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21.クリスマスパーティー
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その日、サラは寮生たちと6人で集まっていた。今日で1学期である秋学期が終了し、明日からクリスマスホリデーに入る。それぞれ実家に帰って過ごしたり、サラのように旅行に出掛けるため、その前にクリスマスパーティーをしようということになったのだ。
大学に入るまでサラは、『ザ・ナイン』の1つである上流社会の子女が通うパブリックスクールに通っていたのだが、もっと色々な世界を見て視野を広げたいと希望し、飛び級して今の大学に入学した。
ヨーロッパではオックスフォード、ケンブリッジに次ぐ大学ランキング3位に入っている世界最高位の理工系名門大学で、そのため世界中から優秀な学生が集まり、全学生の約半分が国外からの留学生となっていて、国際色豊かなことも特徴だ。
サラは周囲から特別視されることを恐れ、自分がクリステンセン財閥の令嬢であることも、叔父が世界的に有名なピアニストのステファンであることも隠していた。サラの大学の友人にもステファンのファンがいるため、もし彼が叔父だと知られたら、大騒ぎになるだろう。
パブリックスクール時代、ハウスと呼ばれる寮に入っていたが、男女別になっており、ハウスマスター(寮常勤の講師)やハウスキャプテン(寮の生徒代表)がいて規律正しい生活を求められていた。
サラの大学はロンドンの中心部にあるためか、寮があちこちに点在し、ひとつの建物がこじんまりとしたアパートのような外観で、入っている人数も少ない。
男女混在となっており、キッチンは同じ階の寮生と共用だが、トイレとシャワーは各部屋に備えられている。寮の管理人や代表生はいるものの、最低限のマナーさえ守っていれば何も言われず、かなり自由だ。規則が厳しいパブリックスクールでの生活が普通だと思っていたサラは、当初はあまりの自由さに戸惑うこともあったが、今ではそれが心地よく感じるようになっていた。
キッチンの横にはリビングルームが設けられており、そこには統一感のないカウチや椅子があちこちに置かれていて、食事をとれるスペースが設けられていた。
部屋の隅には、代々受け継がれている古いクリスマスツリーが飾られている。寮生が年々オーナメントやライトを増やしていくので、ツリーの緑が埋もれていた。その下にはプレゼントが置かれていたが、あまりの量に雪崩を起こしていた。
あちこちに点在していた椅子を寄せて皆で座り、ビール瓶を手に乾杯する。
『メリークリスマス!』
高らかに声が響き、瓶を合わせる。
サラは初めて飲むビールを手に、恐る恐る瓶を傾けた。
苦いっっ……!!
顔を顰めると、隣に座っていたフランス系イギリス人のハリーがサラの顔を覗き込んだ。
「もしかしてサラ、ビール飲むの初めて? 可愛いなぁ」
ハリーはどんな女性に対しても優しく、甘い言葉を掛けるので、勘違いさせてしまうことが多く、常に何人もの女性と関係を持っているのでトラブルが絶えない。パーソナルスペースが近いので、サラは時折どうしていいのか戸惑ってしまう。
「えぇ。18歳になったばかりですし」
サラがそう答えると、向かいに座っていた中国からの移民であるリンダが、慣れた仕草でビールを飲みながら付け加えた。
「サラは私と同じで、飛び級してるもんね」
彼女の中国名はイーランだが、イングリッシュネームも持っているため、ここではリンダという名前で通している。中国語は発音が難しいことと、国際社会を見通して、生まれた時からイングリッシュネームを持つ子供は少なくなく、留学先で自分でイングリッシュネームを作って名乗る者もいる。
リンダは12歳の時に両親と共に英国に移民してきた。子供の将来を考えて家族で外国に移民する中国人は珍しくない。子供は両親の期待を一身に背負っているため、優秀な学生が多く、リンダもそのひとりだった。
彼女はステファンの大ファンで、部屋にはポスターが貼られ、彼の記事が載っている雑誌が詰まれ、常にステファンの演奏が流れている。リンダがステファン愛を語っているのを聞くと、サラは居心地悪い思いになるのだった。
「でも、ビールなんてみーんな、18になる前に飲んでるのにね! 私なんて、エレメンタリースクールの頃から飲んでたわ」
父親がスコットランド人、母親がナミビア人のハーフであるイギリス人のアイーシャが豪快に笑った。浅黒い肌にエキゾチックな顔立ちのアイーシャは白人と黒人の優秀な遺伝子を受け継ぎ、魅力的な容姿からモデルとしても活躍し、SNSのフォロワーも多い。自信家で女王様気質なところがあり、寮生のリーダー的存在だ。
「アイーシャはイカれてるからな」
オランダ人留学生のヘルベンが揶揄うような調子で言い、アイーシャが立ち上がる。
「ちょっと、どういう意味よ!?」
「え、なんか悪いこと言った?」
ヘルベンは思ったことをズバズバ言い、口が悪いので、時に他の寮生とぶつかることもある。
ふたりの間に立ち、一番年上で平和主義者な日本からの交換留学生、タカシが呼び掛ける。
「まぁまぁ、せっかくの集まりなんだから、楽しく飲もうよ」
