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41 遠い過去の記憶
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――ゆらゆらと心は揺蕩いながら、夢路を辿る私は、幼い頃の夢を見ていた。
満開の薔薇が辺り一面に咲き誇る広大な庭園。そこでは大勢の貴婦人達が、まるで花の美しさと競い合うように着飾り、互いを値踏みするような視線を交わし合っている。
ここはアーデルハイド王宮にある、常ならば王家の一族しか足を踏み入れることが許されない『ロイヤルガーデン』と呼ばれる庭園だ。
ルイ―セもたった一度だけ足を踏み入れたことがある。
その日は貴族の称号を持つ正夫人と令嬢のみが王妃主催の園遊会に招待され、ドレスで着飾ったルイ―セは、その美しい庭園の様子に目を輝かせながら足を踏み入れたことを覚えている。
幼かった自分の記憶はかなり朧気で、今では詳細まで思い出すことは出来ない。
確か、あの時のルイ―セは大勢の貴族夫人が互いに牽制しあう、そこはかとない悪意と、周りに漂う香水の香りに酔ってしまい、王妃殿下が談笑する中央テーブルからは距離を置いてお母様と二人で咲き誇る薔薇を愛でていたのだと思う。
だから、目の前にいきなり現れた、見慣れぬ貴族夫人の刺すような視線に、思わず体が強張ってしまったのだ。
「…あら、男爵夫人如きが王妃殿下主催の園遊会に来るなんて、随分恥知らずですこと」
豪奢なドレスを身に纏い、ジャラジャラと音がしそうなほどの宝飾品を付けたその女性は、随分と高位貴族のようで、お母様は彼女の嫌味な言動に対しても綺麗なカーテシーで挨拶を返していた。
「まったく…王妃殿下は何を考えて、こんな身分の低い貴族まで招待するのかしら?私が王妃になった暁には全て排除して、高貴な者のみを侍らせることにするわ」
その貴婦人は苛立ちを隠そうともせず、あろうことか王妃殿下の悪口を言いながら、手に持った扇で憎々し気に薔薇の花を叩いては散らしている。
「それで…その子供が忌み子の片割れの娘なのね?」
(いみご…?いみごって何の事なの…?)
意味も分からず聞いていると、貴婦人はその言葉で一瞬眉を顰めたお母様の様子を目ざとく見つけると、嬉しそうに口角を上げて声高に罵倒し始めた。
「貴族の正夫人ともあろうものが、獣のように同時に何匹もの子を孕むなど、汚らわしいわ。本来一つの魂が半分に分割されて生まれるような子供なんて一人前になれない不完全な出来損ないですものねぇ‼」
(ケダモノ…ケガラワシイ…タマシイガハンブンデ…フカンゼン)
彼女に何を言われてもお母様は黙ったままで俯くから、ルイ―セも言葉の意味を教えて欲しいとは言えず、同じように俯くしかなかった。
「その娘さえいなければ、せめて跡取りの方は健康に生まれたかもしれないのに。本当にお気の毒だったわね」
“ホホホ”と高笑いすると、言い返さないお母様の様子に、すっかり興が削がれたのか、貴婦人は踵を返すと中央テーブルへと戻っていった。
(ワタシサエ…イナケレバ…カールハ、ケンコウダッタ…?)
