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第三章
第93話 ラッキースケベプール・2
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「ちゃんと見てよ、水着」
改めて言われて、龍之介は唾を呑む。ここで拒んだりしたら、それこそ愛想を尽かされても文句は言えない。意を決して、視線を顔から下に移す。
日焼け対策を万全に施した白い肌。細身ながら出るべき所は適度に出ている均整の取れたプロポーション。そして紐を引っ張れば脱げてしまいそうな危うさもある、大胆な紐ビキニ。こんなの男なら見入ってしまって当然の光景だ。
(勃つなよ……勃ったら駄目だ……)
龍之介はそう念じ、心を無にする。既に半勃ちではあったが、これ以上固くなり海パンを持ち上げるのは阻止せんと必死に堪えた。
だがこれは凛華の猛攻の第一段階に過ぎない。龍之介に見てもらうことまでは完了したのだから、いよいよここからがこの作戦の本番だ。
「暑いねー」
凛華はやや棒読み気味ながらそう言って、ビキニトップを親指と人差し指で摘まみ内側に空気を送るようにパタパタと扇いだ。
チラチラと瞬間的に増える肌色。肝心な所は見えそうで見えないギリギリ感。やってる方も見ている方もより暑くなってくるそれを、リリムはニヤニヤしながら眺めていた。
そして龍之介は、股間を押さえてベンチを立ち脱兎の如く逃走した。
「代々木君! ちょっと一緒にいてもらっていいかな!?」
巨乳の水着美女をなかなか見つけられずげんなりしていた所にこのヘタレが寄ってきて、当真はますます気が滅入った。
「お前さぁ、ホントいい加減にしとけよ。チンコ勃ったくらいでいちいち俺に助けを求めんな。お前の相手してる間に巨乳のポロリを見逃しでもしたらどう責任取ってくれるんだアァン? つーかお前が見ないなら代わりに俺が相川の水着姿を視姦してやろうか?」
「悪い冗談やめろよ! 頼むからそんなこと言わないで俺の助けになってくれよ!」
掌合わせながら何度も頭を下げる情けない姿を見せられて、当真は心底嫌そうな顔で溜息。
「ほれ、あのムッツリスケベを見てみろ」
当真が親指で指した先は、流れるプールで悠里と戯れる孝弘。
「あの腰の引け方から察するに、恐らくあいつは勃ってる。しかもチンコが委員長に当たらないように立ち回りつつ、それ以外の部位でのボディータッチは積極的に敢行してやがる。あいつはチンコデカいからな、勃起隠すのも当たらないようにするのも楽じゃねーだろうによくやるぜ。その点、俺やお前みたいな粗チンは勃起しててもバレにくいというメリットがある。つーわけだ、気にせず勃たせてこうぜ」
「悪い冗談やめろよ!」
相談相手を間違えたと、龍之介は激しく後悔したのである。
一方で、ベンチに残された凛華は。
「ねえ凛々夢、さっきのは流石にさぁ、品が無いというか淫らな女に思われたというか……龍之介君に引かれてなかった!?」
「だいじょぶだいじょぶ。先っぽは見えてなかったから。この調子でもっとセクシーアピールして、川澄君をもっともっとムラムラさせてこー!」
元気よく拳を空に突き上げやる気満々のリリムだが、その横で凛華は苦笑い。果たして彼女に任せて大丈夫なのだろうかと、一抹の不安が頭をよぎったのである。
一方その頃、今後に控える幹人とのデートに向けて麗は佐奈にプール内の施設を案内されていた。
「でねー、ここのアイスが本当おいしくってー」
「なるほどー」
美味しいと評判のアイスを買って、二人はまた歩き出す。
「そういえば麗ちゃん、彼氏って誰?」
「A組の畑山幹人。ほら、よくあたしと一緒にダンスしてる」
「あー、あの人。一年の頃私と同じクラスだったよー」
「あたし一年の頃から結構アピールしてだんだけどねー。あいつスケベの癖に変なとこ鈍感で、やっっとって感じ」
「あはー、それはそれは。でもいいなー彼氏。私も欲しいよー。ま、今日は可愛い水着でバッチリ決めてるしー、もしかしたらいい出会いがあるかもなんてー」
そう話していると、ふと聞こえてきた男二人の声。
「見ろよあの子、むっちゃケツでけー」
「鷲掴みにしてバックで突きてーな」
自分のこと言ってるのだと気付いた瞬間、佐奈は笑顔から真顔に変わる。
「わざと聞こえるようにああいうこと言う人はやだよねー」
両手を後ろに回し、申し訳程度にお尻を隠すような仕草をする佐奈。
「ホント最悪って感じ。女子の前では多少下ネタ控える代々木はあんなでも全然紳士だったんだーってなるくらいの酷さ」
