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第5章。勇者率いる王国軍を倒す
59話。王国軍にドラゴンブレスをぶち込む
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【アンジェラ視点】
「……ここで王国軍が野営するという宰相の情報は、本当だったわね」
私の眼の前では、約10万の王国軍が篝火を焚いて、野営の準備を始めていた。
これほどの人数が集まると、さすがに壮観だわ。
「姫様、紅茶のご用意ができました。夜がふけるまで、どうかごゆるりとお過ごしください」
「ありがとうセバス。私としたことが、少々、気が高ぶっていたようね」
私がいるのは、大樹に擬態した大型ウッドゴーレムの内部よ。
私は王国軍の野営地点に、あらかじめ5000体のウッドゴーレムを配置して待ち構えていた。エルフの魔法技術で造られた彼らは、木に化ける能力を持っており、まず見破られることは無いわ。
「う~ん、この芳しいバターの香り。サクサクとした食感が、紅茶と絶妙に合うわね」
「お口に合いましたのなら、何よりでございます」
アンデッド執事のセバスの煎れてくれた紅茶とクッキーをいただいて、まずは優雅にティータイム。
まさか王国軍も、こんなところに私が隠れているなんて夢にも思わないでしょうね。
作戦決行は、アンデッドの力が最も高まる深夜になってから。
ランスロットやゴードンも、それまでには配置と準備を終えるでしょう。
やがて時計の針は、深夜1時を示した。
「……それでは、始めましょうか。これが開戦の狼煙よ」
指を鳴らすと、私が隠れている個体を除くすべてのウッドゴーレムが擬態を解いて、火矢を放った。
狙うは厳重に守られた輜重部隊──水や兵糧を運ぶ兵站の要よ。
「なに、敵襲だとッ!?」
「な、なんだコイツらは!?」
兵糧を積んだ荷車が次々に炎上し、王国軍は大混乱に陥った。
10万もの兵を養うためには、大量の水と食料が必要だわ。
これを失えば、兵は飢えて戦うどころではなくなる。たとえ自国内といえど、食料の現地調達には限界があるわ。
そのため、まずは兵糧を焼いてしまおうというのが、カインの策だった。
「火を消せぇえええッ!」
「や、やめろ! 俺たちの食料がぁ!?」
「こいつらを早急に倒すんだ!」
ウッドゴーレムたちは大軍から一斉攻撃を受けるも、構わずに連射式ボーガンから火矢を発射し続ける。
耐久力に優れたウッドゴーレムは、そう簡単には撃破できないわ。
「ふふっ、まずは大成功。さて、お次は……」
私はアンデッドを召喚するための魔法を唱える。
「さあ、おいでなさいドラゴンゾンビ!」
どぉおおおおん!
王国軍の中心に、穢れた瘴気をまき散らす死の化身【ドラゴンゾンビ】が出現した。その威圧感は、見ただけで卒倒してしまいそうなほど強烈だわ。
う~ん、いつ見ても惚れ惚れするほど、勇壮で美しい姿ね。
「な、なにぃいいいい!? ドラゴン!? いや、ドラゴンゾンビだとぉおおおおッ!?」
グォオオオオオン!
