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第六章 乳兄弟、さらなる事態に頭を抱える、父子は…♡
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さて、三等船室へとやってきたヴァニオン卿は、自分が寝ることになるベッドのあまりの不潔さと狭さにおののいていた。断っておくが彼は格段、潔癖症というわけではない。
船室に入ったとたんネズミが群れで横切っていき、ベッドの下の隙間に入っていったのだ。全体的に臭い。荷物を置くことさえ何だか躊躇われるぐらい、床が何かでベトベトしている。
こんな空間で次の寄港地まで過ごしたら、とにかく何か病気にかかりそうだ。これはもう、朝晩の冷え込みを差し引いても、さっきのナシェルの言い草ではないが甲板で寝た方がまだマシかもしれない。
相部屋と聞いていたとおり、ベッドは狭い通路を挟んで二つあった。
もうひとつのベッドの上では、薄汚れた掛け布団にくるまれた物体が微動だにしない。
(荷物? それとも人間? 動かないのは寝ているだけか? それとも死んで……)
おそるおそる、悪臭を発する掛け布団をつまんで持ち上げてみた。一気にめくるほどの度胸はない。
布団の下に居たのは少年だった。猫のように丸まって、眠り込んでいる様子。
(うお、先客が居たか。それにしてもこんなトコでよく爆睡できるな)
十代半ばぐらいだろうか?
浅黒い肌と、明るい色の髪に、なぜか見覚えがあった。
――と、ヴァニオンは布団の端を持ち上げたまま、硬直した。
(こいつ、俺の財布ぬすんだガキじゃねえかよ……!?)
盗んだ金でこの船の切符を買い、もぐりこんだのだろうか。
どうりで、繁華街と路地裏をいくら探しても見つからなかったわけだ。
「おい、起きやがれこのくそがき! ここで会ったが百年目!」
蹴起こされた少年は目を白黒させ、寝ぼけた眼差しでヴァニオンを見上げた。
「よくも俺様の財布を盗んでくれたな」
途端、表情を一変させた少年は、脱兎の如く船室を逃げ出そうとする。
さすがに、ここまで来てみすみす逃がすヴァニオンではない。
首根っこをがっしり捕らえ、宙づりにした。
「――俺のカネ、返せ!」
より正確を期するならば「財布だけ俺ので、おカネは冥王様の」ということになるのだが語呂も悪いので省略して叫ぶ。
すると褐色の肌の少年は悪びれもせず弁明した。
「お――お兄さんごめん、ボク持ってないんだ」
「―――はぁあああ!?」
ぬすんだ金を、持ってないだと? たった1日の間に使っちまったっていうのか?
「……いやいやいやいや、嘘こけって! どう考えてもあんな大金、ガキが1日で使い果たすのは無理だろ!」
なおも少年の胸ぐらをつかみ上げる。しかし部屋の状況やら少年の服装やらを鑑みるに、もしや本当に持っていないのかもしれないという不安が胸中をよぎり始めた。出航時ほぼ満床であったため3等客室を選んだのは仕方ないにしても、もし金があるなら船員に賄賂を渡してでももう少し、まともな寝具を確保するものだろう。
『俺、もしかして 完 全 終 了 』の予感にうち震え大量の脇汗をかきながら、ヴァニオンはひとまず少年を床に下ろした。
「と、とりあえず落ち着こう(俺が)。ちゃんと分かるように説明してみろってんだ」
少年は、締められかけた首根っこを痛そうにさすりさすり、口を開いた。
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