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56.ルーカスが無言でいる理由
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「言われてみればセオドアやリリアナがワッツの手に落ちたのはあの事件がキッカケだよな。そのせいでハリーはワッツから逃げ出せなくなったし、どんな指示でも従わなきゃいけなくなった」
聖職者殺しになった弟と怪我をした妹を守る為には公爵家の権力や財力が必要だったのか、単純に2人を餌にされたのかは分からないがハリーに逃げ道がなくなったのは間違いない。
「ワッツがセオドアにお仕置きしたらどうかとメイルーンを唆したついでに『見せしめに両親を』とか言ったのかもな」
ハリーを獲物として拘束する時一番邪魔になるのは両親や妹だろう。セオドアはメイルーンを追い詰める証人にできる上に目の前に差し出してやれば恩を着せることもできる。
「家族が目の前で殺されれば恐怖で心がいっぱいになって理性よりも本能で行動するようになるから、長兄として家族を守らなきゃって言う気持ちの方が大きくなって真面な判断能力はなくなるかも。
ハリーが動揺してる間に弟妹を助けたければ俺の言う事を聞けって言うの。俺ならメイルーンからセオドアを守れるとか、公爵家の財力があればリリアナに治療を受けさせてやれるとか。
⋯⋯御者を探させたのはハリーを両面から追い詰める為かも」
「御者探しでハリーが追い詰められる⋯⋯そうか、御者はセオドア達の犯罪の証人だがセオドア達に利用された被害者でもあるからな」
セオドアの兄としてのハリーは弟の罪を公にしない為に御者が司法に駆け込む前に捕まえたい、ハリーの中の善良な部分は自分が捕まえたら御者は教会やワッツに殺されると知ってる。
「⋯⋯自分の指示でハリーが毎日相反する気持ちを抱えて苦しんでるのが楽しいのよ。
ジレンマの中でハリーがどっちに転ぶかを楽しんでるんじゃないかと思う。ワッツにとっては弟妹の為に仕方なく服従してる今のハリーじゃ足りなくて、身も心も隷属するとか完全に心が壊れるとか⋯⋯そうなったハリーがみたいんじゃないかな」
夕闇が迫りはじめた部屋の中が少し暗くなりはじめ、無言で話を聞いていたルーカスが静かに席を立ちランプに火を灯した。
ジジッと音を立てた芯からうっすらと煙が上がりほのかな香りが漂った。
ミゲルをターゲットにしたゲームの提案者でセオドアに細工を指示したメイルーンが御者を探すのは当然だが、ワッツがしつこく御者を探させる理由はいままで想像がつかなかった。
「ハリーに御者を探させるのは⋯⋯ 探しながらずっと悩ませられるから一番効果的だって思う。病院から連れ出しても生活費と病院代と介護をひとりで賄えないし、セオドアは多分教会至上主義みたいな感じに洗脳されてる上に犯罪を犯し過ぎてる。
弟妹を助けたいけど力不足だから従うしかないけど、ワッツ達のせいで犯罪者になった人の首に自分が縄をかけることになる。
八方塞がりで苦しんでハリーが壊れるまでじわりじわりと追い詰めるのを楽しんでる」
まだ暖かい季節なのにメリッサは寒さを感じた時のように腕をゴシゴシとさすった。
(気持ち悪過ぎて鳥肌がたったかも⋯⋯父さんの言う通り夜眠れなくなりそうだし、さっきから父さんがずっと黙り込んでる理由が分かったかも)
「⋯⋯急いでハリーと話してみよう。メリッサの予想が正しいならワッツが壊したいと思うくらい強くて正しい心の持ち主だ、今ならまだ間に合うかも」
ケニスが依頼した者達の前に何度も姿を現しながら御者を捕まえられなかったハリーは複数の監視の前で縄抜けできるだけの豪胆さと気付かれないで行動できる冷静さもある。
(それなのに御者を捕まえられなかったのは間違いなく理由があるわ)
