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86.面の皮の厚さはどれ位?

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 翌日、王都に着く前に手に入れた(一日前の)朝刊にはデカデカとメイルーン達の悪行が掲載されており、街中がその話題で大騒ぎになっていた。

「おい、あの行列が新聞に載ってたやつか!?」

「グールズベールの方から来たから間違いないだろ!」

「第二騎士団が護衛してる! 間違いない、奴らが乗ってる護送車だ」

 道の両端には興味津々の貴族から平民まで、貴賤を問わず立ち並んでいる。

(この逮捕劇が上手くいけば教会の横暴が収まるかな)

(失敗する可能性の方が高い⋯⋯けと、頑張って)

(一泡吹かせてくれ!)



 成功を期待して道に並びながらも、失敗する可能性の方が高いと誰もが思っている。今まで何があっても何もできないで耐えてきた彼らの表情は、戦地に赴く戦士を見送るより時も緊迫した顔つきになっていた。

(頼む!)

(どうか⋯⋯)

(犬死にするに違いねえ⋯⋯それでも)

 国のトップに立ち向かう無謀とも言える今回の行動に、複雑な思いを抱えて列の最後尾を見送る観衆は、知らず知らずのうちに頭を垂れていた。





 王都に近付くにつれて観衆はどんどん増えていくが、誰ひとり道を遮るものはいなかった。

「流石に教会は動かないようね」

「ああ、今頃は国王やら議員やらを集めて金をばら撒くのに忙しいんじゃねえか?」

 馬車の窓にしっかりと掛けられたカーテンの陰から外の様子を覗いたメリッサがホッと溜息をついた。

(これだけの人の中で教会関係者が隊列の前に飛び出してきたら、怪我人が出そうで心配だったんだよね)

 教会関係者が騒いでも暴動にはならないだろうが、逃げ惑う観衆がパニックになる可能性が高い。

「この関心の高さは間違いなくホッグスのお手柄だな。さっきリチャードが言ってたんだけどな、続編はまだかって問い合わせがすごいらしい」

 朝刊の一面に書ききれなかったネタはまだ大量に残っているが、翌日の朝刊はいつもと変わらない議会の話などで無理矢理埋め尽くされていたらしい。

「普段なら一面にならない辺境の天気の話とかが載ってて、スペースを埋めるのに苦労してた感じだったよね~」

「国と教会を恐れているモーニング・グローの上層部が続編を許可しないんでしょうが、大量の広告と野菜の出荷状況を載せていたのには笑いました」

「続編が遅れれば遅れるほど国民の関心が集まってくるってのによお⋯⋯今まで長いもんに巻かれてた新聞社のお偉方に『ざまぁ』ってやつだよな」

 長いものに巻かれろと国や教会に都合のいい話ばかりを載せて、購買数を増やしてきたモーニング・グローに一泡吹かせることができた。次に動くのは第一騎士団辺りか⋯⋯。

 第二騎士団は軍事演習だと言って王都を出た。彼等の勝手な行動を咎めるあたりから攻め込んでくるだろう⋯⋯と言うのがメリッサ達全員の予想だった。





 王都に入る関所の前では予想通り、黒地に金ボタンが映える第一騎士団が整列している。その近くでは関所を通れず列を作っている商人達が、不満げな顔でヒソヒソと話をしていた。

「これって例の新聞に載ってたやつ?」

「見ろよ、大行列じゃないか!」

 結果がどうなるのかなど関係なしに、今一番話題になっている騒動を目撃できた喜びで騒ぎが大きくなりはじめた。

「いや~、予想通り過ぎてウケる~。リチャードの頑張りどころだが、失敗したら奴のケツに何歳まで蒙古斑があったか大声で叫んでやるかな~」

 ルーカスがワクワクしながら窓をほんの少し開けて外の声に耳を傾けた。

「第一騎士団団長マードック・ポンフリーである。この隊列の責任者は第二騎士団か!? カーマイン団長、前へ出てこい!!」

 馬から降りたフレッド・カーマイン第二騎士団団長とリチャード・メイソン裁判官が並んで前に出ると、一瞬驚いた顔をしたポンフリーの眉間に皺がよった。

「今はこのような大規模な隊列を組んで王都に戻って来た、第二騎士団に是非を問う。リチャード・メイソン裁判官はお下がり下さい」

「このような事態になったのは私の依頼によるもの。私からご説明申し上げるのが筋かと思いましたが?」

「⋯⋯カーマイン、それは本当か?」

「軍事演習に向かう途中、リチャード・メイソン裁判官より緊急の救援依頼を受けた。複数の人命に関わる事態で、王都への確認をする時間的余裕はないと判断した。問題があるとは思えんが?」

 奥歯を噛み締めてリチャードとフレッドを睨みつけたポンフリーが後ろに振り返り、何やら指示を与えてリチャード達に向き直った。

「お、伝令が走ったぞ⋯⋯う~ん、司法長官でも呼び出す気だな」

 緊張感が増していく騎士団員とは逆に、ますます楽しそうな声を上げたルーカスは、興味津々で聞き耳をたてる商人達よりも喜んでいるようにみえた。

「ゴホン! で、では話を聞かせていただこう」

「数日前にさせていた者から連絡が来ました。真偽の程を確かめに出向く途中で、グールズベールに大量の武器を抱えた傭兵や、兵士崩れが終結しているという話を聞きまして。
第二騎士団が近くを通ると聞き支援を求めたのですよ」

 メイスンの白々しい説明に『ふんっ』と鼻を鳴らしたポンフリーが、腕を組んで腹を突き出した。

「別件で内偵して、たまたまで運良く? その嘘臭い話を信じろと?」

「では、別の話でもあると言われるのですかな? あれば是非お聞かせ願いたい」

「⋯⋯お、王都での騒ぎを知らんとでも言われるつもりか?」

「ん? ああ、モーニング・グローの一面の記事の事を申されているなら、昨日初めて知りましてな⋯⋯何しろグールズベール辺りにはまだ届いておりませんでしたから、行軍の途中で読んでに驚いております」



「流石、腐っても特級職の裁判官だな~。リチャードメイソンの面の皮の厚さは、屋敷の壁より厚そうだぜ」

 ふふんと楽しげに笑ったルーカスが『知ってるか? 昔あいつは⋯⋯』と言いかけてメリッサに脇腹を小突かれた。

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