「だよねー。あーあ、麗ちゃんはお尻しゅっとしてていいなー」
佐奈ではまず入りもしない小さなサイズのショートパンツに収まる麗の小尻を見つめて、佐奈は物欲しげに人差し指を口元に当てた。
佐奈の水着のショーツ部分を半分隠して半分見せるマイクロ丈のスカートは、自分の巨尻をコンプレックスでありつつ魅力だとも認識している佐奈自身の複雑な心情を表していると言ってもいい。
一方その頃、流れるプールで孝弘とイチャイチャしている悠里は。
(孝弘君、今日もグイグイ来る……)
臨海学校一日目の夜を思い出させるように後ろから抱きしめられた悠里は、その体勢のままプールの流れに乗せられてゆく。それはまるで、孝弘の積極性に流されてどこまでも行ってしまいそうな自分自身を表すように。
付き合い始めの頃は奥手気味だったのに、あの日以来積極性が格段に増して頻繁にスキンシップをとってくるようになった孝弘。その度に悠里の心臓は休まらないわけであるが、今日に至ってはそれどころでは済まない。
上半身裸で海パン一枚の、水も滴る良い男。ただでさえ悠里が直視できないくらい色気のある身体に加えて、今日は伊達眼鏡をしていないためいつもより精悍な印象を感じさせる顔立ちになっている。
ましてや今日は自分は露出を抑えた水着を着ているために見られることを気にしなくていい分、自分が彼の裸体を見る側だという認識が強く出てしまう。
そしてとどめに、昨日菊花が彼氏とデートでここに来た後に初Hに至ったという話をリリムから聞かされたために、妙にそれを意識してしまうのである。
(たまたま野村さんがそうだっただけ……このプールにそんなジンクスがあるだなんて聞いたことないし……)
小四の時にこの街に引っ越してきた悠里は、凛華や佐奈と共にこのプールには幾度となく遊びに来ていた。だからいくら凛華がそれにあやかりたがってるとはいっても、菊花の一件が本当にただの偶然であることは理解している。
だけども恋人から半裸でこれだけ密着されてくると、どうしてもそういう意識が働いてしまうのだ。
(キスだってまだなのに……私達にはまだそんなこと早すぎるよ!)
いらぬ想像をしてしまって一人で勝手に悶える悠里。可愛い彼女を後ろ抱きにして柔肌を堪能していた孝弘は、ふと悠里の異変に気付いて首を傾げた。
「もしかして具合悪い? 日陰に行って何か飲む?」
「えっ!? だ、大丈夫! 気にしないで!」
顔が真っ赤なのを熱中症と誤解されたようで、悠里は必死に何でもないとアピール。破廉恥な想像をしてしまっていただなんて、とても言えるわけがない。
そんな悠里達を観察していた当真と龍之介。
龍之介は孝弘のようなスキンシップはとても真似できないと感じており、むしろたじたじな悠里の方に共感を覚える始末だった。
「龍之介君」
と、そこに凛華が寄ってきた。
「りっ、りり凛華」
つい言葉がどもってしまう龍之介。彼女の水着姿を見た瞬間、落ち着いてきた股間は再び脈動を始めた。
その隣で当真は、他人の彼女だからと遠慮することなく凛華を見る。
(ほー、体細い割に胸はそこそこあるじゃねーか。川澄め羨ましい奴。これを自分から避けてるとか勿体ねーなオイ)
龍之介ははっとして一度視線を当真に向ける。
「りっ、凛華! 行こうか!」
当真の視線から凛華を守るため、龍之介は凛華の手を取り歩き出した。
思いもよらぬ行動に驚きつつもたまらなく嬉しそうな凛華を見て、当真はフッと笑う。
(何だ、やればできるんじゃねーか)
別に悪役を演じて発破をかけるつもりはなく単に下心が出て視姦していただけだったのだが、結果オーライであった。
しかしそうやって当真に見直されたのも、長くは続かなかった。
嬉しさ余って今度は逃がさないとばかりに、両腕を使って龍之介の左腕をがっしりと抱き込む凛華。偶然を装う気すらなく胸を押し当ててきて、龍之介は目から火花が出そうな気分。股間の反応を我慢なんてできるはずもなく、即座にその場でしゃがみ込んだ。
「ごめん凛華、腕、離して……」
あまりにもへろへろな声で訴えるので、流石に可哀想に思った凛華は腕を離すも、途端に案の定龍之介は逃走。陸上部の脚力をこんなにも情けないことに活用する姿を見せられて、当真は絶句。笑う気すら起こらぬダメダメぶりで、見ている方が疲れてきた。
(男として終わってんなあいつ)
肩を落とす凛華を不憫に思いつつせっかくなのでと水着姿を眺めていると、当真はすぐにある点に気付いた。
(これは……ポロリの予感!!!)
