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2話

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「バンバリー公爵家令嬢デイジー。
 反論がないという事は不敬罪を認めたという事だな。
 王太子を殺しかねない攻撃をした罪は許し難い。
 本来なら反逆罪で死刑にするところだが、バンバリー公爵家の忠勤に免じ、大砂漠への追放刑とする。
 直ぐに引っ立てろ!」

「甘い!
 甘すぎます、国王陛下!
 この腐れ女は私を殺そうとしたのですよ。
 それを追放刑など我慢できません。
 納得できません!
 死刑にしてください!」

 素早く追い立てられるデイジーの刑に、王太子ライリーが父親の国王に激しく不服を申し立てるが、自分がやってきた悪行を全く反省していない。
 国王もその事を一切咎めない。
 咎めないどころか、悪逆非道な事を言った。

「ならば自分の手で復讐しろ。
 王国の法は表向きの常識を守らなければならない。
 お前はダムラス王国と戦争をさせたいのか?
 怒り狂ったマックス国王と正面から戦う覚悟があるのか?
 聖騎士ロディーと戦って勝つ自信があるのか?!」

「それは……」

 自分よりも弱い相手には強気に出れるライリー王太子も、武王と呼び称えられる、歴戦のマックス国王の前に立つ勇気などなかった。
 大陸中の教会をまとめる最高神殿から、武芸と魔力と高潔な精神を認められ、聖騎士認定されたロディーと戦う覚悟もなかった。
 だが蛇のような執念で、デイジーを嬲り者にしようとしていた。
 王もその事に気がついていて、自分の手で復讐するように煽ったのだ。

 王には不安と恐怖があった。
 デイジーがマックス国王の元に逃げ込む不安だ。
 デイジーの母方の祖父であるマックス国王が、問答無用で攻め込んでくる恐怖だ。
 ダムラス王国の正反対にあり、魔物の住処となっている大砂漠に追放したとはいえ、生き延びてマックス国王の元に逃げ込む可能性は皆無ではない。

 自分がデイジーを死刑にすれば、マックス国王の恨みは自分に向く。
 それが途轍もなく怖かった。
 だから死刑にすることを回避した。
 同時に生きてマックス国王の元に逃げられるのも恐ろしい。
 ライリー王太子が殺してくれれば、マックス国王の憎しみはライリー王太子に向き、自分は安全な位置にいられると考えたのだ。

 そう、ローリー国王は自分の息子を人身御供にしたのだ。
 自分の身の安全をはかるために、自分の子供を見殺しにすることにしたのだ。
 だったら、最初からライリー王太子の罪を明らかにすればいいのに、そこは王家の体面で、ライリー王太子が積み重ねた悪行を表にだすことができなかった。
 ローリー国王の謀略を読み取る事のできない愚かなライリー王太子は、多くの取り巻きを引き連れてデイジーを追った。
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