ドラゴンゾンビが咆哮を上げる。
魔力を帯びたその叫びは本能的な恐怖心を増幅させ、兵たちを竦み上がらせた。
さらに私はお母様から受け継いだスキル【幻体】を発動させる。
=================
【幻体レベル3】
自分とまったく同じ容姿、装備、能力を持つ分身を生み出すスキル。分身は、スキル使用者の意図した通りに動きます。『効果時間180秒』。再発動時間《クールタイム》60分。
=================
【幻体】により生み出された私の分身は、ドラゴンゾンビの頭上に出現した。王国軍の注目が、私の分身に一斉に集まる。
エルフ族長の血を引く私は、スキル【幻体】を繰り返し使うことで、スキルレベルを向上させることができた。カインの【幻体】は60秒しか保たないけど、私はその3倍の時間、分身を維持できるわ。
だから、こういう使い方もできるのよ。
「ごきげんよう、アルビオン王国軍のみなみな様。私はアトラス帝国の第三皇女アンジェラ。我が父、皇帝ジークフリート陛下より、カイン・シュバルツ様に嫁げと命じられた者よ」
「バ、バカなアトラス帝国の皇女だと!?」
「で、では、まさかこれは……アトラス帝国からの攻撃!?」
優雅にあいさつする私の分身に、王国軍はうろたえる。
この計略の仕込みとして、宰相からも帝国がカインの後ろ盾となったと、王国軍に嘘の情報を流してもらっていた。
「その通り。カイン様は、我が婚約者にして帝国の盟友。カイン様の背後には、アトラス帝国軍約20万が控えておりますわ。このままシュバルツ伯爵領に攻め込むなら、帝国との全面戦争を覚悟していただくことになりますけど、よろしいかしら?」
これがカインが考えた策だった。
ハッタリもハッタリだけど、これで王国軍の戦意をかなり挫くことができるでしょうね。
「な、なぜ、帝国がいきなり介入してくるのだ!?」
「皇女だと!? そもそもホンモノなのか!?」
中には疑問を持つ将軍もいたけど、次の一手で黙らせる。
「ふふっ、これなるは我が父、皇帝ジークフリート陛下より賜ったアトラス帝国の秘密兵器ドラゴンゾンビ! まずはごあいさつ代わりに、私とドラゴンゾンビが、お相手して差し上げますわ」
ドラゴンゾンビが尻尾を振るい、近くにいた敵兵を100人単位でぶっと飛ばす。
「ヒャアアアアアッ!?」
その驚異的な力に、王国軍は完全に浮き足立った。
死んだ敵兵は私のユニークスキル【死の皇女】によって、私の下僕のアンデッドと化す。
一気に200体近い【骸骨戦士《スケルトンウォリアー》】が出現し、王国軍に襲いかかった。
「なにぃ!? スケルトンの群れだと!?」
「ホンモノだ! ホンモノの帝国の秘密兵器だぁああああッ!?」
「カイン・シュバルツには、皇帝ジークフリートが味方しているのか!?」
そんな訳がないわ。
お父様の狙いは、カインとレオン王子を争わせて漁夫の利を得ること。いきなり戦争の矢面に立つなど、有り得ないのだけど……
ドラゴンゾンビの力と威容が、私の話に信憑性を与えていた。
「クスッ。無様に怯えてみっともないわね。今すぐ降伏するというなら、命だけは助けてあげるけど、いかがかしら? 逃げてもよろしくてよ?」
「ひぎゃああああッ!?」
私の分身の宣言に、大勢の兵たちが恐慌状態になって逃げ出す。
もともと、救国の英雄であるシュバルツ伯爵家と戦うことに気乗りしなかった者たちが大半であるため、士気が崩壊するのは早かった。
何も敵兵を皆殺しにしなくても、恐怖で兵たちを離散させてしまえば、軍隊は意味を成さなくなるわ。
将からも撤退すべきという意見が出て、王国軍の統制が取れなくなれば、願ったりよ。
「世迷い言を!? 帝国の皇女と、あの化け物を討ち取れ!」
中には、私の分身に向かって矢や魔法を放ってくる者たちもいたけど、無駄よ。
【幻体】で生み出された分身には、いかなる攻撃も通用しないわ。
カインに、私は姿を隠しながら戦うのが、もっとも強いとアドバイスを受けた。
そこから新たに考えた戦闘スタイルが、この【幻体】とドラゴンゾンビの組み合わせよ。
もっとも180秒しか分身を維持できないから、忙しないのだけどね。
「私を守りなさい、ドラゴンゾンビ!」
グォオオオオオン!