凛華のトップスの背中側の紐が緩んでおり、これが外れるのは時間の問題なのである。
念願のポロリが見られる。だが当真は顎に手を当てて少し考えた後、凛華に背を向けてその場を泳ぎ去った。
(フッ、スケベとして知られたこの俺があえてポロリを拝むのを遠慮してやったんだ。感謝しろよ川澄。そして俺の分まで相川のポロリを存分に目に焼き付けておくがいいぜ)
一方で、悠里と孝弘。
結局二人はプールから上がり、パラソルの下でジュースを飲んでいた。
落ち着いて顔の赤みが引いてきた悠里は、ほっと一息つく。
だが落ち着いたら落ち着いたで、つい考え込んでしまうのが性分だ。
(この夏休みに、孝弘君はどこまで進むつもりで考えてるんだろう。そして私は、孝弘君の期待にどれだけ応えられるんだろう)
考えを巡らせながら孝弘の顔を見ると、あちらも愛おしそうに見つめ返してくる。どこか蠱惑的な視線に心臓が耐えられず目を逸らした悠里は、ふと孝弘の背後から龍之介が一人でこちらに向かってくることに気付いた。
「川澄君、凛華は?」
一人でいることを不審に思った悠里が声をかけるも、龍之介はその質問には答えない。
「ごめん島本さん、佐藤君借りてもいい? 少し相談したいことがあるんだ」
そう言われて悠里と孝弘は顔を見合わせると、孝弘は立ち上がって龍之介に体を向けた。
「で、相談って?」
「えーっと、ここじゃ話しづらいから、男子トイレまで来て欲しいんだけど……」
「わかった。ごめん悠里、話が終わるまで女子トイレで待っててもらってもいい?」
「うん」
彼女を一人にはさせず、ナンパ対策に安全な場所に避難させておくのは基本である。
その一方で、一人にされた凛華は。
「凛華ちゃん、川澄君は?」
「ヘコんでる間に見失った……」
ベンチから見ていたリリムもまた龍之介の度を越したヘタレぶりに辟易していた。だがそれによって、今リリムには懸念していたことがあったのだ。
(どうしよう、このままじゃせっかくのポロリ大作戦が……)
何を隠そう、凛華の水着の紐を緩めたのはリリムである。勿論このことは、凛華にも伝えていない。
「凛華ちゃん、川澄君探そう! ボクはあっち探すから、凛華ちゃんはそっちお願い!」
「う、うん」
リリムが慌てた調子で駆けていくと、凛華は何だかちょっと疲れ気味な返事をしながらリリムとは逆方向に歩き出した。
(あーあ、こうも避けられ続けるとヘコむなぁ……照れてるだけで嫌がってるわけじゃないと思う――そうだと信じたいけど。私ばっかり必死になって、なんか温度差感じちゃうなぁ)
思い悩む凛華は龍之介探しも身に入らず、とぼとぼと当てもなく歩くばかり。
「ねえそこの君、俺らと遊ばない?」
突然、至近距離で声をかけられ凛華はびくりとした。気付かぬ間に接近していた男二人組は、ニヤニヤといやらしい表情でこちらを見てくる。ちなみに彼らは先程佐奈に心無いことを言っていた二人組だ。
考え事をしながら適当に歩いていてたまたま壁際に来た所で、元から凛華に目を付けていた男達がここぞとばかりにナンパを開始。逃げ場を塞ぐように立ち、声かけを始めた。
茶髪のウェーブヘアーで化粧っ気が強く見た目が派手な方である凛華は、こういう軽い男を寄せ付けやすいタイプなのだ。
(やば、変なのに絡まれた。逃げなきゃ……)
そう思っても正面に立つ二人は簡単には逃がしてくれそうにない雰囲気で、隙間からも逃げられそうにない。
そうしている間にも、水着の紐は少しずつ解けようとしていた。
(龍之介君助けて……!)
