女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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「あ、起きた?」
髪の毛が擦れる感覚で目が覚めた。
「せんせ…?」
さっきの体の軽さは何だったんだろう。今は鉛でも入ってるんじゃないかってぐらいに怠い。ふと、尻周りの気持ち悪さに気付く。それで一瞬血の気が引いてそんで、ごく少量であることに安心した。とはいってもこれがなければ先生の車を汚していただろう。今回ばかりはこの幼稚な履物に感謝した。
「まだ熱あんね。とりあえずこれ飲めそうなら飲みな」
「ん…」
お腹空いた。あの人のお粥を意識が曖昧なうちに食べたんだろうけど、体は足りなかったようだ。コンビニで買ってくれたのだろうか。少し温いインスタントの味噌汁を受け取り啜る。
「食べれそうならおにぎりもあるよ」
「…ん…」
先生は何も言わない。ただ俺が咀嚼しているのを眺めるだけ。
「…怒ってる?」
顔を見るの、怖い。何であんな態度取ったんだろう。寝る前の俺が信じられない。
「…場合によっては。…ねえ、今なら教えてくれる?何で家帰りたくないの?」
「そ、れは…」
言えるわけないじゃん。保護者に襲われたからなんて。
「それは…」
声に出したら泣きそう。そんな自分を誤魔化すように食べかけのおにぎりを口に詰め込む。
「ものを壊しちゃったのはほんと?」
「…ん、」
「ものに当たったらダメって昨日言ったよね?」
「…」
「何でそんなことしちゃったの?」
「…むしゃくしゃしたから」
「ほんとに?」
「…せんせーはさ、俺のこといい子って言うけど、違うから」
「そーなの?」
「ものこわしたら、すっきりするような奴だし」
「理由もなく?」
「あるわけないじゃん。あの人、殴ったこともあるから。どうせせんせーはあの人の味方なんでしょ」
「そんなこと言ってないじゃん。ただ綾瀬が何を考えてるかが分かんないの。それは理解してくれる?」
「……それは………………、…べつに、反抗期ってやつじゃないの?」
「綾瀬は悲しい顔してる人を見て喜ぶ人なの?」
小さな子供を嗜めるような丁寧な口調は、一言一言が重たくて思わず目を伏せてしまう。
「…そうだし、せんせーしつこい、」
尋問されてるみたいな居心地の悪さを感じた。これ以上、踏み込まないで欲しい。
 でも、少しだけ興味がある。先生、俺の話聞いたらどんな顔するんだろうって。なんて言うんだろう、って。
「…っ、きのう、」
ああ、だめだ。どれだけ投げやりな気持ちになってしまおう、ぶちまけてしまおう、そう思っても言葉にしようとした瞬間、頭の中が掻き回されて真っ白になって、何も言えなくなってしまう。思い出してしまったもので不愉快な気分になるだけ。
 ああ、あの生ぬるい感覚がまだ残っている。体の中心から、手指の先まで。

「きのう、………、っ、」
家に帰るのが怖い。正直あの部屋に入るのにも拒否反応が出そう。でも、それが嫌ならあのおぞましい事実を言わなきゃいけない。警察や児相に駆け込もうものならもっともっと深く掘られるだろう。

 誰にも知られたくない。もう口にも出したくない。あんな出来事はなかった、そういう事にしてしまいたい。もう、思い出したくない。

「……………どうしても言わなきゃだめ…?…」
ぼろりと涙が溢れた。熱で火照った頬で温められて、蒸発していく。
「いい、たくない…かえりたくない、」
呼吸が引き攣ってしんどい。あ、俺泣いてるんだ。子供みたいに、質問されたことにも答えないで。
「かえりたくない、きょー、かえんない、」
「おー…ちょーっと一回落ち着こっか、」
背中をさすられて、長らく地面を見ていた顔を上げた。ぼやけた先からも分かる、びっくりしたような、戸惑ったような表情。
「かえりたく、ない、こたえ、たくない、」
「わかったわかった、今日はもう遅いし先生の家泊まりな」
「かえんない、かえんないっ、」
どんどん声が濁っていく。最後の方は自分でもなんて言ったか分かんないぐらいの泣き声で、喚いて、声にならない息で叫んで。
 苦笑いをしている先生に抱きついて、頭を撫でてもらって。
 こんなことしても何の解決にもならないのに。先生は俺の家とは全く関係ないのに。でも、根負けしてくれた先生に、あの家に帰らなくていいことに安心して、車の中だというのに、さっきまでも寝ていたのに、落ちる瞼に抗いきれずにいつのまにか眠ってしまった。

















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