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しおりを挟むこれは私の心からの本心。だって、本当の両親にしても、元婚約者にしても、私にはほとんど関りがなかった人たちの話。そんな人たちに侮辱されて、まったく傷つかなかったと言えばもちろん嘘になるけれど、それ以上にそれを聞いて怒ってくれる人たちがいる。私のことで悲しんでくれる人たちがいる。それの方がよっぽど大切な事だった。だからあの裁判で、母親が私の事を憎んでたってわかっても、あぁ、そうなんだ、くらいの気持ちでいられたのです。だから元婚約者の事だって気にしているわけがありません。それよりも、あのパーティーでザックと結婚の約束をすることができたことの方がとても大切な思い出なのです。
「気にしてない………そっか、君にとってはその程度の事だったんだね……そっか……そうなんだ…………
俺はこの1年初めて働いた……手が腫れていても、体調が悪くても休めなくて、こんな事を普通の人たちは普通にやってるって初めて知ったんだ……きっと知ってるのが当たり前のことを知らない自分の事を初めて恥じたよ…どうして16年間俺は偉そうに暮らしていることができたんだろう……あのことがなければってどれだけ後悔したかわからない。いや、後悔しなかった日はなかったよ。でも結局あの日じゃなくてもきっとこうなってたんじゃないかって、半年くらい過ぎた時に思ったんだ。父が犯罪を犯していたのも事実だし、母が犯罪を犯していたのも事実だった。きっとあの日じゃなくてもそう変わらない日にきっと貴族ではいられなくなっていた。そしたらこうして働かなければならなかったはずで、でもきっとそんなこと難しかったはずなんだ…………きっと周りの環境もよくなかったけど、なにより自分自身がダメだったって初めて気づいたんだ……
そして、あの施設を出されて、言われた通り、自分で職を探そうと職業案内にも行ってみたし、直接店にも頼み込みに行った。でもどこも断られた。あの裁判を知っているものも多いし、なにより今までなんの経験もないことが大きい。施設で働いた金を少し渡されていたけど、働きもできない生活を1か月もしていて、もうどうしていいのかわからないと思っていた時、ちょうどマリア…様が歩いているのを見かけたんだ………あんな事があって、君に声をかけるなんて恥知らずだと思っている。でもとりあえず謝罪したかった。そして、願わくば俺の事を雇ってくれないか!!自分でも恥知らずだと思ってる!!こんなこと君に頼めたことじゃないと思ってる。でも、、どうか、どうか!!お願いします!!!!私を雇ってください!!!!!」
先ほど謝られた時と同じように床に頭をつけ、スティーブ様が懇願しております。正直これには謝られるよりも困ってしまいます。私は公爵家に嫁ぐ身。人を雇うにしても必ずザックに相談しています。ザックは私に決めていいとは言ってくれますが、それでも私が相談するのです。相手が誰であれ、困っているのならば手を差し出したいとは思っていますが、正直あの裁判に関わった人はできれば関わりあいたくない人です。どうしようと思って、ザックを見ると彼も私を見ていました。その目はとても優しく私を見つめてくれています。
「ザック、どう思う?」
私は素直に聞いてみることにしました。だって、私としてはどうでもいい彼。どうでもいいから仕事を紹介してもいいと思っていますが、貴族として正常な判断ができているのかわかりません。
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