凛華が目をつぶった瞬間、それは無情にも訪れた。水着の紐は完全にほどけ、胸から外れて落ちる。
「凛華ちゃん、水着の紐緩んでるよ!」
と、そこでどこからともなく現れたリリムが紐を掴んで結んだ。まるで無から現れたかのような突然の事態に、その場の誰もが目を丸くする。
凛華と手分けして龍之介を探しに行ったものの、もし龍之介が見つからないまま不特定多数の男の前で凛華がポロリしてしまったら、と気付いてしまったリリムは姿を消して飛んで来たのである。
凛華は夏休み前特別授業で龍之介と共に天使の加護を受けているため、万が一彼らから猥褻な行為をされそうになれば紋章バリアが作動して守られる。しかしポロリという不可抗力は、紋章バリアでも防げないのだ。
「ありがとう凛々夢」
「どっから出てきたこのガキ!?」
「この人彼氏いるから! あっかんべー!」
呆気に取られる男二人の前で、リリムは凛華の手を引き逃げ去った。
「ホントありがとう凛々夢。助かったよー」
「もー、川澄君てばこんな時に限っていないんだから! あいつら、凛華ちゃんの水着取れかかってること知っててナンパしてきたんだよ。ああやって時間稼いでポロリするとこ見るつもりだったんだ。ごめんね凛華ちゃん、一人にしちゃって。こっからは二人で探そう」
「そうだね……」
助かったこと自体は良かったものの、この危機から救ってくれたのが彼氏ではなかったことには落胆を覚える凛華。
なお、水着の紐を緩めたのは自分だということは黙っているリリムであった。
改めて言われて、龍之介は唾を呑む。ここで拒んだりしたら、それこそ愛想を尽かされても文句は言えない。意を決して、視線を顔から下に移す。
日焼け対策を万全に施した白い肌。細身ながら出るべき所は適度に出ている均整の取れたプロポーション。そして紐を引っ張れば脱げてしまいそうな危うさもある、大胆な紐ビキニ。こんなの男なら見入ってしまって当然の光景だ。
(勃つなよ……勃ったら駄目だ……)
龍之介はそう念じ、心を無にする。既に半勃ちではあったが、これ以上固くなり海パンを持ち上げるのは阻止せんと必死に堪えた。
だがこれは凛華の猛攻の第一段階に過ぎない。龍之介に見てもらうことまでは完了したのだから、いよいよここからがこの作戦の本番だ。
「暑いねー」
凛華はやや棒読み気味ながらそう言って、ビキニトップを親指と人差し指で摘まみ内側に空気を送るようにパタパタと扇いだ。
チラチラと瞬間的に増える肌色。肝心な所は見えそうで見えないギリギリ感。やってる方も見ている方もより暑くなってくるそれを、リリムはニヤニヤしながら眺めていた。
そして龍之介は、股間を押さえてベンチを立ち脱兎の如く逃走した。
「代々木君! ちょっと一緒にいてもらっていいかな!?」
巨乳の水着美女をなかなか見つけられずげんなりしていた所にこのヘタレが寄ってきて、当真はますます気が滅入った。
「お前さぁ、ホントいい加減にしとけよ。チンコ勃ったくらいでいちいち俺に助けを求めんな。お前の相手してる間に巨乳のポロリを見逃しでもしたらどう責任取ってくれるんだアァン? つーかお前が見ないなら代わりに俺が相川の水着姿を視姦してやろうか?」
「悪い冗談やめろよ! 頼むからそんなこと言わないで俺の助けになってくれよ!」
掌合わせながら何度も頭を下げる情けない姿を見せられて、当真は心底嫌そうな顔で溜息。
「ほれ、あのムッツリスケベを見てみろ」
当真が親指で指した先は、流れるプールで悠里と戯れる孝弘。
「あの腰の引け方から察するに、恐らくあいつは勃ってる。しかもチンコが委員長に当たらないように立ち回りつつ、それ以外の部位でのボディータッチは積極的に敢行してやがる。あいつはチンコデカいからな、勃起隠すのも当たらないようにするのも楽じゃねーだろうによくやるぜ。その点、俺やお前みたいな粗チンは勃起しててもバレにくいというメリットがある。つーわけだ、気にせず勃たせてこうぜ」
「悪い冗談やめろよ!」
