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恋も愛もないはずだったのに
しおりを挟む「ん、アリス?ど、どうした。……何故、泣いているんだ」
ギルバートは動揺しながらも、泣いている私に手を添え、ボロボロとこぼれ落ちる涙を掬いとる。その手はふるふると震えていた。
「私は1回もこんなことやったこと無かったのに、ギルバートは慣れてるんだなって。私たちにはあんなに恋とか愛とかどうでもいいとか言っておいてね。現に愛も恋心もない私とでも出来てるじゃない。その相手にさせられてる私は、虚しいに決まってるでしょう」
「は」
「……ほら、早く続きやって。ここから出なきゃなんだから、私のことなんて気にしないでさ」
もうなんでもいいんだ。
グズグズと鼻を鳴らしながらギルバートの胸元のボタンを外していく。もう早く終わらせてくれ。
目を見開いて固まった彼のシャツのボタンを解き終わると、私は自分のローブのリボンを外していく。
「いや待て。絶対、話をすべきだ。俺の話を聞いて欲しい。思っていた以上に何も伝わってなかったようだ。というよりもしや、アリスは知らないのか?」
「……ぐすっ、なにがぁ」
止めどなく流れるようになった目元から手を動き、彼の着ているシャツで拭うように顔を拭かれる。人の顔を拭くというのならば硬いシャツなどではなく、柔らかいハンカチとかを出して欲しかった。
正面を向いたギルバートの紅の瞳が真っ直ぐ私を貫く。
「俺はお前のことが好きなんだ。だから、この部屋に入ることが出来たし、元はと言えば俺が頼んでここに入れてもらったんだ。女関係について否定していたのは面倒な奴を避けるためであって、本気で好きな女に対してそんなこと思うわけが無いだろう。
そんな、俺の気持ちと正反対な発言をされると思っていなかった。
この部屋は好きな者同士以外を通さない。俺にもアリスにも愛がないなど、言いようがないんだ。だから、俺はリリアに協力する形でアリスをここに連れ込んだということもあるし。それに、そもそも俺はお前以外の女に性的な情を持って触れたことも無い」
「え?」
ギルバートが放つ早口な長文が聞き慣れず私は目をパチパチと瞬かせる。
それになに、リリアがこれを引き起こしたって?今、外で残されていて、治癒魔術と幻術以外の戦闘魔法を使えないのに?あのリリアに?
「君は俺のことを共に戦う仲間としか見ていなかっただろう。それならば少々強引でも意識してもらおうかとこういう手を取ったのだ。だが、その様子だとこんな卑怯な手を取った俺を嫌いになっただろう。でも、俺はお前を愛しているんだ……悪いことをしたと反省はしている」
頬に触れた布地の奥から先程の私と同じ様に半泣きになっているギルバートが見える。
なんで泣いてるんだろう。自分で強行的に作戦を行った上で凹んで、一方的に愛を囁いて。
それも私相手になんて、馬鹿じゃないのか。正直、こちらの方が気になりすぎてリリアのことなんてどうでも良くなってくる。
でもこれでハッキリとしたのは、先程の上手いだなんだというのは、真面目がすぎるギルバートが脳内でシュミレーションを繰り返し、実地で私の反応を見て変化をつけていたのだということ。
負けた相手にはとことん勝てるよう突き詰める彼のことだ、その執念で向き合えばさっきまでの数々が上手くてもおかしくは無い。にしては上手すぎるのだけど。
「いや、まぁやってる事は拉致監禁だし、悪いことはしてるだろうけどでも私はギルバートのこと、まだ、嫌いにはなってない……」
「あぁ、それは本当か。ありがとう、アリス。あと……すまないが、もう一度、体に触れる許可を貰えるだろうか」
ギルバートが物欲しそうに、獣のように、表情に欲を滲ませる。
「え、あ、いいけど。……うっ、あ」
腰から胸へと舐めるように手がすすめられる。
「ありがとう。悲しくさせてしまった分、絶対気持ちよくさせるからな」
するすると体を這うように進められる手に、まな板の上の鯉のような気分になる。
ドキドキと壊れそうな拍動を感じながら私はギルバートに答えた。
「よ、よろしくお願いします……」
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