悪役令嬢は魔王様の花嫁希望

Dizzy

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第四章 アダルトに突入です

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 『レナ』の登場に、周囲はざわめく。
 『レナ』は、一つ一つのテーブルで立ち止まり、客に笑顔を振り撒きながら挨拶して歩いていたが、俺たちのテーブルの前に立つとその笑顔を凍てつかせて硬直した。

「キミがレナちゃん? 噂通り可愛いねぇ」

 エルが、変装したアリスに下心満載の笑顔で話しかける。
 どうやらエルは、茶髪のカツラに丸い黒縁眼鏡をかけた『レナ』が、アリスだということに気付いていないようだ。

「は、は、はじめまして…………レ、レナです……」
「『はじめまして』? ここでは『おかえりなさい』って言うのが通例じゃねえのかよ?」

 俺の冷ややかな言葉に、アリスはビクリと身体を強ばらせた。そして眼鏡の縁に手をやって俯き、こちらをチラチラと伺う。

 ……バレてないとでも思ってんのか? こっちはひと目で気付いてんだが。

 俺は態と低い声で脅す様に言い放ってやった。

「おい、こんなトコで何やってやがんだ? 
「ひぃぃぃ! バ、バレたぁーー!」

 アリスは慌てふためきながら、動揺した顔を両手で隠した。
 俺の言葉にエルも目を丸くする。そうして、メイド姿のアリスをまじまじと見つめた。

「ほ、ほんとだ! アリスだ!」
「エル様! リドも、どうしてここに!?」
「てめぇ、なんつー格好してんだ。……アルが知ったら卒倒する程喜ぶんじゃねぇか?」
「嫌ぁーー! アルフレッドにだけは言わないでぇ!」

 ちらりと剥き出しの脚に視線を遣ると、アリスは急に恥ずかしそうに脚の方を両手で隠した。

「リド。あ、あんまり見ないで……ッ」

 そう言ってアリスは照れたように俯く。普段あんまり見られない、恥ずかしそうに頬を染めたアリスの顔に、俺は嗜虐心を擽られた。
 アルに言うわけねえだろ。ここにいる奴ら全員してやりたいくらいだっていうのに。

 ……大概だな、俺も。

「……リドじゃねえだろ? “ご主人様”だろ? 
「うっ…………」
「早く注文とってくれよ。使さん」
「うう……メ、メニューはお決まりですか?」

 アリスは恥ずかしいのか、涙目で顔が尋常じゃねえ程真っ赤だ。

 コイツ……すげぇ可愛い過ぎる……。

 アリスの恥ずかしそうな顔を見ていると、背中にゾクゾクとした痺れが走った。下半身がずくんと重くなり微かな熱が燻る。“もっと泣かせたい”とか……俺は餓鬼か。

 他のテーブルから「レナちゃん」とお呼びがかかり、アリスはハッと我に返ったようにそちらを振り向いた。

「あ、あとでちゃんと説明するから……今はちょっとごめん」

 慌てて職務に戻るアリスの背中を視線だけで追う。他の客に奉仕する姿を見せつけられると、どうしようもなく不快な気持ちに苛まされた。

 ……クソが。見知らぬ男にベタベタ触らせてんじゃねえよ。

「リディア、キミ今すっごく怖い顔してるよ。嫉妬心丸出しの」

 俺の横顔を見つめていたエルが、大きな溜め息を吐いて呟いた。

「あ? 嫉妬?」

 嫉妬……だと?
 こいつは何言ってやがんだ。
 俺は今まで女に対して、それぐらいのことで嫉妬なんかしたことねぇ。他の男に少し触られたぐらいで嫉妬するなんて、どんだけ心が狭いんだよ。
 そんな俺の心情を見透かしたように、エルは言葉を続ける。

「“心外だー”みたいな顔してるけど、今のキミはまさに“独占欲剥き出しの男”そのものだからね」
「はあ!? 俺のどこが……ッ!」
「アリスが俺と居る時もたまにその顔俺に向けてるからね。自覚しようね」
「な……ッ!?」

 ……俺は今、どんな顔してる?
 ……アリスに近付く男達を見ると覚える、この胸糞わりい、ムカムカするようなイライラするような感情が……“嫉妬”!? これが“独占欲”だっつーのか?

「何でキミが時々そんな風になるのか、やっとわかったよ。リディアの手の早さ知ってるから、まさかアリスが手付かずなんて思わないじゃん」
「……何が言いたい」
「つまりさ、そんな風にヤキモキするならさー、早くアリスのこと抱いてちゃんと自分のモノにしときなよって言ってんの」
「ああッ!?」

 エルがさも面白そうに口角を上げて呟いた。

「俺ならそうするけどなー。逃げ道も何もかも塞いで、自分に夢中にさせれば少しは不安も減るでしょ。早くしないと、誰かに取られちゃうかもよ」
「ーーーーッ!?」

 不安!? 俺が!?

「…………取られるも何も、アリスと俺はそんな簡単な関係じゃねえんだよ……ックソ」

 告白は……された。だから何となくアリスは、“俺のモノだ”って勝手に思っちまってたとこはあるかもしれねえ。それが“独占欲”だと!?
 ……はぁ。コイツは本当にすぐ図星を突いてきやがる。

「お前な……俺のこと見過ぎだろ。気持ちわりい。俺より俺のコトわかってんじゃねえよ」
「俺、友達、キミとアリスしか居ないからね。深ぁ~く愛しちゃってんのさ」
「投げキスするな。気持ちわりい」

 投げられたキスを片手で払い除ける仕草で返した。
 客観的に自分を分析されても、不思議と嫌な気分にはならなかった。それどころか、ストン……と腑に落ちた感じだ。自分の感情を持て余して鬱々としていたのが、急に目の前が開けた。

 ……そうか。俺はアリスの周りに居る男達に嫉妬していたのか。“自分のモノ”を取られた気になって。
 そういうことか。
 俺はアリスが……かなり好きなんだな。些細なことでも嫉妬する程に。これが“独占欲”か……。

 そう、新たな気持ちでアリスを見る。
 そうすると、前にも増して気になってくるのは、スカートの丈の長さだ。
 アリスの奴なんて格好だよ。ミニスカートとやらから覗かせるレースとたおやかな脚は、男の欲望を煽る。今すぐ裸にひん剥いて、その奥を暴きたくなる。
 つまり、ここに居る全ての男が、アリスにそういう想いを抱いてるっつーことだろ!?

 『アリスが好きだ!』と、独占欲剥き出しであることを自覚した途端、苛つきが更に増した。
 ギリギリと歯軋りしていると、カフェの一角の小さな舞台のようになっている所にさっきの受付けの女が立ち、“ジャンケン大会”なるものが始まった。
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