「うん、早い方が良いかも。リリアナがハリーを追い詰める前に行かなくちゃって思うんだけどその前に⋯⋯父さん、心配かけてごめんなさい」
ランプに火を灯した後に壁に寄りかかったままのルーカスに向かってメリッサが頭を深く下げて謝った。
「謝るのは俺にじゃねえだろ?」
「うん⋯⋯ケニスとマーサおば様にだね」
「え、俺と母上?」
「⋯⋯さっき父さんが言った時には気付かなかったんだけど、ケニスは獲物の条件に当てはまる」
『ワッツ公爵家の悪魔が選ぶのは、訓練された兵士が一番だが見た目も良くて細マッチョ狙い、金髪翠眼の男のみ』
「何年も狙ってたハリーがいなくなったからワッツは死に物狂いで探すはずだよね。そこで同じくらい条件に合う獲物を見つけたら⋯⋯ハリーに執着してケニスの事はスルーするのか両方狙うのかターゲットをケニスに変えるのか。
私がケニスを巻き込んだから『ワッツ公爵家の悪魔』に狙われるかもしれない。今からでも手を引いてください、お願いします」
両手を膝に置いて頭を下げたメリッサは涙を堪えた。
(泣いたらケニスが引けなくなるし、泣く資格なんてない。私が腹を立てて暴走して巻き込んだんだもん⋯⋯まさかこんな事になるなんて)
「⋯⋯先ずはハリーと話し合ってその後母上に身を隠してもらう。メリッサとおじさんにも危険があるけど2人は逃げそうにないよなあ」
顔を上げたメリッサがケニスの腕を掴んだ。
「呑気なこと言ってないで! ハリー達全員を倉庫に移動させたらケニスはおば様と2人で安全が確認できるま⋯⋯」
「それは無理って言うか断る! ここまできたらメリッサは手を引かないっていうか引けないだろ? メリッサがやるなら俺も手を引かないからね。全部解決したらサプライズさせてくれるって約束しただろ?」
「ワッツはサマネス枢機卿が可愛がってるメイルーンさえ手玉に取って平気で利用するような奴だよ!? 教会を相手にするだけでも危険なのにピーター・ワッツはそれより悪質な精神異常者で⋯⋯ワッツ公爵家は隠蔽の為に何をやるか分かんない!
危険すぎる、絶対にダメだから! 私のせいでミゲルが犯罪に巻き込まれて命を落として、ケニスまで同じ事になったらもう耐えられないよ」
聖職者殺しになった弟と怪我をした妹を守る為には公爵家の権力や財力が必要だったのか、単純に2人を餌にされたのかは分からないがハリーに逃げ道がなくなったのは間違いない。
「ワッツがセオドアにお仕置きしたらどうかとメイルーンを唆したついでに『見せしめに両親を』とか言ったのかもな」
ハリーを獲物として拘束する時一番邪魔になるのは両親や妹だろう。セオドアはメイルーンを追い詰める証人にできる上に目の前に差し出してやれば恩を着せることもできる。
「家族が目の前で殺されれば恐怖で心がいっぱいになって理性よりも本能で行動するようになるから、長兄として家族を守らなきゃって言う気持ちの方が大きくなって真面な判断能力はなくなるかも。
ハリーが動揺してる間に弟妹を助けたければ俺の言う事を聞けって言うの。俺ならメイルーンからセオドアを守れるとか、公爵家の財力があればリリアナに治療を受けさせてやれるとか。
⋯⋯御者を探させたのはハリーを両面から追い詰める為かも」
「御者探しでハリーが追い詰められる⋯⋯そうか、御者はセオドア達の犯罪の証人だがセオドア達に利用された被害者でもあるからな」
セオドアの兄としてのハリーは弟の罪を公にしない為に御者が司法に駆け込む前に捕まえたい、ハリーの中の善良な部分は自分が捕まえたら御者は教会やワッツに殺されると知ってる。
「⋯⋯自分の指示でハリーが毎日相反する気持ちを抱えて苦しんでるのが楽しいのよ。
ジレンマの中でハリーがどっちに転ぶかを楽しんでるんじゃないかと思う。ワッツにとっては弟妹の為に仕方なく服従してる今のハリーじゃ足りなくて、身も心も隷属するとか完全に心が壊れるとか⋯⋯そうなったハリーがみたいんじゃないかな」