私は本当にいらない子供なのだろうか…?そんなことは無いよと…母が抱きしめてくれさえすれば、こんな恐怖はきっと消えてしまう。
縋るように見上げ、そっとドレスを掴むと“ビクリ”と震えたお母様は、私からスッと目を逸らした。
「…お母様…?ルイ―セはイミゴなのですか?」
思わず呟くが、母は決して目を併せようとせず、両掌で自身の顔を覆い隠してしまう。
――まるでルイ―セの顔など見たくないと言うかのように…。
その瞬間、自分が今まで愛されていたという思いは全て消え去り、ルイ―セは理由も分からずそのまま庭園の奥へと衝動的に駆け出してしまった。
(私はいらない子供だった…私がいなければ兄様も健康だし、お母様もあんな風に他人から貶められることは無かったのに…全部…全部私のせいなんだ…)
思考だけがグルグルと纏まらないまま、怖い物を振り切るように走り続け、ふと気が付くと随分と庭園の奥まで来てしまったようだ。
この辺りには人気も無く、吹き抜ける風が時折薔薇の花弁を散らしている。
ルイ―セが見つけた植え込みの陰は、日も当たらないせいか、薔薇の花も殆どが固い蕾のままだ。
誰にも見向きもされず、咲き誇る事さえない茨の棘が自分に向けられた悪意と重なって見え、ルイ―セは堪えきれずにポロポロと大粒の涙を零した。
(ルイ―セは要らない子?カールは大切な子?…カールが苦しむのはルイ―セのせいなの…?)
ずっと、愛されていると信じていた自分の世界が、音を立てて崩れ去って行くのをルイ―セは痛い程感じていた。
(こんな怖いのは夢だ…きっと目が覚めたらお母様が優しく抱きしめてくれるはず…)
風が吹き抜けるたび、日陰で震えるルイ―セの体も心も冷たくなっていく。
――私はその場で蹲ると、声を殺したまま泣きじゃくったのだった。
「カールっ⁈ …大丈夫なのかっ⁈ ねぇ…目を開けてくれよっ…‼」
ユサユサと体を揺すり起こされて、ボンヤリと眼を開けると心配そうな顔をしたルイスと、見慣れた部屋の天井が見えた。
ベッド脇に置かれたランプの灯りが部屋を淡く照らしているが、どうやらまだ夜中のようで辺りはシンと静まり返っている。
(…さっきのは…夢、だったんだ…)
此処は寄宿舎の自分の部屋だと、そして眠っていたところを起こされたのだと、私は漸く回り始めた頭で理解した。
「ああ…良かった。カールが魘されているみたいだったから、具合が悪いのかと心配したよ。涙まで零すなんて…余程怖い夢でも見たのかい?」
漸く目を開けた私に安堵した様子で、ルイスは髪を撫でてくれる。
「ちょっと…嫌な夢を見て魘されちゃったみたいだ。こんな夜中に心配させて、私こそごめんね?」
気が付けば濡れていた冷たい頬を袖で拭うと、私を引き寄せて優しく抱きしめてくれる兄の温もりが嬉しい。
「もう大丈夫?…もし怖くて眠れないようなら、私が昔みたいにぎゅっ‼てしながら一緒に寝てあげようか?」
小さい頃、怖い夢を見るたびにルイスのベッドへ潜り込んでは一緒に寝て貰った事を思い出すと漸く気持ちが解れるのを感じた。
――ああ…兄にとって、私は要らない子では無いのだ…。
「フフフ…もう子供じゃないのよ?ルイスのおかげで悪い夢は何処かに行ったから、今度は楽しい夢が見られそうだわ」
「無理していない?昔はあんなに“お兄様大好きっ”てベッドに潜り込んできていたのになぁ。あーあ、なんだか寂しい気がするよ」
「もう‼私だって既に社交デビュタントした、大人なんですからね‼いつまでもお兄様に甘えてばかりいられないわ」
「残念、振られちゃった。それじゃあ今度こそいい夢を」
クスクス笑いながら頬に口づけを落とすと、ルイスは自分のベッドへ戻っていった。
「…ありがとうルイス…おやすみなさい、いい夢を」
部屋の明かりを落とすと、一気に暗闇と静寂が戻ってくる。――身じろぎもせず、暗闇に包まれていると、ルイスの規則正しい呼吸音が聞こえて、漸く深く息をすることが出来た。
(――あの夢は、悪夢ではなく、現実に体験したことで…あの日私は薔薇園の片隅で孤独に泣いた後…一体どうやって帰ったのかしら…?)