相談相手を間違えたと、龍之介は激しく後悔したのである。
一方で、ベンチに残された凛華は。
「ねえ凛々夢、さっきのは流石にさぁ、品が無いというか淫らな女に思われたというか……龍之介君に引かれてなかった!?」
「だいじょぶだいじょぶ。先っぽは見えてなかったから。この調子でもっとセクシーアピールして、川澄君をもっともっとムラムラさせてこー!」
元気よく拳を空に突き上げやる気満々のリリムだが、その横で凛華は苦笑い。果たして彼女に任せて大丈夫なのだろうかと、一抹の不安が頭をよぎったのである。
一方その頃、今後に控える幹人とのデートに向けて麗は佐奈にプール内の施設を案内されていた。
「でねー、ここのアイスが本当おいしくってー」
「なるほどー」
美味しいと評判のアイスを買って、二人はまた歩き出す。
「そういえば麗ちゃん、彼氏って誰?」
「A組の畑山幹人。ほら、よくあたしと一緒にダンスしてる」
「あー、あの人。一年の頃私と同じクラスだったよー」
「あたし一年の頃から結構アピールしてだんだけどねー。あいつスケベの癖に変なとこ鈍感で、やっっとって感じ」
「あはー、それはそれは。でもいいなー彼氏。私も欲しいよー。ま、今日は可愛い水着でバッチリ決めてるしー、もしかしたらいい出会いがあるかもなんてー」
そう話していると、ふと聞こえてきた男二人の声。
「見ろよあの子、むっちゃケツでけー」
「鷲掴みにしてバックで突きてーな」
自分のこと言ってるのだと気付いた瞬間、佐奈は笑顔から真顔に変わる。
「わざと聞こえるようにああいうこと言う人はやだよねー」
両手を後ろに回し、申し訳程度にお尻を隠すような仕草をする佐奈。
「ホント最悪って感じ。女子の前では多少下ネタ控える代々木はあんなでも全然紳士だったんだーってなるくらいの酷さ」
「だよねー。あーあ、麗ちゃんはお尻しゅっとしてていいなー」
佐奈ではまず入りもしない小さなサイズのショートパンツに収まる麗の小尻を見つめて、佐奈は物欲しげに人差し指を口元に当てた。
佐奈の水着のショーツ部分を半分隠して半分見せるマイクロ丈のスカートは、自分の巨尻をコンプレックスでありつつ魅力だとも認識している佐奈自身の複雑な心情を表していると言ってもいい。
一方その頃、流れるプールで孝弘とイチャイチャしている悠里は。
(孝弘君、今日もグイグイ来る……)
臨海学校一日目の夜を思い出させるように後ろから抱きしめられた悠里は、その体勢のままプールの流れに乗せられてゆく。それはまるで、孝弘の積極性に流されてどこまでも行ってしまいそうな自分自身を表すように。
付き合い始めの頃は奥手気味だったのに、あの日以来積極性が格段に増して頻繁にスキンシップをとってくるようになった孝弘。その度に悠里の心臓は休まらないわけであるが、今日に至ってはそれどころでは済まない。
上半身裸で海パン一枚の、水も滴る良い男。ただでさえ悠里が直視できないくらい色気のある身体に加えて、今日は伊達眼鏡をしていないためいつもより精悍な印象を感じさせる顔立ちになっている。
ましてや今日は自分は露出を抑えた水着を着ているために見られることを気にしなくていい分、自分が彼の裸体を見る側だという認識が強く出てしまう。
そしてとどめに、昨日菊花が彼氏とデートでここに来た後に初Hに至ったという話をリリムから聞かされたために、妙にそれを意識してしまうのである。
(たまたま野村さんがそうだっただけ……このプールにそんなジンクスがあるだなんて聞いたことないし……)
小四の時にこの街に引っ越してきた悠里は、凛華や佐奈と共にこのプールには幾度となく遊びに来ていた。だからいくら凛華がそれにあやかりたがってるとはいっても、菊花の一件が本当にただの偶然であることは理解している。
だけども恋人から半裸でこれだけ密着されてくると、どうしてもそういう意識が働いてしまうのだ。
(キスだってまだなのに……私達にはまだそんなこと早すぎるよ!)