夕闇が迫りはじめた部屋の中が少し暗くなりはじめ、無言で話を聞いていたルーカスが静かに席を立ちランプに火を灯した。
ジジッと音を立てた芯からうっすらと煙が上がりほのかな香りが漂った。
ミゲルをターゲットにしたゲームの提案者でセオドアに細工を指示したメイルーンが御者を探すのは当然だが、ワッツがしつこく御者を探させる理由はいままで想像がつかなかった。
「ハリーに御者を探させるのは⋯⋯ 探しながらずっと悩ませられるから一番効果的だって思う。病院から連れ出しても生活費と病院代と介護をひとりで賄えないし、セオドアは多分教会至上主義みたいな感じに洗脳されてる上に犯罪を犯し過ぎてる。
弟妹を助けたいけど力不足だから従うしかないけど、ワッツ達のせいで犯罪者になった人の首に自分が縄をかけることになる。
八方塞がりで苦しんでハリーが壊れるまでじわりじわりと追い詰めるのを楽しんでる」
まだ暖かい季節なのにメリッサは寒さを感じた時のように腕をゴシゴシとさすった。
(気持ち悪過ぎて鳥肌がたったかも⋯⋯父さんの言う通り夜眠れなくなりそうだし、さっきから父さんがずっと黙り込んでる理由が分かったかも)
「⋯⋯急いでハリーと話してみよう。メリッサの予想が正しいならワッツが壊したいと思うくらい強くて正しい心の持ち主だ、今ならまだ間に合うかも」
ケニスが依頼した者達の前に何度も姿を現しながら御者を捕まえられなかったハリーは複数の監視の前で縄抜けできるだけの豪胆さと気付かれないで行動できる冷静さもある。
(それなのに御者を捕まえられなかったのは間違いなく理由があるわ)
「うん、早い方が良いかも。リリアナがハリーを追い詰める前に行かなくちゃって思うんだけどその前に⋯⋯父さん、心配かけてごめんなさい」
ランプに火を灯した後に壁に寄りかかったままのルーカスに向かってメリッサが頭を深く下げて謝った。
「謝るのは俺にじゃねえだろ?」
「うん⋯⋯ケニスとマーサおば様にだね」
「え、俺と母上?」
「⋯⋯さっき父さんが言った時には気付かなかったんだけど、ケニスは獲物の条件に当てはまる」
『ワッツ公爵家の悪魔が選ぶのは、訓練された兵士が一番だが見た目も良くて細マッチョ狙い、金髪翠眼の男のみ』
「何年も狙ってたハリーがいなくなったからワッツは死に物狂いで探すはずだよね。そこで同じくらい条件に合う獲物を見つけたら⋯⋯ハリーに執着してケニスの事はスルーするのか両方狙うのかターゲットをケニスに変えるのか。
私がケニスを巻き込んだから『ワッツ公爵家の悪魔』に狙われるかもしれない。今からでも手を引いてください、お願いします」
両手を膝に置いて頭を下げたメリッサは涙を堪えた。
(泣いたらケニスが引けなくなるし、泣く資格なんてない。私が腹を立てて暴走して巻き込んだんだもん⋯⋯まさかこんな事になるなんて)
「⋯⋯先ずはハリーと話し合ってその後母上に身を隠してもらう。メリッサとおじさんにも危険があるけど2人は逃げそうにないよなあ」
顔を上げたメリッサがケニスの腕を掴んだ。
「呑気なこと言ってないで! ハリー達全員を倉庫に移動させたらケニスはおば様と2人で安全が確認できるま⋯⋯」
「それは無理って言うか断る! ここまできたらメリッサは手を引かないっていうか引けないだろ? メリッサがやるなら俺も手を引かないからね。全部解決したらサプライズさせてくれるって約束しただろ?」
「ワッツはサマネス枢機卿が可愛がってるメイルーンさえ手玉に取って平気で利用するような奴だよ!? 教会を相手にするだけでも危険なのにピーター・ワッツはそれより悪質な精神異常者で⋯⋯ワッツ公爵家は隠蔽の為に何をやるか分かんない!
危険すぎる、絶対にダメだから! 私のせいでミゲルが犯罪に巻き込まれて命を落として、ケニスまで同じ事になったらもう耐えられないよ」
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