あの幼かった私が“忌み子”と罵られた出来事は、間違いなく現実に起きたことだ。
豪奢なドレスを身に纏っていた貴婦人に“ロイヤルガーデン”で罵倒されて、お母様に拒絶された私は庭園の隅で一人ぼっちで泣いて――でもそこからの記憶が全く無い。
(一人で帰れるはずも無いし、誰かが探しに来てくれた…?でも、そこから先だけ、全く覚えていないなんて事があり得るの…?)
いくら幼子の記憶力だといっても、これだけスッポリと抜け落ちていることに違和感を覚える。
あの後、私は気が付くと日常に戻っていて――暫くすると、私とルイスはティーセル領で、二人で暮らすように両親から告げられたことも思い出した。
そう言えば、私がルイスと同じ服装をするようになったのもこの辺りだったかもしれない。
ドレスにも興味が無くなり、常にルイスと寸分たがわぬ格好をしたいと泣き喚いたそうだ。
(両親にも『無理に着飾る必要は無い』と言われて、当たり前のようにそれに従っていたけれど…あれは、私には“ドレスで着飾る価値さえ無い”から、いつでもルイスの身代わりとして役立てるようにという意味だったのかしら…?)
遅まきながら、その真意に気が付くと、ボンヤリと感じていた違和感に説明がつくような気がした。
――私は忌み子だから、両親から疎まれていたのだという事実に。
お母様があの時、高位貴族相手に言い返せなかった事情も、大人になった今ならば理解できる。
身分が低い者が高位貴族に楯突くことは、社交界で嫌がらせを受ける可能性や、貴族としての立場を守る上でも愚かな事だからだ。
黙って相手の気が済むまでジッと耐えていれば済むことを、私達のような下級貴族は嫌だという程に知っている。
だからお母様が取った行動は、自分たちの立場を守る為の行動としては正しい選択だったことも。
――それでも『貴方の事を愛しているわ』と両親から抱きしめられたいと願う事は罪なのだろうか。
“忌み子”で“身代わり”にしかなれない“不完全な魂”の【私】
一度思い出してしまった記憶は、何も知らなかった頃には戻れない。
今はただ、幼かった自分の傷を癒そうとするように自分自身をギュッと抱きしめながら、声を殺して泣くことしか出来なかった。
満開の薔薇が辺り一面に咲き誇る広大な庭園。そこでは大勢の貴婦人達が、まるで花の美しさと競い合うように着飾り、互いを値踏みするような視線を交わし合っている。
ここはアーデルハイド王宮にある、常ならば王家の一族しか足を踏み入れることが許されない『ロイヤルガーデン』と呼ばれる庭園だ。
ルイ―セもたった一度だけ足を踏み入れたことがある。
その日は貴族の称号を持つ正夫人と令嬢のみが王妃主催の園遊会に招待され、ドレスで着飾ったルイ―セは、その美しい庭園の様子に目を輝かせながら足を踏み入れたことを覚えている。
幼かった自分の記憶はかなり朧気で、今では詳細まで思い出すことは出来ない。
確か、あの時のルイ―セは大勢の貴族夫人が互いに牽制しあう、そこはかとない悪意と、周りに漂う香水の香りに酔ってしまい、王妃殿下が談笑する中央テーブルからは距離を置いてお母様と二人で咲き誇る薔薇を愛でていたのだと思う。
だから、目の前にいきなり現れた、見慣れぬ貴族夫人の刺すような視線に、思わず体が強張ってしまったのだ。
「…あら、男爵夫人如きが王妃殿下主催の園遊会に来るなんて、随分恥知らずですこと」
豪奢なドレスを身に纏い、ジャラジャラと音がしそうなほどの宝飾品を付けたその女性は、随分と高位貴族のようで、お母様は彼女の嫌味な言動に対しても綺麗なカーテシーで挨拶を返していた。
「まったく…王妃殿下は何を考えて、こんな身分の低い貴族まで招待するのかしら?私が王妃になった暁には全て排除して、高貴な者のみを侍らせることにするわ」
その貴婦人は苛立ちを隠そうともせず、あろうことか王妃殿下の悪口を言いながら、手に持った扇で憎々し気に薔薇の花を叩いては散らしている。
「それで…その子供が忌み子の片割れの娘なのね?」
(いみご…?いみごって何の事なの…?)
