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第十一章 ナシェル、天敵と遭遇す
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アドリスは背を向けて精霊を操っている。冥王の登場には気づいていないようだ。(ナシェルと冥王の気配はほぼ同じもののため)
光の精霊たちが海上の空に道を作っている。空の彼方から、アドリスよりもさらに大きな神司が急激に迫ってきているのが分かった。
傲然と胸を反らし宙を見上げる冥王の背中に向けて、ナシェルは呼びかけた。
「父上、どうか無用の3Pは避けてくださいますよう」
「分かっておる。そもそもそなたと同世代の若者共など未熟すぎて相手にもならぬわ」
あたり一面が眩しく輝き、やがて光の精霊のつくった道を一頭のひときわ立派な白天馬が駆けてきた。ナシェルは、船室の壁の陰にサッとかくれる。
(本当にごめんなさい父上……)
海風を渦巻かせながら、新たな白天馬が甲板に着地してきた。
その背から降りてきたのは、赤金色の髪を後ろでゆるく束ねた青年神。
剣の神レストルだ。弟アドリスよりもやや日に焼けて体格もがっしりしている。相当鍛えているようだ。白いトーガ風の衣装を着て編み上げの靴を履いている。
アドリスが近づき兄に呼びかけた。
「兄貴ー! この船にあのナシェルがいたんだよ!! ほらあそこ見て。相変わらず生意気な口叩いてくるんだけどさぁ」
こちらを見たレストルは、黒サングラス姿で仁王立ちする冥王をナシェルと勘違いしたのか、不敵な笑みを浮かべながら近づいてきた。
「おい久しぶりだな、元気にしていたか。お前、なぜ地上界なんぞにいるんだ?」
「ふん、そなたらには関係なきこと……」
父が応じるその背後で、ナシェルは壁にはりついて気配を殺しつつ祈る。
(おかしな流れになる前に説教してサッサと追い返すんですよ、分かってますよね……)
「相変わらず態度がでかいな……。まぁ、そうでなければお前らしくないか」
冥王をナシェルと思い込んで近づいてきたレストルは、王の眼前に立ち、思っていたより体格が大きいのでかすかに違和感を覚えたようである。
「なんだ? やけに背が大きくなったな、俺と変わらんじゃないか」
「背は変わっておらぬ」
「俺が怖くないのか? 俺のことを忘れたとは言わせんぞ。前に何があったか覚えてるだろ……」
「太陽神のどら息子であろう? そなたらなど恐るるに足らぬ。前に何があったかだと? 前回の3Pではそなたらをぶちのめしてやった、それしか記憶にないわ」
「3……ぴー??」
レストルは少し赤面しつつ後ろを振り返りアドリスに視線を送った。
「おい本当にナシェルかこいつ? なんか言ってることが変だぞ……」
「ナシェルだよー俺のこと『相変わらずドクズだな』とか言って小馬鹿にしてきたんだぞ、そんな人間が居るかよ?」
レストルは向き直り冥王の黒サングラスに手を伸ばした。
「おいグラサン外せ、態度がデカいぞ異端神のくせに――――」
その瞬間だった。冥王が目に見えない気魄で体の周囲に結界を張った。触れようとしたレストルはバチン!という衝撃とともに後ろへ数メートル弾き飛ばされ、膝をつく。
「な――――!?」
痺れる手首を押さえながらレストルは顔を上げた。
「なんだ……!?」
「兄貴!」
アドリスが駆け寄る。
「な? 生意気だろぉ!? また捕まえて犯っちゃおうぜ」
冥王は船の周りに波が立つほど多大な神司を放出していた。怒りで黒髪が波打っている。
徐々に、穏やかだったはずの朝の海が荒れ始め、空にはモヤモヤとした黒雲が発生しはじめていた。太陽が翳ってきたので、闇の精霊たちがどこからともなく現れ冥王の周りを固めた。
「気安く余の体に触れるでないわ……」
黒髪をユラユラとゆらめかせながら、冥王はドスの効いた声を出す。
「たとえ光の神族だからとて自分らを無条件に高等神だなどと錯覚するでないぞ、この若僧めらが……どちらがより高位にあるか、今ここで思い知らせてやってもよい。二人まとめてかかってくるがよい……余は3Pとて吝かではない……」
船室の陰で聞いていたナシェルは思わずああ~と頭を抱える。
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