いらぬ想像をしてしまって一人で勝手に悶える悠里。可愛い彼女を後ろ抱きにして柔肌を堪能していた孝弘は、ふと悠里の異変に気付いて首を傾げた。
「もしかして具合悪い? 日陰に行って何か飲む?」
「えっ!? だ、大丈夫! 気にしないで!」
顔が真っ赤なのを熱中症と誤解されたようで、悠里は必死に何でもないとアピール。破廉恥な想像をしてしまっていただなんて、とても言えるわけがない。
そんな悠里達を観察していた当真と龍之介。
龍之介は孝弘のようなスキンシップはとても真似できないと感じており、むしろたじたじな悠里の方に共感を覚える始末だった。
「龍之介君」
と、そこに凛華が寄ってきた。
「りっ、りり凛華」
つい言葉がどもってしまう龍之介。彼女の水着姿を見た瞬間、落ち着いてきた股間は再び脈動を始めた。
その隣で当真は、他人の彼女だからと遠慮することなく凛華を見る。
(ほー、体細い割に胸はそこそこあるじゃねーか。川澄め羨ましい奴。これを自分から避けてるとか勿体ねーなオイ)
龍之介ははっとして一度視線を当真に向ける。
「りっ、凛華! 行こうか!」
当真の視線から凛華を守るため、龍之介は凛華の手を取り歩き出した。
思いもよらぬ行動に驚きつつもたまらなく嬉しそうな凛華を見て、当真はフッと笑う。
(何だ、やればできるんじゃねーか)
別に悪役を演じて発破をかけるつもりはなく単に下心が出て視姦していただけだったのだが、結果オーライであった。
しかしそうやって当真に見直されたのも、長くは続かなかった。
嬉しさ余って今度は逃がさないとばかりに、両腕を使って龍之介の左腕をがっしりと抱き込む凛華。偶然を装う気すらなく胸を押し当ててきて、龍之介は目から火花が出そうな気分。股間の反応を我慢なんてできるはずもなく、即座にその場でしゃがみ込んだ。
「ごめん凛華、腕、離して……」
あまりにもへろへろな声で訴えるので、流石に可哀想に思った凛華は腕を離すも、途端に案の定龍之介は逃走。陸上部の脚力をこんなにも情けないことに活用する姿を見せられて、当真は絶句。笑う気すら起こらぬダメダメぶりで、見ている方が疲れてきた。
(男として終わってんなあいつ)
肩を落とす凛華を不憫に思いつつせっかくなのでと水着姿を眺めていると、当真はすぐにある点に気付いた。
(これは……ポロリの予感!!!)