意味も分からず聞いていると、貴婦人はその言葉で一瞬眉を顰めたお母様の様子を目ざとく見つけると、嬉しそうに口角を上げて声高に罵倒し始めた。
「貴族の正夫人ともあろうものが、獣のように同時に何匹もの子を孕むなど、汚らわしいわ。本来一つの魂が半分に分割されて生まれるような子供なんて一人前になれない不完全な出来損ないですものねぇ‼」
(ケダモノ…ケガラワシイ…タマシイガハンブンデ…フカンゼン)
彼女に何を言われてもお母様は黙ったままで俯くから、ルイ―セも言葉の意味を教えて欲しいとは言えず、同じように俯くしかなかった。
「その娘さえいなければ、せめて跡取りの方は健康に生まれたかもしれないのに。本当にお気の毒だったわね」
“ホホホ”と高笑いすると、言い返さないお母様の様子に、すっかり興が削がれたのか、貴婦人は踵を返すと中央テーブルへと戻っていった。
(ワタシサエ…イナケレバ…カールハ、ケンコウダッタ…?)
私は本当にいらない子供なのだろうか…?そんなことは無いよと…母が抱きしめてくれさえすれば、こんな恐怖はきっと消えてしまう。
縋るように見上げ、そっとドレスを掴むと“ビクリ”と震えたお母様は、私からスッと目を逸らした。
「…お母様…?ルイ―セはイミゴなのですか?」
思わず呟くが、母は決して目を併せようとせず、両掌で自身の顔を覆い隠してしまう。
――まるでルイ―セの顔など見たくないと言うかのように…。
その瞬間、自分が今まで愛されていたという思いは全て消え去り、ルイ―セは理由も分からずそのまま庭園の奥へと衝動的に駆け出してしまった。
(私はいらない子供だった…私がいなければ兄様も健康だし、お母様もあんな風に他人から貶められることは無かったのに…全部…全部私のせいなんだ…)
思考だけがグルグルと纏まらないまま、怖い物を振り切るように走り続け、ふと気が付くと随分と庭園の奥まで来てしまったようだ。
この辺りには人気も無く、吹き抜ける風が時折薔薇の花弁を散らしている。
ルイ―セが見つけた植え込みの陰は、日も当たらないせいか、薔薇の花も殆どが固い蕾のままだ。
誰にも見向きもされず、咲き誇る事さえない茨の棘が自分に向けられた悪意と重なって見え、ルイ―セは堪えきれずにポロポロと大粒の涙を零した。
(ルイ―セは要らない子?カールは大切な子?…カールが苦しむのはルイ―セのせいなの…?)
ずっと、愛されていると信じていた自分の世界が、音を立てて崩れ去って行くのをルイ―セは痛い程感じていた。
(こんな怖いのは夢だ…きっと目が覚めたらお母様が優しく抱きしめてくれるはず…)
風が吹き抜けるたび、日陰で震えるルイ―セの体も心も冷たくなっていく。
――私はその場で蹲ると、声を殺したまま泣きじゃくったのだった。
「カールっ⁈ …大丈夫なのかっ⁈ ねぇ…目を開けてくれよっ…‼」
ユサユサと体を揺すり起こされて、ボンヤリと眼を開けると心配そうな顔をしたルイスと、見慣れた部屋の天井が見えた。
ベッド脇に置かれたランプの灯りが部屋を淡く照らしているが、どうやらまだ夜中のようで辺りはシンと静まり返っている。
(…さっきのは…夢、だったんだ…)
此処は寄宿舎の自分の部屋だと、そして眠っていたところを起こされたのだと、私は漸く回り始めた頭で理解した。
「ああ…良かった。カールが魘されているみたいだったから、具合が悪いのかと心配したよ。涙まで零すなんて…余程怖い夢でも見たのかい?」
漸く目を開けた私に安堵した様子で、ルイスは髪を撫でてくれる。
「ちょっと…嫌な夢を見て魘されちゃったみたいだ。こんな夜中に心配させて、私こそごめんね?」
気が付けば濡れていた冷たい頬を袖で拭うと、私を引き寄せて優しく抱きしめてくれる兄の温もりが嬉しい。
