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第九章 ナシェル、人情にほだされる
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「……オイラも、あんたたちから旅費のお財布盗んだことは謝ります。アシールは組織の幹部で上納金を受け取る立場だったけど、大ボスみたいに暴力は振るわなかったし、アシールのおかげでオイラみたいな孤児たちがたくさん命を救われてきたんです」
「アシールとやら。なぜそなたは身寄りのない子供たちを助けていたのだ? 人集めのためか」
冥王が訊ねた。
「……実は私も、かつてはこのラミたちと同様に孤児でした。数年前にあの港町に流れ着き、窃盗団に所属するまでにも、西の大陸各地で人を騙したり物盗りをしたりと、いろんな犯罪に手を染めながら生きてきました。ラミぐらいの子供のときには、ウリをやっていたこともあります。
……この子たちには、私のように自分の体を犠牲にしなくても稼げるようになってほしい、不幸な境遇でも生き延びて欲しいと思っていましたが、私に教えられるのは窃盗の技術ぐらいですので……そういうものを教えていたんです……。港の一団を足抜けしたのはボスと揉めたのが原因です。命を狙われる危険があったのでやむなく、失踪同然に姿を消し、変装してこの船に乗ったのです。無事に出航を迎えて気が大きくなってしまって、つい商売柄ナシェルさんに声を……。本当に申し訳ないことをしました……」
「『商売柄つい声かけた』って、もう息吸うように人ダマしてるってことだろそれェ……」
ヴァニオンが横で突っ込んでいる。たしかにそうなのだが、彼らの生い立ちには一抹の同情の念も湧いてくる。そもそもナンパと分かっていてノッたのも自分のほうだしな……、とナシェルは、こめかみを伝う汗を感じつつ目を閉じた。
「もう悪いことはしませんから、どうかオイラたちにやり直すチャンスをください!」
年端もゆかぬ少年に土下座され、このように不遇な身の上を打ち明けられて、さすがのナシェルも怒りの持っていき場がなくなってきた。アシールが孤児たちにとって救世主だったのと、自分が媚薬を盛られたのは全くの別件なのだが……。もうこれは『この少年に免じて、』と行かねばならないのか。
ナシェルは腕組みしたまま溜息を吐き出した。
「……分かった、もういい。このラミとやらに免じて、貴様の命だけは助けてやる」
アシールとラミはよかったよかったと抱擁しあい、また深々と頭を下げる。
媚薬を飲まされた自分だけが貧乏くじを引いたようで、なんとなく納得がいかぬが、チラと父に視線をやれば父も自分をふっと見、肩をわずかに竦めるようにして応えた。
『ま、そうだね、未遂だったわけだしここは許してあげるが良いよ。…この二人、いいコンビではないか』と王の紅の瞳は物語り、苦虫を噛んだようなナシェルの心境もこころえたように、口の端を小さく持ち上げてみせる。
ええ、分かっております。私が寛大さを見せたことが意外かつ喜ばしいのでしょう? 私自身も不思議です、この少年が出てくるまでは毛頭許すつもりなどなかったのに――。ナシェルは王の含むような目線に胸中で応じつつ、抱き合う二人を見つめていた。
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