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第五章 ナシェル、冥王と鉢合わせややこしくなる
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「むろん置いておけばよかったんだ路上だろうと路地裏だろうと! 見つかると面倒なことになるからわざわざ念入りに神司を消していたんだぞ。私が見つからなければあきらめて冥界に帰っただろうに。……なぜ事態をこれ以上ややこしくする!?」
「いや絶対お前を見つけるまであきらめて帰ったりしねぇと思う。てか、お前が知らねえ金髪の男にさっそく色目使ってたのも、事態がややこしくなってる一因だろが! いやむしろそっちのが最大の要因……」
「私が引っかけたんじゃない。あの男が色目を使ってきたんだ。――ヴァニオン、何のために私がただの人間の男なんぞの白々しいナンパに付いて行ったと思っている? 元はといえば……」
「あーハイハイ、元はと言えば全部おれが悪うございました」
「で、その荷物はなんだ。本当に船を降りるつもりか?」
「そうじゃなくて、陛下にこのVIP船室を追いだされたから、今晩から三等客室で寝るんだよ……」
「ふうん」
「ふうんって、ナシェルてめぇ他人事みてぇに……」
「他人事だからな。今晩からは三等だろうと甲板だろうと好きな所で寝るがいい」
「何が『寝るがいい』だよヒデェな! おれみたいなぬくぬくした貴族育ちが甲板なんかで寝たらカゼひいちゃうよ?」
「それもこれも私の指輪を質に入れてカジノで大損した罰だ」
そこへ背後から、しびれを切らしたらしい冥王がぬっと顔を出す。
「……話はまだ終わらぬのか?」
「あっハイ、もう終わりました、もうすっかり。終了」
ナシェルは乳兄弟との会話を打ち切り、後ろ手に船室の扉を閉める。
二人きりになるや否や、冥王がいきなり覆い被さってきた。
「久しぶりだな、愛しい子、今宵は存分に愛し合おうぞ。腰が溶けるほど神司を注いでやる、覚悟は良いな?」
「あっ……ん♡」
されるがままに熱い口づけを受け入れていると、ドンドンと背後の扉を叩く音がして、
「用があったら精霊とか遣って呼んでくれよ。じゃないと、なんか起こっても下の階じゃ把握できないからな俺。なぁ、分かった? ナシェル聞いてんのか?」
「分かったから……さっさと行け」
ナシェルは冥王の口のなかから舌をひっこぬき、扉の外へ向かって言い放つ。ヴァニオンはその口調に色香を感じ取ったのか、
「よろしくやってろ(このスケベ親子)!」
と呆れ気味に足音高く去って行った。
冥王は薄く笑み、さあどうする?…と問いかけるようにナシェルの頬を撫でる。ナシェルは一瞬、誘われるがまましけこむことへの抵抗感から複雑な表情で王を仰いだ。が、
「ま、細かいことは良いか……」
他のどんな幸福も、この渇望には代えられぬ。
と気持ちを改め(結局のところは、見えないシッポを千切れんばかりにふりふりしつつ)、王の首にみずから腕を絡めにかかるのだった。
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