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薬指の約束

《3》

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「げ、また階段?」

 やっとたどり着いたと思ったのに、石作りの鳥居の向こうには急勾配の長い石段が伸びている。本殿に行くには、この石段を上らなければいけないらしい。

 石段の真ん中辺りには、石の鳥居よりは少し小さめの赤い鳥居が立っていた。両側には高木の緑が生い茂っていて、神社の本殿まで続く木のトンネルみたいになっている。緑の中に赤の鳥居が佇むその景色は、神様のいる場所に相応しく幻想的だった。

 しばらく迷ったあと、わたしは本殿に続く石段を上ってみることにした。

 特別願いごとがあるわけではないけれど、二十分もかけてここまで来たのに、何もせずに引き返すのは悔しい。

 ゆっくりと時間をかけて、長い石段を上る。

 真ん中の赤い鳥居をくぐり抜けて石段の一番上に足をかけたとき、正面に木造の本殿が見えた。境内が狭くて神主さんがいる気配もないけれど、整備の行き届いた綺麗な神社だ。

 真っ直ぐに本殿に進んでいくと、賽銭箱の前に垂れ下がっている鈴緒を片手で握る。

 鈴を鳴らそうとして、お賽銭がないことに気が付いたわたしは、おつかいのためにママに渡された財布から五円玉をひとつ拝借させてもらった。

 お願いごとをするとしたら、なんだろう。

 早く新しいクラスに馴染めますように、かな。それとも、新しい友達ができますように? 

 考えているうちに、ふと、同じ高校に通うことになったリコちゃんの声が耳に蘇った。

「高校生になったんだし、彩寧もそろそろ彼氏でも作んなきゃね」

 小学生のときから男の子にモテモテなリコちゃんと違って、わたしは片想いの相手すらいない。だけど、リコちゃんの恋バナをいつも聞かされているわたしだって、恋愛や男の子に興味がないわけじゃない。

 実は、入学式のときに隣に席に座った同じクラスの男の子が笑顔が爽やかでかっこいい子で。「好き」と言う気持ちまではいかないけれど、ほんの少しときめいた。

 数日前に高校生になったばかりのわたしは、新生活にちょっぴり期待しながら、神様に手を合わせた。

「やっぱりこれだな。わたしにも、かっこよくて素敵な彼氏ができますように……」

 目を閉じて、口の中で小さくつぶやく。

 そのとき、チリンと小さな鈴の鳴る音がして、後ろ髪がふわりと風に揺れた。

 また、鈴の音――? 

 ハッとして、目を開ける。だけど、神社の境内にいるのはわたしだけ。

 こんなに何度も同じような空耳が聞こえることってあるだろうか。もしかして、近くに首輪をつけた猫でもいるのかな。

 きょろきょろと境内を見回していると、本殿の陰にもうひとつ、石の鳥居があることに気が付いた。

 平屋の本殿よりも少し背の低い鳥居の奥には格子戸のついた木造の小さな社が置かれていて、その両端に石造の狛犬が向かい合うように鎮座している。

 あそこにも、お詣りする場所があったんだ……。

 小さな社をぼんやりと見つめていると、突然、向かって左側にいる狛犬の目がギラリと光った。

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