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第一章

能ある鷹は爪を隠す《ジェラルド side》②

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「悪いけど、ここで少し待っていてくれ。出来るだけ、早く戻ってくるから」

 そう言うが早いか、青年は侍女を連れてどこかに行ってしまう。
あっという間に見えなくなった背中を前に、僕も席を立った。
ティーカップを手に持ったまま花壇に近づき、中身を掛ける。

「さてと────動くとしたら、今しかないな」

 空になったティーカップをテーブルの上に戻し、僕は周囲を見回した。
誰も居ないことをしっかり確認してから、ガゼボを離れる。
が、直ぐに誰か追い掛けてきた。
恐らく、あの男の手下だろう。
『ノーマークにするつもりはないってことか』と分析しつつ、僕は魔法を使う。

 僕はまだか弱い第二皇子のままで居ないといけないから、直接攻撃するのはダメだ。
とにかく姿をくらませて、あちらが見失ったことにするしかない。
非常に面倒臭い手だが、魔法を使えることはまだ内緒にしておきたいからしょうがない。

 『能ある鷹は爪を隠すものだ』と自制しながら、僕は日の光を反射させた。
と同時に、遠くの茂みをわざと風で揺らす。
これで相手の気を逸らせた筈。
僕は『ジェラルド殿下!』と叫ぶ騎士を一瞥し、中庭から飛び出した。
戻ってきた時の言い訳を考えながら、城壁に到着する。

 確か、この辺りに……あった。

 胸辺りまである草を掻き分け、僕は抜け穴に頭を突っ込んだ。
しっかりと周囲の状況を確認し、急いで外に出る。
あとは公爵家へ行くための足を確保出来たら、上々なのだが……。

「まあ、そう都合よく馬車が通り掛かる訳ないか。仕方ない────魔法で飛んでいこう」

 人目につかないルートを脳内で思い浮かべつつ、僕はふわりと宙に浮いた。
と言っても、数センチ程度だが。
『ここだと、まだ目立つからな』と思案する中、僕はバレンシュタイン公爵家のある方向を見つめる。

 ベアトリス・レーツェル・バレンシュタイン……僕の踏み台であり、命綱。
待っていてくれ、必ず君を手に入れるから。

 過保護なほど公爵に守られた小鳥を思い浮かべ、僕は目的地へ向かい────公爵家の門を叩いた。
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