凛華のトップスの背中側の紐が緩んでおり、これが外れるのは時間の問題なのである。
念願のポロリが見られる。だが当真は顎に手を当てて少し考えた後、凛華に背を向けてその場を泳ぎ去った。
(フッ、スケベとして知られたこの俺があえてポロリを拝むのを遠慮してやったんだ。感謝しろよ川澄。そして俺の分まで相川のポロリを存分に目に焼き付けておくがいいぜ)
一方で、悠里と孝弘。
結局二人はプールから上がり、パラソルの下でジュースを飲んでいた。
落ち着いて顔の赤みが引いてきた悠里は、ほっと一息つく。
だが落ち着いたら落ち着いたで、つい考え込んでしまうのが性分だ。
(この夏休みに、孝弘君はどこまで進むつもりで考えてるんだろう。そして私は、孝弘君の期待にどれだけ応えられるんだろう)
考えを巡らせながら孝弘の顔を見ると、あちらも愛おしそうに見つめ返してくる。どこか蠱惑的な視線に心臓が耐えられず目を逸らした悠里は、ふと孝弘の背後から龍之介が一人でこちらに向かってくることに気付いた。
「川澄君、凛華は?」
一人でいることを不審に思った悠里が声をかけるも、龍之介はその質問には答えない。
「ごめん島本さん、佐藤君借りてもいい? 少し相談したいことがあるんだ」
そう言われて悠里と孝弘は顔を見合わせると、孝弘は立ち上がって龍之介に体を向けた。
「で、相談って?」
「えーっと、ここじゃ話しづらいから、男子トイレまで来て欲しいんだけど……」
「わかった。ごめん悠里、話が終わるまで女子トイレで待っててもらってもいい?」
「うん」
彼女を一人にはさせず、ナンパ対策に安全な場所に避難させておくのは基本である。
その一方で、一人にされた凛華は。
「凛華ちゃん、川澄君は?」
「ヘコんでる間に見失った……」
ベンチから見ていたリリムもまた龍之介の度を越したヘタレぶりに辟易していた。だがそれによって、今リリムには懸念していたことがあったのだ。
(どうしよう、このままじゃせっかくのポロリ大作戦が……)
何を隠そう、凛華の水着の紐を緩めたのはリリムである。勿論このことは、凛華にも伝えていない。
「凛華ちゃん、川澄君探そう! ボクはあっち探すから、凛華ちゃんはそっちお願い!」
「う、うん」
リリムが慌てた調子で駆けていくと、凛華は何だかちょっと疲れ気味な返事をしながらリリムとは逆方向に歩き出した。
(あーあ、こうも避けられ続けるとヘコむなぁ……照れてるだけで嫌がってるわけじゃないと思う――そうだと信じたいけど。私ばっかり必死になって、なんか温度差感じちゃうなぁ)
思い悩む凛華は龍之介探しも身に入らず、とぼとぼと当てもなく歩くばかり。
「ねえそこの君、俺らと遊ばない?」
突然、至近距離で声をかけられ凛華はびくりとした。気付かぬ間に接近していた男二人組は、ニヤニヤといやらしい表情でこちらを見てくる。ちなみに彼らは先程佐奈に心無いことを言っていた二人組だ。
考え事をしながら適当に歩いていてたまたま壁際に来た所で、元から凛華に目を付けていた男達がここぞとばかりにナンパを開始。逃げ場を塞ぐように立ち、声かけを始めた。
茶髪のウェーブヘアーで化粧っ気が強く見た目が派手な方である凛華は、こういう軽い男を寄せ付けやすいタイプなのだ。
(やば、変なのに絡まれた。逃げなきゃ……)
そう思っても正面に立つ二人は簡単には逃がしてくれそうにない雰囲気で、隙間からも逃げられそうにない。
そうしている間にも、水着の紐は少しずつ解けようとしていた。
(龍之介君助けて……!)
凛華が目をつぶった瞬間、それは無情にも訪れた。水着の紐は完全にほどけ、胸から外れて落ちる。
「凛華ちゃん、水着の紐緩んでるよ!」
と、そこでどこからともなく現れたリリムが紐を掴んで結んだ。まるで無から現れたかのような突然の事態に、その場の誰もが目を丸くする。
凛華と手分けして龍之介を探しに行ったものの、もし龍之介が見つからないまま不特定多数の男の前で凛華がポロリしてしまったら、と気付いてしまったリリムは姿を消して飛んで来たのである。
凛華は夏休み前特別授業で龍之介と共に天使の加護を受けているため、万が一彼らから猥褻な行為をされそうになれば紋章バリアが作動して守られる。しかしポロリという不可抗力は、紋章バリアでも防げないのだ。
「ありがとう凛々夢」
「どっから出てきたこのガキ!?」
「この人彼氏いるから! あっかんべー!」
呆気に取られる男二人の前で、リリムは凛華の手を引き逃げ去った。
「ホントありがとう凛々夢。助かったよー」
「もー、川澄君てばこんな時に限っていないんだから! あいつら、凛華ちゃんの水着取れかかってること知っててナンパしてきたんだよ。ああやって時間稼いでポロリするとこ見るつもりだったんだ。ごめんね凛華ちゃん、一人にしちゃって。こっからは二人で探そう」
「そうだね……」
助かったこと自体は良かったものの、この危機から救ってくれたのが彼氏ではなかったことには落胆を覚える凛華。
なお、水着の紐を緩めたのは自分だということは黙っているリリムであった。
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