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海辺の開拓村編
8.スパイキークラブ物語(8)
しおりを挟む「冷たい……⁉ まさか、氷漬けになってるのか⁉ これを、あんたらが⁉」
ぐんと来るのやめい!
そのぐんいらん!
「お、落ち着いてください。ちょっと」
「そっすよー。五十匹は駆除しましたね」
「ご、五十匹⁉」
「はい、ここにいるユーゴがやりました」
ん?
「そっすね。ユーゴさんがいなきゃこんな風にはできなかったっすね」
「うん、後処理も大変だったろうな。ユーゴ様々だ」
「そ、そうか、あんたが」
店主が感極まった表情で俺を見つめる。焦って周囲を確認したが、頼れるパーティーメンバーはうんうん頷いている。
何かおかしい。次の依頼は俺一人でやるのだが、そこに至るまでの過程が歪になりそうな雰囲気を感じて変な汗が流れる。
「ああ、すいません。私はビルと言います。この宿の店主をしております。部屋は二階です。どうぞ自由に使ってください」
店主のビルさんが鍵を差し出すのを、フィルとヤス君が受け取る。
「後は任せる」
「あ、いやちょっと」
サクちゃんが俺の肩を軽く叩いて、二階へと向かう。
「お先っすー」
「僕もおさ――」
「待てい」
フィルの首根っこをむんずと掴まえる。「やめて! ローブが伸びる!」とか言いながらジタバタするが気にしない。気にしてなるものか。
「フィルはアニーちゃんの相手をお願いね」
「な、何でだよ?」
「この状況を作ったのはフィルだよね?」
ビルさんだけでなく、アニーもまた両手を組み合わせ、俺に羨望の眼差しを向けている。この視線に晒されながら次の依頼をやるのは精神的に厳しい。
だって、悪魔って呼ばれるような物をこれから調理して出すんだからね。
ヤス君とサクちゃんは、おかしな空気になるのを見越して逃げたのが丸分かりだが、俺は咎めない。何故なら俺もそうするから。誰だってそうするだろうから。
だがフィルは別だ。許しちゃいけない。おかしな展開になったのも、フィルがそうなるように動いたからだ。今回はこいつが戦犯であることは間違いない。
「俺は見てたよ」
「な、何をだよ?」
「フィルの悪い顔」
フィルがビクリと体を震わす。俺はハーフエルフ特有の、エルフに比べて短めの尖り耳に顔を寄せて艶めかしく息を吐くように囁く。
「シラを切ろうなんて思っちゃ駄目だよ。寝てる間に、フィルのアソコに俺がアレを突っ込むことだってできるんだからね……」
「アソコに、アレ……?」
フィルが怯えの混じった驚愕の表情を浮かべ、ゴクリと唾を飲み込む。
「フフフ、もしそんなことになれば、くしゃみが止まらなくなるよ!」
「鼻にコヨリかよ!」
頬を染めて激昂するフィルを嘲笑しつつ、俺はアニーにフィルの面倒をみるようにお願いした。アニーは嬉しそうにフィルの手を取って外へ出ていった。
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