文字の大きさ
大
中
小
12 / 52
第四章 冥王、王子をやっと見つける?
2
「ここにある宝石はどれも素晴らしいものばかりです。その重要な商談用というのは、相当に綺麗な石なのでしょうね」
「そうです。何しろ『暁の雫』という異名をもつほどの石ですから」
「『あかつきの、しずく』か……美しい名ですね。あかつきというからには、黄色や赤系の石なのですか?」
「ええ、そうです。正確にはオレンジ・サファイアに属します。でも、ただのオレンジではありません。イエローサファイアとオレンジサファイアの中間に位置する、発色の特によいものを、ゴールデンサファイアと呼ぶのですが、それはその中でも特に大きな結晶で、大人の手の平でやっと包み込めるほどの大きさがあるんですよ」
饒舌に語ってしまったあとで、アシールはナシェルの興味深そうな眼差しに苦笑した。
「ますます興味を持たせてしまったようですね。仕方ない、お見せしましょう……こちらの奥に保管してあります」
男に誘われるままに続き部屋(おそらく寝室)に入っていくナシェルは、貞操の用心などどこへやら、すっかり脳内は皮算用に勤しんでいるのであった。
***
「これは……凄い、」
『暁の雫』は大人の両掌でようやく包み込めるほどの大きさを持つ、稀少なゴールデンサファイアの結晶だった。
下手をすると小国の年間国家予算を軽々超えるぐらいの価値はあるかもしれない。
ガラスのケース越しに暁の雫を見つめるナシェルを、アシールは横から惚れ惚れと眺めている。
「身につけてみたいとは思われませんか?」
「私には似合いませんよ」
「付けてみなければ分からないでしょう。ケースからお出ししますよ。……狭くて申し訳ない、そこへ座って待っていて」
ナシェルをベッドに座らせると、アシールは手袋を嵌めた手で「暁の雫」を慎重に取り上げ、ナシェルの耳元に近付けた。
「ほら……貴方の美しい肌に、とてもよく似合います」
そうして胸元に落ちかかる黒髪を一筋つまんで、肩の後ろへさらりと流した。
無防備になった鎖骨のあたりに宝石をかざしてみせながら、アシールは情熱的な眼差しでナシェルを見つめた。
「屈折光が肌に映えますね。まるで、この石も貴方のものになりたがっているようです」
「御冗談を。これは商談用の品物でしょう? それとも、商談成立より先に、私に売りつけようとしておられる?」
「とんでもない。あまりに貴方にお似合いなので、思わず貢いでしまいそうになっただけですよ」
アシールは笑って「暁の雫」をケースの中へ仕舞い込んだ。
(ふむ……さすがに無条件で貢ぎはせぬか……)
どうにかして手に入れたいものだが……。
「貴重なものを見せていただき、楽しかった」
ナシェルは立ちあがった。
その瞬間、猛烈な『嫌な予感』に襲われ、立ちくらみを起こす。
ふらついたナシェルをアシールが手を伸ばして、支えた。
「大丈夫ですか? 船酔いを起こされたのなら、ここで休んでいくといい」
「いえ、大丈夫……」
さっきの気配は一体なんだろう、ものすごく心臓に悪い予感がする……と訝しみつつも、アシールの下心に満ちた好意を謝辞して、ひとまず彼のVIP船室を出――ようとした。
感想 0
あなたにおすすめの小説
【BL】記憶喪失中に「男の婚約者なんて気持ち悪い」と僕を蔑んだ元婚約者へ。お望み通り消えてあげましたので、今更記憶が戻ったと泣きつかれても
記憶を失った婚約者・アルヴィンから向けられたのは、見知らぬ他人を見るような冷たい視線と容赦ない罵倒の日々だった。
それでも「記憶が戻れば、あの優しい彼に戻るはず」と耐え続けたニコラス。
しかし、アルヴィンがみんなの前でニコラスの手紙を破りながら嘲笑した時、ついに限界を迎える。
「僕が愛したアルヴィンは、あの日死んだんだ」
誰も信じられなくなったニコラスは隣国へ留学することになった。
留学先で過去を乗り越え、新しい幸福を掴んだニコラス。
そこへ「記憶が戻った」と涙を流すアルヴィンが現れるが、すでにニコラスの心には少しの情も残ってなくて―――……。
【BL】惚れた男に嫌われたくなくて「男遊びならしてもいい」と言ったら、本当に男遊びを始められて絶望している侯爵令息の話
多額の借金で没落寸前の実家を救うため、結婚相手を探していた男爵令息のラキにカムグロス侯爵家から求婚状が届く。
お相手は同性のディートリヒで、初対面で歓迎されるどころか冷たく突き放されてしまう。
『必要最低限関わるな』
『愛人を作るな』
『男遊びならしてもいい』
ディートリヒから実家の借金を完済する条件を言われたラキは、学園で令息たちとの交流を満喫中。
褒め上手なラキの周りには可愛い令息が集まり、推し活状態に。
一方、ディートリヒだけが嫉妬で胃を痛める日々。
ラキへの恋心を隠し続けた不器用侯爵令息に、幸せな未来は訪れるのか?
.
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『嘘の病気で同情を買うな』と私を死に追いやった婚約者、私の墓標の前で額を叩きつけ、血の涙を流して号泣する大破滅!
婚姻届を出す前日、久世景人はようやく、十年遅れの婚約指輪を私の指にはめた。
銀色の輪が薬指に滑り込んだ瞬間、私は照明の下で光るダイヤをぼんやり見つめた。長く続いた待ち時間が、やっと終わったような気がした。けれど次の瞬間、彼は私の手を見下ろし、まるで似合わない品物を評するように静かな声で言った。
「正直、澪の手ってあまりきれいじゃないよな」
私は言葉を失った。
景人はそのまま私の指先を取ると、さっきはめたばかりの指輪を抜き取った。十年待ち続けた指輪は、彼の手のひらの上で冷たく光っていた。
「この指輪、瑠奈の手にあったほうが似合うと思う」
私は手を引き戻し、信じられない思いで彼を見た。
「どういう意味? 瑠奈と結婚するつもりなの?」
景人は目を伏せ、指輪の縁を指先でなぞった。まるで、たいしたことではない問いを少し考えているだけのようだった。
「そこまでじゃない。ただ、会えない時間が長くなると、どうしても瑠奈のことを考えるんだ」
その瞬間、私は自分がどうやってあのタワーマンションを出たのかさえ覚えていない。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。