ドラゴンゾンビが、スキル【黒炎の加護】を発動させ、その全身が闇属性の炎に包まれた。私の分身は、その黒炎によって覆い隠される。
これで180秒経った後も、王国軍は私がドラゴンゾンビに乗っていて、黒炎で守られていると思い込むでしょう。時間的にギリギリだったけど、完璧だわ。
「さあ、これでフィナーレよ。【破滅の火】発射用意!」
ドラゴンゾンビが大顎を開き、ドラゴンブレスを放つ構えを取る。膨大な魔力が、その口腔に収束し、禍々しい光を放った。
「ド、ドラゴンブレスだとぉッ!?」
「に、逃げろぉおおッ!?」
狙うはレオン王子と勇者アベルがいる本営の天幕よ。
カインはできれば、敵兵であろうと無駄に死なせることなく、この戦いを終わらせたいと言っていたわ。
それには最大最強の一撃を、初手から敵の総大将にぶち込むのが一番だと。
まったく、甘いわね。
まっ、それが良いところなんだけど……
「滅びなさい勇者!」
ドラゴンゾンビの顎から黒い炎の本流──ドラゴンブレスが放たれた。
「……ここで王国軍が野営するという宰相の情報は、本当だったわね」
私の眼の前では、約10万の王国軍が篝火を焚いて、野営の準備を始めていた。
これほどの人数が集まると、さすがに壮観だわ。
「姫様、紅茶のご用意ができました。夜がふけるまで、どうかごゆるりとお過ごしください」
「ありがとうセバス。私としたことが、少々、気が高ぶっていたようね」
私がいるのは、大樹に擬態した大型ウッドゴーレムの内部よ。
私は王国軍の野営地点に、あらかじめ5000体のウッドゴーレムを配置して待ち構えていた。エルフの魔法技術で造られた彼らは、木に化ける能力を持っており、まず見破られることは無いわ。
「う~ん、この芳しいバターの香り。サクサクとした食感が、紅茶と絶妙に合うわね」
「お口に合いましたのなら、何よりでございます」
アンデッド執事のセバスの煎れてくれた紅茶とクッキーをいただいて、まずは優雅にティータイム。
まさか王国軍も、こんなところに私が隠れているなんて夢にも思わないでしょうね。
作戦決行は、アンデッドの力が最も高まる深夜になってから。
ランスロットやゴードンも、それまでには配置と準備を終えるでしょう。
やがて時計の針は、深夜1時を示した。
「……それでは、始めましょうか。これが開戦の狼煙よ」
指を鳴らすと、私が隠れている個体を除くすべてのウッドゴーレムが擬態を解いて、火矢を放った。
狙うは厳重に守られた輜重部隊──水や兵糧を運ぶ兵站の要よ。
「なに、敵襲だとッ!?」
「な、なんだコイツらは!?」
兵糧を積んだ荷車が次々に炎上し、王国軍は大混乱に陥った。
10万もの兵を養うためには、大量の水と食料が必要だわ。
これを失えば、兵は飢えて戦うどころではなくなる。たとえ自国内といえど、食料の現地調達には限界があるわ。
そのため、まずは兵糧を焼いてしまおうというのが、カインの策だった。
「火を消せぇえええッ!」
「や、やめろ! 俺たちの食料がぁ!?」
「こいつらを早急に倒すんだ!」
ウッドゴーレムたちは大軍から一斉攻撃を受けるも、構わずに連射式ボーガンから火矢を発射し続ける。
耐久力に優れたウッドゴーレムは、そう簡単には撃破できないわ。
「ふふっ、まずは大成功。さて、お次は……」
私はアンデッドを召喚するための魔法を唱える。
「さあ、おいでなさいドラゴンゾンビ!」
どぉおおおおん!
王国軍の中心に、穢れた瘴気をまき散らす死の化身【ドラゴンゾンビ】が出現した。その威圧感は、見ただけで卒倒してしまいそうなほど強烈だわ。
う~ん、いつ見ても惚れ惚れするほど、勇壮で美しい姿ね。
「な、なにぃいいいい!? ドラゴン!? いや、ドラゴンゾンビだとぉおおおおッ!?」
グォオオオオオン!
ドラゴンゾンビが咆哮を上げる。
魔力を帯びたその叫びは本能的な恐怖心を増幅させ、兵たちを竦み上がらせた。
さらに私はお母様から受け継いだスキル【幻体】を発動させる。
=================
【幻体レベル3】
自分とまったく同じ容姿、装備、能力を持つ分身を生み出すスキル。分身は、スキル使用者の意図した通りに動きます。『効果時間180秒』。再発動時間《クールタイム》60分。
=================
【幻体】により生み出された私の分身は、ドラゴンゾンビの頭上に出現した。王国軍の注目が、私の分身に一斉に集まる。
エルフ族長の血を引く私は、スキル【幻体】を繰り返し使うことで、スキルレベルを向上させることができた。カインの【幻体】は60秒しか保たないけど、私はその3倍の時間、分身を維持できるわ。