タカシは日本では大学院生なのだが、現在交換留学生として一年間の滞在を予定している。穏やかで落ち着いた性格で、一番付き合いやすいが、部屋に籠っていることが多く、こうして集まりに参加するのは滅多にない。
国籍やバックグラウンドが異なり、宗教や習慣、考え方も違う5人だが、だからこそ面白く、視野も広がったようにサラは感じていた。
大学に入るまでサラは、『ザ・ナイン』の1つである上流社会の子女が通うパブリックスクールに通っていたのだが、もっと色々な世界を見て視野を広げたいと希望し、飛び級して今の大学に入学した。
ヨーロッパではオックスフォード、ケンブリッジに次ぐ大学ランキング3位に入っている世界最高位の理工系名門大学で、そのため世界中から優秀な学生が集まり、全学生の約半分が国外からの留学生となっていて、国際色豊かなことも特徴だ。
サラは周囲から特別視されることを恐れ、自分がクリステンセン財閥の令嬢であることも、叔父が世界的に有名なピアニストのステファンであることも隠していた。サラの大学の友人にもステファンのファンがいるため、もし彼が叔父だと知られたら、大騒ぎになるだろう。
パブリックスクール時代、ハウスと呼ばれる寮に入っていたが、男女別になっており、ハウスマスター(寮常勤の講師)やハウスキャプテン(寮の生徒代表)がいて規律正しい生活を求められていた。
サラの大学はロンドンの中心部にあるためか、寮があちこちに点在し、ひとつの建物がこじんまりとしたアパートのような外観で、入っている人数も少ない。
男女混在となっており、キッチンは同じ階の寮生と共用だが、トイレとシャワーは各部屋に備えられている。寮の管理人や代表生はいるものの、最低限のマナーさえ守っていれば何も言われず、かなり自由だ。規則が厳しいパブリックスクールでの生活が普通だと思っていたサラは、当初はあまりの自由さに戸惑うこともあったが、今ではそれが心地よく感じるようになっていた。
キッチンの横にはリビングルームが設けられており、そこには統一感のないカウチや椅子があちこちに置かれていて、食事をとれるスペースが設けられていた。
部屋の隅には、代々受け継がれている古いクリスマスツリーが飾られている。寮生が年々オーナメントやライトを増やしていくので、ツリーの緑が埋もれていた。その下にはプレゼントが置かれていたが、あまりの量に雪崩を起こしていた。
あちこちに点在していた椅子を寄せて皆で座り、ビール瓶を手に乾杯する。
『メリークリスマス!』
高らかに声が響き、瓶を合わせる。
サラは初めて飲むビールを手に、恐る恐る瓶を傾けた。
苦いっっ……!!
顔を顰めると、隣に座っていたフランス系イギリス人のハリーがサラの顔を覗き込んだ。
「もしかしてサラ、ビール飲むの初めて? 可愛いなぁ」
ハリーはどんな女性に対しても優しく、甘い言葉を掛けるので、勘違いさせてしまうことが多く、常に何人もの女性と関係を持っているのでトラブルが絶えない。パーソナルスペースが近いので、サラは時折どうしていいのか戸惑ってしまう。
「えぇ。18歳になったばかりですし」
サラがそう答えると、向かいに座っていた中国からの移民であるリンダが、慣れた仕草でビールを飲みながら付け加えた。
「サラは私と同じで、飛び級してるもんね」
彼女の中国名はイーランだが、イングリッシュネームも持っているため、ここではリンダという名前で通している。中国語は発音が難しいことと、国際社会を見通して、生まれた時からイングリッシュネームを持つ子供は少なくなく、留学先で自分でイングリッシュネームを作って名乗る者もいる。
リンダは12歳の時に両親と共に英国に移民してきた。子供の将来を考えて家族で外国に移民する中国人は珍しくない。子供は両親の期待を一身に背負っているため、優秀な学生が多く、リンダもそのひとりだった。
彼女はステファンの大ファンで、部屋にはポスターが貼られ、彼の記事が載っている雑誌が詰まれ、常にステファンの演奏が流れている。リンダがステファン愛を語っているのを聞くと、サラは居心地悪い思いになるのだった。
「でも、ビールなんてみーんな、18になる前に飲んでるのにね! 私なんて、エレメンタリースクールの頃から飲んでたわ」
父親がスコットランド人、母親がナミビア人のハーフであるイギリス人のアイーシャが豪快に笑った。浅黒い肌にエキゾチックな顔立ちのアイーシャは白人と黒人の優秀な遺伝子を受け継ぎ、魅力的な容姿からモデルとしても活躍し、SNSのフォロワーも多い。自信家で女王様気質なところがあり、寮生のリーダー的存在だ。
「アイーシャはイカれてるからな」
オランダ人留学生のヘルベンが揶揄うような調子で言い、アイーシャが立ち上がる。
「ちょっと、どういう意味よ!?」
「え、なんか悪いこと言った?」
ヘルベンは思ったことをズバズバ言い、口が悪いので、時に他の寮生とぶつかることもある。
ふたりの間に立ち、一番年上で平和主義者な日本からの交換留学生、タカシが呼び掛ける。
「まぁまぁ、せっかくの集まりなんだから、楽しく飲もうよ」
タカシは日本では大学院生なのだが、現在交換留学生として一年間の滞在を予定している。穏やかで落ち着いた性格で、一番付き合いやすいが、部屋に籠っていることが多く、こうして集まりに参加するのは滅多にない。
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