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第一章

第42話:艦隊

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バレンシア王国暦243年12月7日:首都沖の魔海

「サクラ、他に誰もいない二人きりは本当に久しぶりだね」

「はい、リアムが子供が欲しいと言いだして、魔境を出てから初めての事ですね」

「それは言わないでくれ。
 あの時はこの国の仕組みをよく分かっていなかったんだ。
 分かっていたら、ならあんな目立つ事はしなかった。
 不幸な娘さんを救って求婚していた。
 それだけで俺の前世の悔いはなくなっていた」

「そうですね、それだけでよかったですね。
 でも後悔はしていないのでしょう?」

「そうだね、後悔はしていいないよ。
 その時にできる精一杯の事をやった結果だからね。
 それに、本当に嫌な事は何もしていないから」

「王侯貴族になる事ですか?」

「ああ、国王や領主になって、家臣領民の命と生活に責任を持つなんて絶対無理。
 冒険者ギルドの地域長や支部長として、職員や冒険者や命や生活の責任を持つだけで、心に負担がかかってしまう」

「ソフィアやグレイソンの前では無理されていますが、本当のリアムはとても心の優しい傷つきやすい性格ですからね。
 もうこれ以上無理をする必要はありませんよ。
 本当に辛ければ、今からでも難民の受け入れを止めてもいいのではありませんか?
 何なら全員私が食べてしまってもいいのですよ?」

「そこまでしなくてもいいよ。
 サクラが善良かどうか選別しくれたら、善人以外はサクラに任せるよ。
 でも、食べるまではしなくていいよ。
 自由に競争させてくれればいい。
 最低限食べて行けるように護ってくれて、新たに生まれてくる子供の中に、善良な者がいたら俺の所に移住させてくれればいいよ」

「分かりました、リアムの心に負担をかけないようにします。
 内緒で殺して後で罪の意識を感じるような事はしません。
 安心してください」

「サクラがそんな事をするとは思っていないよ。
 難民の話しはこれくらいにして、この艦隊の事と、サクラがまた急激に成長した理由を教えてくれないか?」

「この艦隊は、交易都市で紅毛人を斃した時に預かった船を、リアムが増やせと言ったと通りに増やした結果ですよ」

「増やすとは言っても、千を越える大艦隊にするとは思わなかったよ。
 材木はどこから調達したんだい?」

「海に近い魔境から手に入れました」

「船に送ったサクラの分身体だけでは力が足りないのではないか?
 本体からキングクラスやエンペラークラスを応援の送ったのかい?」

「はい、ビッグクラスから緊急の援軍要請を受けて、エンペラークラスを応援に送り、海の生物だけでなく魔海の生物と戦いました。
 魔海の生物は魔境や魔山の生物とは比較にならないくらい数が多いです。
 海の魔獣や魔魚を斃し吸収する事で、急激に成長する事ができました。
 その成長分を使えば、海に近い場所の魔境で魔獣を狩りながら、艦隊建造用の材木を集める事など簡単です」

「その成長分を使ったから、千のフリゲート全てに、一隻当たり千ものビッグスライムを配置する事ができたのだな?」

「はい、そして今も千のフリゲートにいる千のビッグスライムが、魔海の魔獣や魔魚を狩り喰らって成長を続けています」

「サクラが成長してくれるのはうれしいが、やり過ぎないでくれ。
 自然のバランスが崩れて世界のどこかに被害を与えるのは嫌だ。
 注意深くやって欲しい」

「わかりました、どこかに被害が出ていないか注意します。
 ですがその為には、大陸ら紅毛人の国に分身体を送る必要があります。
 許可していただけますか?」

「そうだな、紅毛人がこの国を狙っていることが分かったのだ。
 この国の王侯貴族に味方する気はないが、善良な人々が殺されるのを見てみぬ振りできるほど、俺の心は強くない。
 紅毛人や大陸人がいつこの国を攻めて来るのか、調べておいてくれ」

「分かりました、新しいフリゲートを建造して各地に派遣します」

「サクラ、急激に強大な魔力反応が近づいて来ているのだけれど、水属性竜かい?」

「はい、ここに水属性竜がいるのが分かっていたので、リアム様に斃して頂こうと誘い出しました」

「誘い出した?
 戦う気のない魔獣を挑発して殺してはいけないと言っていたよね?」

「誘い出したとは言いましたが、挑発したわけではありません。
 水属性竜も人間を襲う習性があるのです。
 これまでも魔海に近づく人間はことごとく襲っていました」

「そういう事ならしかたがないね。
 これから俺達の艦隊が海を行くのなら、襲って来る海の魔獣や魔魚は斃さなければいけない。
 特に分身体では斃せない強大な敵は、俺かサクラで斃さないといけない」
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