だから、こういう使い方もできるのよ。
「ごきげんよう、アルビオン王国軍のみなみな様。私はアトラス帝国の第三皇女アンジェラ。我が父、皇帝ジークフリート陛下より、カイン・シュバルツ様に嫁げと命じられた者よ」
「バ、バカなアトラス帝国の皇女だと!?」
「で、では、まさかこれは……アトラス帝国からの攻撃!?」
優雅にあいさつする私の分身に、王国軍はうろたえる。
この計略の仕込みとして、宰相からも帝国がカインの後ろ盾となったと、王国軍に嘘の情報を流してもらっていた。
「その通り。カイン様は、我が婚約者にして帝国の盟友。カイン様の背後には、アトラス帝国軍約20万が控えておりますわ。このままシュバルツ伯爵領に攻め込むなら、帝国との全面戦争を覚悟していただくことになりますけど、よろしいかしら?」
これがカインが考えた策だった。
ハッタリもハッタリだけど、これで王国軍の戦意をかなり挫くことができるでしょうね。
「な、なぜ、帝国がいきなり介入してくるのだ!?」
「皇女だと!? そもそもホンモノなのか!?」
中には疑問を持つ将軍もいたけど、次の一手で黙らせる。
「ふふっ、これなるは我が父、皇帝ジークフリート陛下より賜ったアトラス帝国の秘密兵器ドラゴンゾンビ! まずはごあいさつ代わりに、私とドラゴンゾンビが、お相手して差し上げますわ」
ドラゴンゾンビが尻尾を振るい、近くにいた敵兵を100人単位でぶっと飛ばす。
「ヒャアアアアアッ!?」
その驚異的な力に、王国軍は完全に浮き足立った。
死んだ敵兵は私のユニークスキル【死の皇女】によって、私の下僕のアンデッドと化す。
一気に200体近い【骸骨戦士《スケルトンウォリアー》】が出現し、王国軍に襲いかかった。
「なにぃ!? スケルトンの群れだと!?」
「ホンモノだ! ホンモノの帝国の秘密兵器だぁああああッ!?」
「カイン・シュバルツには、皇帝ジークフリートが味方しているのか!?」
そんな訳がないわ。
お父様の狙いは、カインとレオン王子を争わせて漁夫の利を得ること。いきなり戦争の矢面に立つなど、有り得ないのだけど……
ドラゴンゾンビの力と威容が、私の話に信憑性を与えていた。
「クスッ。無様に怯えてみっともないわね。今すぐ降伏するというなら、命だけは助けてあげるけど、いかがかしら? 逃げてもよろしくてよ?」
「ひぎゃああああッ!?」
私の分身の宣言に、大勢の兵たちが恐慌状態になって逃げ出す。
もともと、救国の英雄であるシュバルツ伯爵家と戦うことに気乗りしなかった者たちが大半であるため、士気が崩壊するのは早かった。
何も敵兵を皆殺しにしなくても、恐怖で兵たちを離散させてしまえば、軍隊は意味を成さなくなるわ。
将からも撤退すべきという意見が出て、王国軍の統制が取れなくなれば、願ったりよ。
「世迷い言を!? 帝国の皇女と、あの化け物を討ち取れ!」
中には、私の分身に向かって矢や魔法を放ってくる者たちもいたけど、無駄よ。
【幻体】で生み出された分身には、いかなる攻撃も通用しないわ。
カインに、私は姿を隠しながら戦うのが、もっとも強いとアドバイスを受けた。
そこから新たに考えた戦闘スタイルが、この【幻体】とドラゴンゾンビの組み合わせよ。
もっとも180秒しか分身を維持できないから、忙しないのだけどね。
「私を守りなさい、ドラゴンゾンビ!」
グォオオオオオン!
ドラゴンゾンビが、スキル【黒炎の加護】を発動させ、その全身が闇属性の炎に包まれた。私の分身は、その黒炎によって覆い隠される。
これで180秒経った後も、王国軍は私がドラゴンゾンビに乗っていて、黒炎で守られていると思い込むでしょう。時間的にギリギリだったけど、完璧だわ。
「さあ、これでフィナーレよ。【破滅の火】発射用意!」
ドラゴンゾンビが大顎を開き、ドラゴンブレスを放つ構えを取る。膨大な魔力が、その口腔に収束し、禍々しい光を放った。
「ド、ドラゴンブレスだとぉッ!?」
「に、逃げろぉおおッ!?」
狙うはレオン王子と勇者アベルがいる本営の天幕よ。
カインはできれば、敵兵であろうと無駄に死なせることなく、この戦いを終わらせたいと言っていたわ。
それには最大最強の一撃を、初手から敵の総大将にぶち込むのが一番だと。
まったく、甘いわね。
まっ、それが良いところなんだけど……
「滅びなさい勇者!」
ドラゴンゾンビの顎から黒い炎の本流──ドラゴンブレスが放たれた。
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