「もう大丈夫?…もし怖くて眠れないようなら、私が昔みたいにぎゅっ‼てしながら一緒に寝てあげようか?」
小さい頃、怖い夢を見るたびにルイスのベッドへ潜り込んでは一緒に寝て貰った事を思い出すと漸く気持ちが解れるのを感じた。
――ああ…兄にとって、私は要らない子では無いのだ…。
「フフフ…もう子供じゃないのよ?ルイスのおかげで悪い夢は何処かに行ったから、今度は楽しい夢が見られそうだわ」
「無理していない?昔はあんなに“お兄様大好きっ”てベッドに潜り込んできていたのになぁ。あーあ、なんだか寂しい気がするよ」
「もう‼私だって既に社交デビュタントした、大人なんですからね‼いつまでもお兄様に甘えてばかりいられないわ」
「残念、振られちゃった。それじゃあ今度こそいい夢を」
クスクス笑いながら頬に口づけを落とすと、ルイスは自分のベッドへ戻っていった。
「…ありがとうルイス…おやすみなさい、いい夢を」
部屋の明かりを落とすと、一気に暗闇と静寂が戻ってくる。――身じろぎもせず、暗闇に包まれていると、ルイスの規則正しい呼吸音が聞こえて、漸く深く息をすることが出来た。
(――あの夢は、悪夢ではなく、現実に体験したことで…あの日私は薔薇園の片隅で孤独に泣いた後…一体どうやって帰ったのかしら…?)
あの幼かった私が“忌み子”と罵られた出来事は、間違いなく現実に起きたことだ。
豪奢なドレスを身に纏っていた貴婦人に“ロイヤルガーデン”で罵倒されて、お母様に拒絶された私は庭園の隅で一人ぼっちで泣いて――でもそこからの記憶が全く無い。
(一人で帰れるはずも無いし、誰かが探しに来てくれた…?でも、そこから先だけ、全く覚えていないなんて事があり得るの…?)
いくら幼子の記憶力だといっても、これだけスッポリと抜け落ちていることに違和感を覚える。
あの後、私は気が付くと日常に戻っていて――暫くすると、私とルイスはティーセル領で、二人で暮らすように両親から告げられたことも思い出した。
そう言えば、私がルイスと同じ服装をするようになったのもこの辺りだったかもしれない。
ドレスにも興味が無くなり、常にルイスと寸分たがわぬ格好をしたいと泣き喚いたそうだ。
(両親にも『無理に着飾る必要は無い』と言われて、当たり前のようにそれに従っていたけれど…あれは、私には“ドレスで着飾る価値さえ無い”から、いつでもルイスの身代わりとして役立てるようにという意味だったのかしら…?)
遅まきながら、その真意に気が付くと、ボンヤリと感じていた違和感に説明がつくような気がした。
――私は忌み子だから、両親から疎まれていたのだという事実に。
お母様があの時、高位貴族相手に言い返せなかった事情も、大人になった今ならば理解できる。
身分が低い者が高位貴族に楯突くことは、社交界で嫌がらせを受ける可能性や、貴族としての立場を守る上でも愚かな事だからだ。
黙って相手の気が済むまでジッと耐えていれば済むことを、私達のような下級貴族は嫌だという程に知っている。
だからお母様が取った行動は、自分たちの立場を守る為の行動としては正しい選択だったことも。
――それでも『貴方の事を愛しているわ』と両親から抱きしめられたいと願う事は罪なのだろうか。
“忌み子”で“身代わり”にしかなれない“不完全な魂”の【私】
一度思い出してしまった記憶は、何も知らなかった頃には戻れない。
今はただ、幼かった自分の傷を癒そうとするように自分自身をギュッと抱きしめながら、声を殺して泣くことしか出来なかった。
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