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第二章.家族になろうよ

33.閑話、ジョエル視点

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 シャルルの体調が良さそうだったので、母に買い物の同行を依頼した。母は、上機嫌で承諾してくれたが、あまりにも喜んでいるのが、ちょっと心配になった。きちんと金を前払いしたのに、父と兄たちからも軍資金を巻き上げてきたらしい。買い物は、一日で終わるだろうか。 
「素敵だわ。娘に洋服を選ぶのが、夢だったのよ!」 
と、次々店を回る。当初は荷物持ちをするつもりでいたが、一軒目で諦めた。そんな荷物を抱えて街中を歩いていたら、目立つだけだ。家まで配達を頼んだ。
 母に依頼したのは、下着だ。ついて行く訳にはいかないと、店の前で待っていたが、中に入った方が良かったかもしれない。止める人間が不在で、シャルルがどんどん消耗している。見かねて、途中で止めた。
「そうね。娘なんだもの。息子ほどの強度はないわよね。壊れ物だと思って、大切にしないといけないのね!」 
と、元娘のハズの母さんは、瞳を輝かせて帰宅を了承してくれた。


 午後はお茶会だと、2人分のスーツを渡された。仮装かと思えるようなとんでもスーツだ。わたしの分だけでなく、キーリーの分までフルコーディネートされている。男装命令が出る日が来るとは思わなかった。絶対面白がっている。 
 着替えて行くと、母とシャルルは既にお茶会を始めていた。予想通り、シャルルはドレス姿だった。シャルルが着ていたのは、緑のプリンセスラインのドレスだ。ふわふわとしたレースが可愛く、とても似合っている。流石、母だと思ったが、注目すべき点はそこではない。
 ふわふわ可愛いだけで充分だったのに、オフショルダーで、肩が全開だ。下着を見繕ってきて欲しいと頼んだのを裏読みしたのだろうか、可愛い系でいて胸が強調されていた。 
 シャルルは、華奢な女の子だ。妖精を思わせるスレンダーな体型だったハズだ。なのに、どうしてああなった? 物理法則的に、おかしい物がそこにあった。
 タケルが、
「まえは、なかった。たべて、ふとって、ああなった」
 と言った。間違いなく、わたしたちの所為だった。 
「あの顔に、巨乳属性が付くなんて、悪夢だ」
   キーリーは、白目をむいている。まったく同感だ。
「こんなことになるなら、洗濯板のまま放置しておけば良かった」 
 2人で、心ゆくまで後悔した。だが、シャルルの食事量を減らすという選択肢はない。食べている時が、1番幸せそうにしているからだ。 

「そうだ! 折角、正装したし、2人にプレゼントがあります!!」
 唐突に、シャルルがこちらに向かって歩いてきた。そういえば、そんな話もあったなぁ、と思い出すが、近寄ってきていい服装だとは思えない。目を逸らさないといけない!  
「ジョエルがイヤーカフで、キーリーがペンダント。私のは指輪。みんなでお揃いだよ」
 耳にかけると外耳が針金状の花々で覆われ、揺れる石が付いている。キーリーのペンダントも花柄だった。男に送る物として、どうだろう? シャルルには問題なく似合っている。自分基準なのだろうか。だが、デザインがどうこうと言うよりも。 
「「指輪!」」
   お揃いならば、同じ指輪が欲しかった。イヤーカフも嬉しいし、何より大事にするが、お揃いの指輪の魔力には勝てない。
 サイズがわからなかった、というもっともな問題を指摘されたので、何よりも素早く手を差し出した。お揃いが手に入るなら、切って渡してもいいくらいだ。完成品をつけられなくなるから、切り取らないが! 


 シャルルにすっかり魅了された両親は、変な手紙を送りつけてくるのは辞めてくれるそうなので、帰ることにした。シャルルは置いて行けと言われたが、断固として断る。たまには連れて帰ることを約束して、許してもらった。 
「次は、シャルルちゃんと2人で帰って来れるといいわね」
   妹と思って可愛がっていたシャルルだが、今は妹ではない位置にいる。念の為に言うが、娘でもない。 
「やっぱりバレたか」 
「母親ですもの」
 母は、姉か妹のような容姿のままだが、やはり母だった。 
「頑張るよ」
 女装以外を期待されたのは、初めてだ。少し照れ臭い。  
「シャルルに期待しなくても、そろそろ兄貴たちが1人くらい連れてくるだろう」
   1番上は、30近い。そんな年まで独身なんて、兄貴くらいしか知らない。普通は大体、周りの説得でなんとなく誰かと結婚させられる。生まれた時点で、老人会の中では結婚相手が決まるらしい。自分で相手を見繕えば逃げられるが、そこそこの年齢をすぎると、年寄り総出の泣き落としで責められるシステムだ。わたしは、引越したので関係ないが。
「そうね。ちょっと前までは、私もそう思っていたけれど、もう無理じゃないかしら?」 
 母は、困り顔で首を傾げた。
「兄貴、恋人いたよね?」
 何故だろう。冷や汗が止まらない。
「私にとっては、5人全員、平等に可愛い息子たちなのよ? だからね、誰がシャルルちゃんを連れ帰って来ても、構わないと思ってるわ」 
 やっぱり、それか! 
「絶対、止めて。無職男は、いらないから」
「そうね。しばらくは、止めておくわ。だから、頑張ってね。キーリー君に負けたら、許さないわよ」
「誠心誠意、努力致します」
 シャルル相手なんて、何をどうしたらいいか、まったく心当たりがないけれど。


 村に帰ると、髪を黒くする染料が開発されていた。皆で黒くなって、シャルルを隠すそうだ。賛同して、そのプロジェクトに参加することにした。  
 あっという間に、髪が黒くなった。男も黒髪はステータスだ。シャルルが、わたしを見て惚れればいい!
 そう思ったのだけど、よく考えたら全員黒髪なのだから、あまりインパクトはない。失敗だった。1人だけ金髪のままの方が良かったに違いない。
「黒髪の美形なんて最悪だ」 
と言われて、悲しくなった。自分のことは、棚上げか。そうだ、シャルルは、そういう子だった。早く金髪に戻るといいな。
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