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第二章

魔法薬①

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◇◆◇◆

 ────各々ジェラルドの過去に思いを馳せながら、眠った翌日。
私はルカの宣言通り、朝食の席で父から研究資料を託された。
全文エルフ語で書かれたソレを前に、私は苦笑を漏らす。

「えっと、確かに拝受いたしました。バハルやベラーノの力を借りて、あちらに渡しておきますね」

 椅子の足元で丸くなるキツネとトラを見下ろし、私は『お任せください』と述べた。
すると、父はどこか申し訳なさそうな様子で膝の上に載せた私を見る。

「ああ。悪いな、こんなことを頼んで。エルフとコンタクトを取れそうな存在が、精霊くらいしか思いつかなかったんだ」

「い、いえ……」

 罪悪感でいっぱいになりながら、私はソロリと視線を逸らした。
というのも、実際はルカ経由でタビアの元へ届けるため。
つまり、バハルとベラーノ精霊はカモフラージュ。
そして、そのカモフラージュとして利用させてもらっている彼らにも嘘をついていて……グランツ殿下を介して、タビアに渡すと言ってある。
『逆行前の繋がりを公爵様お父様に悟られないため』とか、なんとか言って。

 正直親しい人達に嘘をつくのは心が痛むけど、ルカの特性を考えると無闇に情報公開は出来ない……。
だから、ここは徹底的に隠さないと。

 などと考えていると、グランツ殿下がおもむろに目を揉む。

「とりあえず、研究資料の解析はこれでいいとして……次の課題は────父上の説得か」

 『これが一番の難問だなぁ……』と嘆きながら、グランツ殿下は僅かに表情を曇らせた。

「ルーナ皇妃殿下の日記の内容が事実なら、父上にとってジェラルドは好きな人との子供ということになる。それだけでも特別視するには充分な理由だが、更にジェラルドに対して負い目を感じている……生まれてから皇城へ来るまでの五年間、要らぬ苦労を掛けてきた訳だからね」

 『庇うのは目に見えている』と嘆息し、グランツ殿下は天井を仰ぎ見る。
寝不足もあってボーッとしている彼を前に、ユリウスは侍女からグラスを二つ受け取った。
緑色の液体が入ったソレを、グランツ殿下に一つ手渡し、明るく笑う。

「きっと、大丈夫ですよ。昨日あれだけ話し合って対策を考えたんですから、気楽に行きましょう」
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