37 / 64
連載
強制イベント:手合わせ
しおりを挟む
屋敷に戻ろうと城門へと移動している途中。
私はふと声をかけられた。
「……ティナ・クローズ殿。貴殿を探していた」
「トリスロッド殿?」
呼び止めてきたのは近衛騎士団団長、トリスロッド氏だった。
探していた? 私を?
一体何の用件だろうか。
「……時間はあるか」
「そうですね。特に急ぎの用件はありません」
「……では、頼みがある。――自分と手合わせしてもらいたい」
唐突にそう告げられる。
「……理由をお聞きしても?」
「……いや、特に深い理由はない。ただ、純粋な好奇心だ。近衛騎士団の団員すら軽くあしらう貴殿の実力を知りたい」
確かにその動機はシンプルこのうえない。
「……さきほど、修練場でノアが暴走させずに魔術を使っているのを見た。あれは貴殿が何かしたのだろう?」
「まあ、そうですね」
「……貴殿が今この城に来ているのは、ノアが魔力制御を覚える手助けをするため。それが達成できそうな今、貴殿がいつまでここに来るかわからん」
「なるほど」
言われてみれば、ノアに『吸魔の腕輪』を渡し終えた現在、私が王城にやってくる理由は消滅している。
トリスロッド氏からすれば、私と手合わせする機会はもうないかもしれない、と判断できる状況だ。
受ける理由はない。
けれど、受けない理由もない。
「わかりました。では、一度だけ」
「……感謝する」
「場所はどうしますか?」
「……ここでいい。この一角には昼間通りかかるものはほとんどいない」
トリスロッド氏の言う通り、私がいるのはちょうど建物と建物の隙間のような場所だ。模擬戦を行うくらいのスペースはあるけれど、日中誰かがやってくることもないだろう。
「……誰も目撃者はいない。だからティナ・クローズ殿、貴殿も本気を出すといい。――自分がそうするように!」
甲高い音を立ててトリスロッド氏は背に吊った鞘から大剣を抜き放った。
それを私目がけて振り下ろしてくる。
私はそれを回避したけれど、直前まで私の立っていた場所はトリスロッド氏の大剣によって地面に亀裂が入っていた。
……当たっていたら私は大怪我では済まなかっただろう。
トリスロッド氏は再度告げる。
「……本気を出せ、ティナ・クローズ殿。自分が見たいのは貴殿の本当の実力だ」
殺気。
これはただごとじゃない。
「私のことを買ってくれるのは嬉しいですが、真剣で手合わせをするというのは危険です」
「……寸止めなら問題ない」
「それに、わざわざ人目のない場所で行う意図もわかりません」
「……目立つ場所では、貴殿は実力を隠そうとするだろう?」
どうも買いかぶられているような気がする。
いや、そうでもないのか。
今の私は前世よりもはるかに弱いけれど、この時代は平和ゆえに強い人間が少ない。今の私ですら、この時代においては強者なのだ。
「……行くぞ」
トリスロッド氏は有無を言わさず剣を構えた。
私はふと声をかけられた。
「……ティナ・クローズ殿。貴殿を探していた」
「トリスロッド殿?」
呼び止めてきたのは近衛騎士団団長、トリスロッド氏だった。
探していた? 私を?
一体何の用件だろうか。
「……時間はあるか」
「そうですね。特に急ぎの用件はありません」
「……では、頼みがある。――自分と手合わせしてもらいたい」
唐突にそう告げられる。
「……理由をお聞きしても?」
「……いや、特に深い理由はない。ただ、純粋な好奇心だ。近衛騎士団の団員すら軽くあしらう貴殿の実力を知りたい」
確かにその動機はシンプルこのうえない。
「……さきほど、修練場でノアが暴走させずに魔術を使っているのを見た。あれは貴殿が何かしたのだろう?」
「まあ、そうですね」
「……貴殿が今この城に来ているのは、ノアが魔力制御を覚える手助けをするため。それが達成できそうな今、貴殿がいつまでここに来るかわからん」
「なるほど」
言われてみれば、ノアに『吸魔の腕輪』を渡し終えた現在、私が王城にやってくる理由は消滅している。
トリスロッド氏からすれば、私と手合わせする機会はもうないかもしれない、と判断できる状況だ。
受ける理由はない。
けれど、受けない理由もない。
「わかりました。では、一度だけ」
「……感謝する」
「場所はどうしますか?」
「……ここでいい。この一角には昼間通りかかるものはほとんどいない」
トリスロッド氏の言う通り、私がいるのはちょうど建物と建物の隙間のような場所だ。模擬戦を行うくらいのスペースはあるけれど、日中誰かがやってくることもないだろう。
「……誰も目撃者はいない。だからティナ・クローズ殿、貴殿も本気を出すといい。――自分がそうするように!」
甲高い音を立ててトリスロッド氏は背に吊った鞘から大剣を抜き放った。
それを私目がけて振り下ろしてくる。
私はそれを回避したけれど、直前まで私の立っていた場所はトリスロッド氏の大剣によって地面に亀裂が入っていた。
……当たっていたら私は大怪我では済まなかっただろう。
トリスロッド氏は再度告げる。
「……本気を出せ、ティナ・クローズ殿。自分が見たいのは貴殿の本当の実力だ」
殺気。
これはただごとじゃない。
「私のことを買ってくれるのは嬉しいですが、真剣で手合わせをするというのは危険です」
「……寸止めなら問題ない」
「それに、わざわざ人目のない場所で行う意図もわかりません」
「……目立つ場所では、貴殿は実力を隠そうとするだろう?」
どうも買いかぶられているような気がする。
いや、そうでもないのか。
今の私は前世よりもはるかに弱いけれど、この時代は平和ゆえに強い人間が少ない。今の私ですら、この時代においては強者なのだ。
「……行くぞ」
トリスロッド氏は有無を言わさず剣を構えた。
190
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。