも…さすがに第二夫人というのは堪えたわ」

「ごめん」


身を預けてくる妻を抱き締めると、甘えるようにすりすりと頬を擦り合わせてきた。
久し振りに起きている妻と触れ合った気がする。
ここのところ、帰宅すると妻は既に寝ていて…その原因は帰宅の遅さと、俺の分も公爵家の仕事をしてくれているからだと分かっているんだが…どうしても妻を感じたくて、幾度となく眠る妻を静かに抱いた。あえて残滓も残して。


「……今朝も自分で掻き出したの?」


流石に俺以外の手でするわけにはいかないから、妻は自分で処理をしていると言っていた。
となれば、今朝も大量に残っていたであろう名残を自ら掻き出したはず。
真っ赤に頬を染める様子に、手伝ってやりたい欲求が膨れ上がった。


「もうすぐ落ち着くから、そしたら沢山しよう。それまでは…まだ暫くひとりで処理させてしまうけど許してほしい」

「…っ、、もうっ!!……起こしていいのに…」


そうは言っても、公爵家の仕事がどれほど大変なのかは俺が一番分かっている。
だけど愛する妻の温もりも感じたい。
勝手をする俺を怒らないでいてくれる妻には感謝しかなく…この場で抱きたくなってしまう。

だが、そろそろ部下達を戻して仕事をしなくては朝まで帰れなくなる。
名残惜しくて妻の匂いを嗅いでいたら…ふと、妻がひとりで登城したことを思い出した。
護衛はつけているが問題はそこじゃない。


「ベルエア、どうしてひとりで来たんだ?ここに来るまで誰かに声はかけられなかったか?不躾な視線を寄越した者は?君に何かあったら心配だから、来る時は連絡してくれ。俺が迎えに行く」

「迎えなんて…忙しいと分かっていてそんな事出来ないわ。それに、ちゃんと決められた人数の護衛も連れてきているもの」

「それでもだ」


ぷくっと頬を膨らませる姿は可愛いが、ひとりで出掛けるなど心配で仕事にならない。


「それに、外に出るならもっと肌を隠すドレスにしないとダメだろう?特にここ」


普段より幾分も隠されているが、それでもはっきりと見えている胸の谷間に指を差し込んだ。
妻のスタイルは際立っているから目を引く。
たとえ全て覆っていても豊かな膨らみは確認出来てしまい…ここに来るまでにコレを見た奴の目を潰してやりたくなった。
差し込んだ指を出し入れしていると、妻は頬を染めながらもその動きをしっかり見ている。


「…でも…侍女達は隠れてるって…」

「君は、自分がどれほど魅力的なのか分かってない。どれだけの男が君を見ているのかも」


事実、妻に熱い視線を向ける者は結婚して人妻となった今も多く、少しでも隙を見せようものなら近付いてこようとする。
俺と婚約しても、縁談の打診は止まらなかった。
妻を奪われる…という嫉妬が沸いて、思わず深く口付け勃ちあがっているモノを押し付けた。


「今夜は手加減できそうにない」


さっさと仕事を片付けて家に帰ろう。
頬を染めて頷いてくれた妻が待っている。







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